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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
エルトナの治療(ジェゼロ)

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109 エラ様との対面


 一番上等な服を着て、三人でお城へ向かっていた。リリーとミトーが案内として付いてきてくれた。お仕事はもうお休みなのに面倒を見てくれている。


 昨日の訓練の内容を聞いて、リリーは困ったように笑っていた。決して意地悪で行ったことではないし、それをユマ様が止めなかったのにも理由があると。

 ユマ様ご自身が、ああいった大変な稽古を定期的に受けていて、普通の範囲だと思っているから止めなかったのだと教えてくれた。

 それに、限界を知ることで今後の訓練内容が変わるし、追い込まれた時の行動を見たかったのだろうと。

 とても大変だったけれど、いじわるをされたとは思っていない。ユマ様にお仕えするに値するかを見るためならば、あれくらいは当然だと思う。


 木漏れ日の落ちる急な坂道を登って、小さめの広場に馬小屋が見えた。その奥には塀があって、後ろにはお城が見えた。


「あれが、ユマ様のおうちですか」

 ニコルがきらきらとした目で見上げている。


「ええ、正直、ヒスラのお屋敷より小さいでしょう?」

 リリーが肩を竦めて答えてくれる。


 ユマ様はジェゼロ神国の王子様で、離れでの生活は不便しかないだろうと思っていたが、ユマ様は普段の生活から贅沢をしていなかったのだろう。


 馬小屋の中には背の大きい人がいて、気軽な感じで手を振ってくれた。ナゲルに似ている気がした。


 門番にリリーが話を通すと、身体検査をされた後、中へ入ることが許可された。

 石畳の緩い坂があり、周りには小さい建物があった。広場の端には木が整えられていて、他にも綺麗な花壇があった。


 ヒスラのメリバル様のお屋敷のような豪華さはないけれど、とても素敵なところだ。

 もちろん、王様にお会いするから緊張するけど、わくわくしている。ここでユマ様が育ったのだ。


 綺麗な音楽が流れてきた。誰かが練習しているみたいだ。とても上手で、可愛らしい音色だ。


「アリエッタ」

「あっ、はい」

 音楽に気を取られて足を止めてしまったので、慌てて追いかけた。


「いらっしゃい。母が……陛下がお待ちです」

 お城の扉の前でユマ様が待っていた。今日は女装ではない。


 女装していなくても、とても綺麗な方だ。そんな方の母君……それも、女王様……。きっとまぶしすぎて直視できないようなお方なのだろう。


 ユマ様に続いて、後ろをついていく。トーヤやニコルも少し緊張しているみたいだ。リリーは元々城警護で働いていたから、当たり前のような顔だ。

 最上階の奥にある扉。二人の兵士が立っていた。ユマ様が軽く手を上げると、目礼だけを返す。


 ノックをして、入れと女の人の声がした。

「陛下。三人を連れてまいりました」

「ああ」

 返事の後、ユマ様がやってくる。


「まあ、正式な謁見ではないから。どうぞ」

 言われて二人とユマ様の後に続く、リリーとミトーはここまでだった。


 部屋の中には二人いた。一人は昨日ユマ様といたベンジャミン先生様だ。もう一人はズボンに飾りボタンのシャツを着た若い男の人だ。


 青年? は腕を組んでいて、後ろに立つベンジャミン先生様は剣を帯刀して少し後ろで立っている。

 目端に、トーヤが跪くのが見えて慌てて真似をする。ニコルも従った。基本、礼儀作法はトーヤに合わせれば大丈夫だ。


「こほん、十四代目ジェゼロ国王、エラ・ジェゼロ様と拝謁するお時間を頂きました。面を上げて自己紹介を」

 少し硬い口調で、ユマ様が言う。予定の通りに、トーヤが最初に顔を上げた。


「トーヤ・クロサキと申します。アッサル国の騎士をしておりました。お目にかかる機会を賜り、とても光栄です」


 短い紹介の後、ニコルが顔を上げた。すぅっと息を吸ってから、いつもとは違う、落ち着いた声だった。

「ニコルです。ユマ様の許で見習いとして過ごしております」

 短い言葉の後、慌てて顔を上げる。


 まっすぐに見下ろす緑の瞳と目が合った。緊張して、ごくりと息を飲んだ。

「あ……アリエッタ・エリザータと言います。ユマ様の侍女見習いとして身の回りのお世話をさせていただいております」

 最初噛んでしまったが、あとはちゃんと喋れた。


「うむ……皆よくユマに尽くしてくれていると耳にしている」

 長い黒髪をまとめて、ユマ様の兄君……姉君のように見える。


「今は忙しくてな。本当ならば一人一人にユマの恥ずかしい話を聞いてみたいのだけどな」

「……母さん」

 ユマ様が少し拗ねたような声を出した。それで、目の前の方が、ユマ様の母親だとわかった。二十代前半くらいにしか見えないから、合致しなかった。それとも、継母なのだろうか。


「話を聞く時間は取れないので、ユマとの出会いから今迄について作文の提出を所望する。まあ、ユマが認めたなら私からとやかく言うつもりはないよ。給料の未払いがあればこちらで雇い入れることはできるから言ってくれ」

 男口調で女装されるユマ様とは逆だが、演じているようには見えなかった。


「お金がなくても、ユマ様のお世話をさせていただきます」

 ニコルがパッと口を開くとトーヤがそれ以上言うなと目線で止めた。


「うむ、そうか。ベンジャミンがそれぞれの成長のために訓練を組んでくれている。しばらくユマは休暇に入って会えないが、成長した姿を見せてやるといい」


 ベンジャミン先生様が頷き半歩だけ前に出た。

「以上で拝謁を終了……」

「とんとんとん」

 終了すると言いかけて、ドアの方からノックを真似した声がした。高い声で可愛い女の子の声だ。


「とんとんとん、なんのおと?」

 きぃっとドアが開いて、振り返ると白い髪に白い姿をした小さな女の子が立っていた。


「とんとんとんっなんの音っ」

 もう一度、女の子が言う。


「ふふ、ララがドアをノックしてる音だ」

 ユマ様のお母様がそう返すと膝をついた。女の子が駆け寄って抱き着く。後ろに立っていたベンジャミン先生様が軽く手を上げるとドアが閉まる音がした。


「どうした?」

「ユマ君のおともだちに会いにきました。ユマ君のおともだち。ララのおともだち」

 その女の子がユマ様の妹君だということは直ぐにわかった。女装のユマ様に似ていた。


「……ユマ君。ね?」

 抱き上げられた女の子がユマ様の方を見て可愛らしく首を傾げた。

 母親に抱きしめられている女の子を見て、じわりと、羨ましいなと思ってしまう。それと同時に、ユマ様がこうやって愛されて育ったのだと、とても嬉しくなった。


「はぁ……ララは僕の方で引き取ります。お時間を頂き、ありがとうございました」

 ユマ様が女の子を受け取って抱きかかえると頭を下げた。


「うむ。これからもユマを頼むぞ」

「はい」

「ぁっ、はいっ」

 トーヤとニコルの声に少し遅れて返事した。


「行こうか」


 ユマ様に声をかけられて立ち上がる。一度振り返って、王様に頭を下げた。ひらひらと手を振って返されてしまった。なんというか、不思議な人だ。





 塀の中に作られた建物の一つが、いつの間にかララの為に改築されていた。


 ピアノをはじめ、太鼓や笛やらが部屋に置かれていた。ピアノの上に昨日お土産であげた小さな横笛もあった。お店の中では品質のいい物を買ったが、明らかに見劣りする。一年の間にどこからこれだけの楽器が湧いたのか……いや。予想はできている。ジェゼロは次期国王だからと趣味に大金を出してはくれないのだ。


「あのね。お誕生日にいっぱい届いたの!」

 いっぱいを体で使って表現する。ちょっとソラっぽい動きだ。子供は悪いところばかり真似をする。


「あっ、さっきの音楽はここからですか?」

 アリエッタが思い出したように聞く。そう言えば、音楽が流れていたような……いないような。

 僕は芸術に傾倒はしているが、音楽は守備範囲外だ。人間、興味のない事は気が向かないものだ。


 ララがピアノの方へ走って行って、鍵盤蓋を開けると、でたらめに弾き始めた。

「………ぅわー」

 でたらめではない。


 普通に、綺麗な曲になっている。毎日どれだけ練習したらこの歳でここまで弾けるようになるんだろう。


「誰か音楽の先生が来てるの?」

「楽器の妖精さんがいるの」

 つまり、楽器と共に楽師が帝国から送られてきたという事か。内部調査と次期国王を教育して将来的に帝国に都合の良いようにということだろうか。


「ユマ様、そちらのお方は」

 トーヤが困惑している。


「ああ、この子はララ・ジェゼロ。僕の妹だよ。どうも音楽の才能があるみたいだね」

 前は、もっと感情が乏しい感じだったが、趣味を見つけて楽しくなったようだ。


「ララ様、初めまして、トーヤと申します」

「ニコルです」

「アリエッタですっ」

 トーヤ達が跪くとララが手を止めた。座る向きを変えて立ち上がる。


「私はエラ・ジェゼロの子、ララ・ジェゼロです。ユマ君がお世話になっています」

 舌ったらずはどこに行ったのかと言うほど流暢に言うと三人を見比べた。


「あなた達、なにか楽器はひけますか? 歌でもいいです」

 大人ぶった次の台詞は私利私欲だ。まるでうちの母親のような台詞だ。そうか、ララは母の子で、ソラの妹だった。


「えっと、笛をほんの少しだけ」

 アリエッタはそう言えば横笛を買っていたか。たまに練習していた気がする。


 こうして、アリエッタはララに捕まった。



ララが少し大きくなりました。

目が少し悪い(光に弱い)ので音に敏感な結果、音楽に傾倒しています。

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