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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
エルトナの治療(ジェゼロ)

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108  ロミアへの手紙


 夕方前にオーパーツ大学へ向かった。今日はベンジャミン先生が一緒だ。エルトナを実際に見て危険性の確認を行わなければならないらしい。


 移動は馬で、散歩がてらにキングを使わせてもらった。かなり大きな真っ黒な馬で、威圧感が凄く、足が速くて体力も優秀。何よりも母に対してベンジャミン先生並みに忠誠を誓っている不思議な馬で、ベンジャミン先生とは仲が悪い。喋れるわけではないが、睨み合う二人は何か暴言を言い合っている気がする。

 基本ジェゼロの家系とナゲルとその父のホルーの言う事しか聞かない危険な馬でもある。


「今日は、ガトが暇みたいですね」

 途中までキングの近くをうろうろしていたが、いつの間にかキングのお尻の上に座って尻尾でぱしぱしと叩かれているが、まったく意に介していない。


「最近はキングのところに遊びに来ているようですよ」

 キングとも相性のいい薄茶の牝馬に乗りながらベンジャミン先生が教えてくれる。


 キングに乗ると、とてもたかい位置から景色が見られる。古い町並みは三百年前できて、それから少しずつ変わったものだ。


 オーパーツ大学に入って、キングたちを馬場に預けてからソラを探す。流石に特別な確認がいるあの中には入れていないだろう。


 ベンジャミン先生が何人かに声をかけて、直ぐに居場所が分かった。食堂にいるらしいので向かうが、猫が足の近くを纏わりつくように歩いてくる。食堂や建物には入れてやれないのでしゃがんで撫でてから追い払おうとしたら、撫でられる前にするりとどこかへ行ってしまった。

 弄ばれている気がする。


 食堂は食事を提供している時間は決まっているが、席は自由に使える。

 昨日食事したのと同じ席でソラとエルトナが座っていた。大きな紙を広げて何やら議論している。ソラが楽しそうなのはともかく、エルトナはやや興奮しているようだ。


「ソラが迷惑をかけてませんか?」

「ああ、ユマ。大丈夫です!」

 いつもよりもぱっと明るい表情で返される。


「うへへ、ユマ君。この人私に頂戴。ちゃんと面倒見るから」

 ソラが気持ち悪い顔でいう。女の子としてこれでいいのかちょっと心配になる。


「エルトナ、こちら、国王付きで僕の先生でもあるベンジャミンです。先生、彼女が話していたエルトナです」

 とりあえずただの警護の人ではないとエルトナに紹介して置く。エルトナが立ちあがり、すっと頭を下げた。

「エルトナと申します。ユマ様には色々な面で助けていただきました。どうぞ、お見知りおきを」

「国王付きをしておりますベンジャミン・ハウスです。ユマ様からお話は兼ねがね。オオガミからもオーパーツ大学へ招きたい逸材だという話も伺っております」


 ベンジャミン先生の対応はトーヤ達に対するものと違い、正式な客人に対するものだ。あの三人は僕の命を守る立場として相応しいかを厳正に見ていた。対してエルトナは僕の友人で、オオガミにも認められているジョセフコット研究所から来た相手としてだ。


 エルトナの滞在理由をどうするか、悩んだがオオガミがオーパーツ大学の見学としてくれたのですんなりと申請は通った。エルトナはどうしてもジェゼロに来なければならないと言っていた。国にとって良くない事であれば責任を持って止めるが、そういう人物とは思っていない。


「ベンジャミン先生! すごいの! エルトナすごいの!」

 真面目な空気を無視して、ソラが大きな声を出した。

「これ! これねっ、新しいシステムなんだけど。ちゃんとわかってくれるし、今の技術だと追いつかない部品の代わりを考えてくれるの! 雇おう! てーおう様には私からお願いするから! ねっ!」

 思えば、僕はもちろんオオガミもこっちで働かないかと勧誘していた。そしてソラの御眼鏡にもかなった。多分母も勧誘する。エルトナは、ジェゼロの血を寄せ付ける何かが出ているのだろうか。


「ソラ様、ご本人の意思を尊重して勧誘をしてください。王族の命令となれば、望まずとも従わざるを得なくなる場合もございます」

 静かに諭されて、しおしおとソラが萎んでいく。基本ソラはベンジャミン先生の言うことは聞くのだ。


「少なくとも、一度はジョセフコット研究所へ戻ることを約束してこちらに来ていますから、このまま残ることは残念ながら」

 エルトナも言うと、ソラが机に突っ伏した。

「くそぅ。帝国は人材を無駄にしてるっ。開発にっ、開発部門とその管理にまわしたいのっ!」

 我が妹の我が儘が相変わらずなんだかおかしい。


「ソラは置いておいて、お邪魔してもいいですか?」

 僕は友達が少ないから、変な友達を連れてきていないのか心配されているのだろう。二人が少し奥に寄った。ベンジャミン先生が飲み物を取りに行ってくれた。

 位置的に、エルトナの横の席に座ることにする。


「体調は大丈夫でしたか?」

 うなされていたが、朝は普通だった。今も顔色は悪くない。

「まあ、少なくとも昨日のような事態にはなっていません。少し頭を使い過ぎているような感じはあります」


 ソラの手元を見ると、何かの設計図が広げられていた。残念ながらソラが本気を出した物は僕の頭では理解できない。オオガミでも難しくなるだろう。

「エルトナは、これがわかるんですか?」

 聞くと肩を竦められた。答えたのはソラだ。

「ふへへ、社外秘なのでお答えしかねます」

「他社の機密を安易に口外しかねます」

 エルトナも同意する。思ったよりも仲が良くなったようだ。少し嫉妬心が芽生えている自覚がある。

 思ったよりもエルトナは楽しそうでよかったとも思う。


「………」

 自分の感情になんとも微妙な感じがする。いや、朝の時点でわかっていたことだ。日中、アリエッタたちの死屍累々の可哀そうなのを見た後で落ち着くかと思ったが駄目だった。


 ソラと笑い合うエルトナは、とても可愛い。ソラの笑顔が霞んで見える。

 

「いくつか、お話しを聞きたいところですが、あまり時間を作れませんでしたので単刀直入に伺ってもよろしいですか?」

 ベンジャミン先生がエルトナに問いかける。ベンジャミン先生がソラの横に座っている。警護できたら席にはつかないが、今日は僕の保護者としてだ。

 エルトナが頷いた後、質問を続けた。

「ジェゼロ国への入国を熱望されていたと伺っています。どのような目的でしょうか」


 旧人類についての話をしていた。正直、僕はエルトナの事情を全て理解していない。暴いていいのかわからなくて詳しく聞けなかったのもある。


「……持病の解決策を知るために来ました。本来であればジョセフコット研究所の所長に相談すべきでしたが、生憎おりませんので、こちらにいるロミアに会うためにやってきました」

 ロミアは研究所でソラ担当の偉いさんだ。見た目はそれこそ十代後半くらいで、あまり姿を見せない。

 その名前は機密ではないが、帝国にいたエルトナが名指しするには不思議だった。


「ロミアに会いたかったの? なら本人に聞いてみるよ。先生も、ロミアが許可したらいいでしょ?」

 軽い調子でソラが問う。先生は、笑みもなく見定めるような目でエルトナを見ていた。


「……それに付いては国王陛下にも許可を得なければなりません。もうしばらく時間を頂くこととなりますがよろしいですか?」

「わかりました。ロミアには、こちらの手紙を渡していただいた上で、会うか決めていただければ」

 そう言ってエルトナは封がされた手紙を差し出した。


「……承りました。休暇を挟む可能性があるので、時間がかかることはご了承を。大学の視察という名目ですから、大学外へ出る際は事前の申請をお願いします。部屋はこのまま仮眠室を使っていただく形となりますが、よろしいですか?」

「わかりました」

 ベンジャミン先生が、淡々と食事を無料でとれる許可書や学内の立ち入り禁止区を説明する。それが終わったら立ち上がった。


「では、ソラ様。そろそろ帰宅の時間です。ユマ様も、まだララ様にお会いしていないのでしょう? 本日は城に戻っていただきます」

 それだと、エルトナが慣れない場所に一人きりではないかと思ったが、当のエルトナは特に気にしていないようだ。


「一年ぶりの帰郷でしょう。私の方は自分で何とかできますから、家族を優先してください」

 そう言われて、苦しそうに母親を呼んでいたエルトナを思い出してしまう。


「ソラ様からいくつか暇つぶしを頂いてますから。また数日中にでも会いに来てください」

 そう言って見送られてしまった。


 帰りはソラと二人乗りでキングに乗って帰った。ついでに猫がまた尻に乗ってキングが鬱陶しそうにしている。


 夕食で末っ子のララに会ったら盛大に突進された。会いに来るのが遅いとおかんむりだった。もうすぐ六歳で、随分と言葉が達者になってしまっていた。




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