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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
エルトナの治療(ジェゼロ)

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106 保護者の品定め


 ユマ様と宿舎のある場所まで下りていく。


 背が以前よりも伸びられただろうか。顔立ちも幼さが抜けてきている。幼いころはエラ様にとても似ていたが、性別の違いがみられるようになった。

「今日はお付きがいるのですね」

 ユマ様の足元に黒い尻尾がちらちらと見え隠れする。建物を出てから少ししてやってきたユマ様を好いている猫だ。


「お腹が空いているんでしょうか」

 エラ様と同じく、ユマ様も動物には好かれる性質だ。この黒猫はジェゼロの家系全員に寄ってくる。特に餌をねだるでもなく、むしろ定期的にネズミや虫を前に置いては去っていくこともある。ソラ様以外はありがとうと言っているが、それに対してソラ様だけは悲鳴を上げる。別に撫でられるためでもないようで、少し変わった猫だ。他の猫は腹を見せたりと、エラ様たちにひたすら愛嬌を振りまくことが多い。


「ユマ様が久しぶりに帰られたので近くにいたいのでしょう」

 時折にゃうにゃうと鳴くのでそれに返すようにユマ様もニャーと鳴く。なんというか、エラ様に似て大変に可愛らしく育っていて心配だ。


「結構な大怪我をされたと聞いていましたが、怪我の具合などは如何ですか?」

「えっと、幸いにも丈夫な家系ですから」

 普通は死んでも不思議がない怪我だったとカシスから報告が来ている。


 エラ様の、ジェゼロの血が尊いというのは血族を優位にするためではない。本当に特殊な血を持っている。動物に好かれるのも、怪我の治りや病に強い事も、その一部の特性だ。だからといって死なないわけではない。

「あまり心配させないでください。助けに行ける距離でもないのですから」

 一人前として認めるべきだが、心配なものは仕方ない。


「はい」

 この返事は、あまり従う気がない雰囲気だ。


「さて、それで三人は信用できると連れてこられたのですね」

 怪我をするなと言っても、する時はする。それよりもユマ様の口からこれから会う三人の情報を聞きたい。


「はい。僕を裏切ることは、今の段階ではないと思って連れてきました。ジェゼロに対する忠誠心ではないので、僕自身の部下としての扱いにできればと考えています」

 去年は、孤児院とジェゼロ国外での使用を想定していた。国境までこちらが出向き、確認ののち子供は入国、他二人は国外勤務を与える予定だった。

 事前に変化があったことは聞いているので、それに見合った対応は考えている。


 買った五人の内三人信用できるというならば十分だろう。

 ユマ様の話を聞けば、三様に努力して認められようとしていること、命を懸けてでも助けようとする気概もうかがい知れる。


 一番言えた義理ではないが、ユマ様に対して不埒な考えがないかが心配ではある。


「長い時間を使って信用に足るかを判断した結果であれば止めはしません。今後、仕えたいと言うものが出ても、同様の結果があたりまえに出るとは考えてはいけませんよ。人は良くも悪くも変わります。それぞれに家族ができ抱えるものができればユマ様が第一ではなくなるかもしれません。常に、人は裏切る可能性があること、だからこそ、自分の行動にも、他人の行動にも注意を払わなければなりません」

 説教臭いとはわかりながらも、まだ若いユマ様に伝えて置かなければならない。


 これはハザキと自分の関係にも当てはまる。

 シューセイ・ハザキは議会院へ大きな意見力を持っている。牛耳ろうと思えばできるのだ。自分は国王付きとして政治には関与できないとされているが、王の最もそばで働き、仕事の調整や手伝いを行っているのだから議会院のように方向性を決める場には参加できなくとも、いくらでも舵を切り替えることができる。そこをはき違えないように、互いに監視する形になっている。無論、他の議会員や警護に対しても同様に注意は払っているが、信頼していたとしても、全てを信用してはならないのだ。


 だからこそ、自分はハザキを信頼している。無意識に国ではなくエラ様だけを重視していれば、修正をしてくれる貴重な人材だ。


「はい。正直、なんでこんなに好かれているのか謎なので、呆れられないように気をつけたいと思います」

 ユマ様のように可愛らしく美しく、賢くて素直で努力家で慈悲深いエラ様に似た童子を好かない者の方が異常でしょうと言う言葉は飲み込んだ。


「驕らず真摯に行動すれば、大丈夫ですよ」

 エラ様の遺伝子に感嘆していると、宿舎に到着した。先に出ていたハザキが五人の前で立っている。

 リリーとミトーの他、見慣れない三人。その者たちがユマ様の連れてきた者たちだ。


 最初に目が言ったのは黒髪に黒に近い眼の男。剣術に心得があるだろう体躯をしている。ハザキに少し似た雰囲気があり、人種が近いのだろう。話からするにトーヤと呼ばれる警護志望か。


 リリーの隣にいるのはソラ様と同年代の少女で、肩より長い灰色の髪に茶色の眼をしている。体の前で手を組んで、緊張しながらも背筋を伸ばしていた。孤児院に預ける予定だったが、義務教育程度の算術と語学はもうじき終えるようで、孤児院ではなく侍女見習いとして努めているという。ユマ様が時間契約者を競り落とす理由になった子供で、三人の中で唯一ユマ様が苦手とする女であるアリエッタ。


 もう一人、アリエッタよりは背は高いが小柄な少年。薄茶の癖っ毛に張り付いたような緊張した笑みを浮かべている。ハザキがじっと凝視しているのもその子供だ。ニコルと言ったか。その横には犬がいて、じっと座っていた。


「お待たせしました。道場は使用できますか?」

 声をかけると、視線がこちらに向いた。三人がユマ様を見てほっとしたような顔を見せた。


「リリー。ミトー。ご苦労だった」

 ハザキに仕事はいいと言われ、二人が一瞬見合った後困ったような顔をする。

「見学をさせていただいてもよろしいでしょうか」

「……今は連携を見る場ではない。合格が出た後であれば、個人の好きにすればいい」

 許可はされなかったが、個人的な世話を焼くことまでは止めないとのことだ。


 アリエッタはリリーと同室にしている。トーヤとニコルが同室だが、ミトーにも隣の部屋を仮眠室をしばらく使えるように手配している。

 少なくとも、ジェゼロからの警護も、元奴隷たちを蔑むことなく同僚として受け入れているようだ。





 エラ様の息子であるユマ様は、エラ様ではない方に似ていると思っていたが、エラ様の悪いところはしっかり似てしまったらしい。


 道場は昼前だが何人かが稽古をしていた。外務統括という役職だが稽古場ではそれ以前に鬼のような扱いを受けている所為で、直ぐに稽古を中断して全員が壁際に寄ってしまった。

 無論、ユマ様がご一緒だからと言う理由もあるだろう。


「どうされました。シューセイ殿」

 元城警護で、今は引退し道場の師範に降りた男が寄ってくる。

「彼らの技量を見にきた。数がもう少し欲しいところだったので丁度いい……」

 顎に手をやり、辺りを見る。十人足らずでは少し心もとない。自分とベンジャミンも数に入れればなんとかなるか。


「ほう……どの程度の鍛え方にしますか」

 引退後、道場に残るものは自虐趣味兼加虐趣味が多い。こちらの意図する事を理解して、目が笑っている。こういう者がいるから、ジェゼロは平均はそれほどでもないのに一部が突出してしまうのだ。


「死なない程度で頼んでもよいか?」

「承知しました。もうじき他の者も来るでしょうが、それほど長くはかからないでしょう」

 言うと、門下生を集めに行く。


「ハザキ……」

 ユマ様が心配げにこちらを見る。何も殺そうとは考えていない。

「そちらの子供は私が相手をしますので、ご安心を」

 二人は鍛えているのがわかるが、女児はできても受け身くらいだろう。


「二人には、木刀での打ち合いをしてもらう。五秒以上止まることなく、ひたすらに打ち込むように、途中、一本を取られれば力不足と判定する。相手は順次交代するが、其方たちは直ぐに続けるように」

「……時間はいかほどですか」

 トーヤと名乗った男の方が、意味を理解して神妙な顔で問う。

「私がいいと言うまでだ」


 シゴキに対して文句を言うでもなく覚悟を決めた顔をする。その後トーヤはもう一人の少年、嫌な雰囲気のするニコルと言う子供を見下ろした。

「ニコル。常に攻め続け、致命傷は受けてはならない。それと同時に、相手に致命傷を与えてもならない。ここはユマ様の国。その国の民を傷つければ、ユマ様は悲しまれる。いいな」

 まるで、子供が道場生を殺しかねないという言い草だ。


「えっと。はい。頑張ります。あ、僕は長剣ではなく、短剣をよく使うので、短いの二本でもいいですか?」

「ああ、構わん」

 こちらの言葉を聞いて、二刀流で使う小刀程度の竹刀が用意され、ニコルが慣れない手つきで防具をつけるのをユマ様が手伝っている。


 ユマ様の警護を任され、彼らに稽古をつけていたカシスは実践に向けた訓練をしていたと聞いている。カシスも大概な男だ。今の平和なジェゼロよりもどこか内乱の国に産まれた方が幸せだったろう。


 ユマ様が二人に何事かを言われ、二人とも神妙な顔で頷いていた。さて、どれほど持つか。


「では、アリエッタと申したか。彼らと同じように、休まずにかかってくるように。こちらからは攻撃はしないので防具はいい」

「はっ、はい」

 女児もちらりとユマ様の方を見て、頷き返されて渡した竹刀を構えた。


 リリーが最低限の基礎だけは教えていると言っていたが、それほど筋はよくないと聞いている。




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