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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
エルトナの治療(ジェゼロ)

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105 帰城


 朝食を持って入る。女装姿はあまりよくない事を思い出すらしいので、中性的な恰好にしておいた。


 待っていたエルトナも身なりを整えている。言っても、僕のように無駄に手が込んでいるわけではない。清潔感はあるが、地味な恰好で、これはこれで中性的と言えるのかもしれない。実際、男の子と間違えてしまったくらいだ。


「これは妹のソラ・ジェゼロ。まあ、ジェゼロとはついていますが、オーパーツ研究狂いの変態です」

「ひどす」

 ソラが酷いですを略して変な言葉を言う。


「ソラ、こちらは留学先でお世話になっているエルトナです。ソラ、彼女はオーパーツに詳しくて、賢いので止めても寄っていくだろうけど、無茶振りはしないように」

「はい!」

 元気よくソラが手を上げる。


「エルトナお姉ちゃん、と呼んだ方がいいですか?」

「僕の事、お兄ちゃんとすら呼んでないだろう」

 どういう意味かは深く聞かないでおく。


「はじめまして、ソラです。正直、無理やりにでもお友達にするので覚悟してください!」

「エルトナと申します。ジェゼロのお血筋の方にお会いするには不適切な恰好で申し訳ありません。オーパーツなどは一通りの知識がございますので、何かお役に立てれば幸いです」


 エルトナが畏まって言うと、きょとん顔のソラが首を傾げた。

「はっ、あたし、実は偉かった!」

「エルトナが他国視点の常識的対応をしただけだよ。そんなに謙らなくても、普通の対応で大丈夫です。ソラが図に乗りますから」

 頭を捕まえてソラを見下ろす。これでも人としての道徳はある子だ。オーパーツ開発以外は……。


「兄弟仲がいいんですね」

 エルトナの表情が柔らかい。うう、心臓に悪い。

「はい。ユマ君とは仲良しです」

 まあ、仲はいいか。


「ユマ、飯食ったら城いくぞ。こっちは……心配だけどソラに任せるか」

 城に行くのはいいが、エルトナを置いていくのは心配だ。

「私の事は気にしなくて構いません。折角なので、校内を見学できるとありがたいですが」

 顔色もいいし、体調は悪くなさそうだ。


 朝食を取ってから、支度を整えて城へ戻る。

 大学内なら、ソラはよく知られているので任せても問題ないだろう。

「………ソラ、余計な事とか、変なことは言わないように。もし、エルトナの体調が悪そうだったら、無理せずに休ませるように。後、何かあったら知らせを入れるように」

「ユマ君。信用してよ。オーパーツ大学の隅から隅まで知り尽くして好き勝手に改良しているこのあたしを」


 やる気を出しているのが心配だ。



 一年ぶりに実家へ登る急な坂を進む。前傾姿勢の馬の揺れに任せて上を見上げた。木々の間から、小さな城が見える。メリバル邸はもちろん、帝王が用意した屋敷の何分の一だろうか。


 馬小屋でナゲルに馬を任せて城壁を超え、広場のような場所を抜ける。

 懐かしいというか、いつもの景色と言うか、不思議な気持ちだ。

 今の時間はもう執務室にいるだろうと、城に入ると階段を上がる。

 昔描いた絵が廊下に飾られている。

 残念ながら、あまり進化していない。留学が終わるころまでには、未熟な絵だと笑えるようになるのだろうか。


 王の応接室の前にはいつものように城警護が駐屯していた。黙礼してドアをノックする。

 少しして、ベンジャミン先生がドアを開けてくれた。それに無意識に笑顔になってしまう。


「お帰りなさいませ、ユマ様」

「ただいま戻りました。ベンジャミン先生」

 返事をすると、先生も柔らかい笑みを返してくれる。ジェゼロに戻ってきたと妙に実感した。


「エラ様がお待ちですよ」

 案内されて、奥の執務室へ向かう。今は忙しい時期だろうに、嫌な顔一つせず母も出迎えてくれた。

「おかえり、ユマ」

 無遠慮に抱きしめてくる母親は数年前に背を越してしまったというのに、妙に大きく感じる。


「もどりました。色々と、ご心配をかけて申し訳ありません」

 二度背中を叩いた後、解放された。


「うむ、面白小話は島で聞くが、概要の報告はしておいてもらわないといけないな」

 面白小話があるかと言われれば微妙だが、一年目の前期に比べ、その後の一年は色々とあった。むしろ、去年の報告は時間契約者を買ってしまったので留学後どうするかだけだったとも言える。


 とりあえず、順番に薬草園へ行った後、同行していた友人の誘拐事件に巻き込まれた事。その際に今回連れてきた二人が助けに来た事。冬休みに帰るはずが帝都へ連れていかれ、解放した元時間契約者の働く孤児院へ見学に行く際、うっかり川に落ちて、ニコルと凍えながらもなんとか助かったとおもったら、子供と一緒に狩られかけた事。帝王との謁見で、留学先の統治区を粛清すると言い出し、流れで監督をさせられる羽目になったこと。新しい統治者を立てて、都区へ確認に向かったら色々あって怪我をしてしまったこと。


「後、研究校の近くに建っていたお屋敷を僕用にと渡されました。多分、完成してからの予定がいきなり留学に行ってこいとなったので、メリバル邸に預けられたのだと思います。一応、お借りする形にはしていますが……」

 実家の城より大きな屋敷をあげると言われて、どうすればいい物か。


「別にこちらからくれと言ったわけではないのだから、留学から戻るときに礼状を書いて終わっておけばいいだろう。契約書を交わしていないなら、帝王もそこにずっと住めとは言うまいよ」

 なんとも軽い返事が来た。


「ユマ様、帝王陛下の好意に一々礼を返していては、ジェゼロは直ぐに破産します。次に会う機会があったら、作り笑いでもいいので満面の笑みでありがとうございましたと言って置けばいいんですよ。屋敷くらい安い買い物だったと喜んでくださるでしょうから」

 ベンジャミン先生までもが軽い。いや、重いのか……。

 怖いので何があったのか詳しくは聞けない。いや、オーパーツ大学の建築費用を考えれば、確かに、屋敷はまだ安い方なのかもしれない。


「まあ、私が言うのは何だが……一年でよくもまあ色々とやらかしたな」

 母は半年ほどでナサナ国を経由して帝都まで旅をして、両国の協力を得て、王座を奪還したと聞いている。まあ、それに比べれば、可愛いものなのかもしれない。ただ、母の場合は已むに已まれずだった。僕は流されに流されてだ。


「その……後期も留学を続けても問題ないでしょうか」

 最悪、このまま終了も覚悟している。


「お前が行きたいならば別に止めはしないぞ?」

 これだけ各所に迷惑をかけたのだからとか、色々と想定していたが、あっさりと許可が出た。思わずベンジャミン先生の方を見てしまう。先生も許可しているのだろか。

 ベンジャミン先生は苦笑いを漏らしていた。

「ユマ様が希望するのであれば」

 放任なのか、緩いのか、許容範囲が異常なのか、改めて謎だ。僕に子供がいたら、流石に心配して留めるかもしれない。


 子供と考えて、ちらっと浮かんだ顔にうっとなる。


「そう言えば、ベンジャミンに会うよりも友達の看病を優先したそうじゃないか」

 にやっと母がオオガミみたいな笑みを浮かべた。


「あ、ええ。えっと、ジョセフコット研究所で働いている人で、一つ下らしいですが、とても優秀です。色々とお世話になっていたので、今回は許可が出てよかったですが、ナゲルの判断でオーパーツ大学でしばらく静養予定です。なので、こちらにはいつ連れてこられるかわかりません」

 紹介したいような、下手に茶化されるのも嫌だしと言う考えも浮かぶ。何せエルトナは僕に対して何の感情もないのだ。


「そうか、また機を見て会いに行ってみよう」

「エラ様」

 ベンジャミン先生はただ名前を呼ぶだけで、その前に働けと圧をかけた。


「他の三人に関しては、ベンジャミンとハザキの一次試験を突破したら、会ってもいいだろう? 息子の初めての直属の部下だからな」

「……ユマ様と一緒に向かう予定です。我々が島に行く間、折角ですからいくらかの研修をさせる計画がありますから、予定のもので問題ないかも確認しておきます。エラ様との謁見はこちらで日を決めますから、勝手に脱走などはなさらないように」

 いい歳の王様だというのに、母は落ち着きがないままだ。


「ユマ様、少し仕事の調整をしてから宿舎に向かいましょう。しばらくお待ちください」

 一番偉いのはジェゼロ王たる母だが、場を調整するのはベンジャミン先生だ。警護の一人に指示をした後、先生は執務室の方に戻る。僕は一つ手前の応接室の長椅子でしばし待機だ。


 窓からジェゼロの山並みが見える。下から、なぅなぅと声がして窓から覗き見ると、黒猫が歩いていた。鳴き返すときょろきょろした後上を向いた。

 子猫の頃に助けて、それ以来たまにだけ顔を出すガトと言う猫だ。他にも黒猫はいるから、ここからだとはっきりしないがあの鳴き方はそうだとおもう。


 窓際から見ると、大きな湖と、一つきりの小島が見下ろせる。

 故郷といっていい景色だ。


 思い出したくないこともあるが、基本的に家族とは仲が良くて、不自由ない暮らしをしてきた場所だ。

 やはり、トーヤは一度国に帰らせてあげるべきだったのだろうかと、ふと思ってしまう。けれど、こちらを選んだのは彼だ。それを尊重してあげるべきだろう。

 自分の生まれ育った場所に戻って、余計に心配になってしまった。




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