104 ソラの寝起きドッキリ
なんで、こっちで見とくなんて言ったんだろう。
ナゲルには、なんか、心臓が変だからと伝えたら、軽く診察した後、まあ、たまに死ぬけど基本即死性のない状況だから様子見でいいと、妙にニヤついてた顔で言われた。とりあえずなぜかむかついたので蹴っておいた。
ナゲルも隣の部屋に行ってしまって、部屋にはすーすーと言う寝息が聞こえるだけになった。
うなされるよりはいいが、何とも、もやもやする。
ソラやララと共寝することは多い。誰かの寝息が聞こえても大して気にしないたちだと思っていた。
「………」
長椅子が寝にくいのだろうか。
野営訓練を考えれば、寝やすい方だ。
「……」
何か、小さい声が聞こえた。
「さん……おかぁ……さん」
泣いているわけではなくて、寝言のようだったが、とても、寂しそうに聞こえた。
どうせ眠れないからと、長椅子から起きて寝台の横に腰かけた。
お腹のあたりを、軽く規則的に手を置く。まだソラが生まれるより前の小さいころ、ぐずった時にベンジャミン先生がしてくれていた。因みに母は子育てが苦手だった。今思うと、幼児の間は母の寝室にいたのだが、そこでベンジャミン先生を見た気がする。あそこへは本来、王である母と乳のみ子くらいの王の子しか入れない場所だ。
あまり親のことは深く考えないでおこう。
優しい温もりを思い出していたら、そっと手を掴まれた。嫌だったのだろうかと目を向けると、小さい手がぎゅっと握っていた。すやすやと、気持ちよさそうな顔で寝ている。
すっと、可愛いなと頭に浮かんだ。
すとんと、今の気持ちが胃に流れ落ちてきたような、妙な感じがした。
「ユ……ぁ」
言葉になっていない寝言で名前を呼ばれた気がした。腑抜けたかおで眠る顔が、どうしようもなく、愛しい。そう自覚した。
ユマ君を起こすために、朝早くから城を出て、夜明けとともに仮眠室に到着した。
マイクと寝起きドッキリの看板を用意できなかったのが悔やまれる。
オオガミがよく使う仮眠室。鍵は簡単には開けられないタイプだが、抜かりなくスペアを作っている。
音を立てないように鍵を開けて、するりと中へ侵入した。
本当はあたしもこっちにお泊りしたいというのに、よっぽどでない限り許可してもらえない。昨日はユマ君が泊まるなら余計に駄目だと言われた。あたしはユマ君に比べて信用がないのだ。仕方ない。日頃の行いだ。
とりあえず、ケータイを取り出して写真を一枚撮った。
ベッドに凭れかかるように眠っているユマ君と、その手を握ってニマニマしている子供がいる。子供はこっちを見て、ニマニマ顔からぽかんとした顔へ変わっていた。
ふと、これはあたしが不法侵入者扱いではないのかと、はっとした。
「ソラです。ユマ君の妹です!」
早口で言うと、慌てたように女の子? がユマ君の手を離した。
「あ、エルトナと申します」
「ん? ……ソラ?」
ユマ君が眠そうな声を出した。くっ、もう起きたらしい。昔からユマ君は朝が強い。あと五分とグダグダなどしないのだ。
すっぴんで女装していないユマ君があくびをしながら立ち上がり、肩を回していた。そのままやってくると、両脇を掴まれて抱えられ、ぽいっと部屋から追い出された。あまりにも洗練された無駄のない妹撤去の動きだった。
「ゆぅうまぁぁぁあくぅーん!」
鍵までかけられた。酷い。
「なんだ、朝っぱらから怒らせてるのか?」
眠そうなちょっと髭が生えてるナゲルが後ろから声をかけてくる。
「ナゲル、見てこれ」
撮れたてほやほやのスクープ写真を掲げると、気のない欠伸のような返事が返ってきた。
「そーか」
「そーかじゃないでしょ」
頭に大きな手が乗せられ、屈んだナゲルが目の高さを合わせた。
「兄ちゃんが、ずっと童貞でいいのか?」
部屋の中までは決して聞こえない音量だが、不思議と耳に響いた。小さく頷いて、画像を削除した。女の子に対してセクハラ発言だが、なぜだろう、兄を心配する友人の言葉は、私の心にとても響いて、素直に従ってしまった。
「偉い偉い」
褒めた後、立ち上がったナゲルがノックする。
「ユマ、起きたか」
声をかけると直ぐに鍵とドアが開けられた。
「おはよう」
「おはよう。エルトナは大丈夫そうなら、身支度整えてくるか?」
「……そうする。ソラもこっち。後で朝食を持ってきます」
出てきたユマ君が振り返って言う。
「わかりました。あ、いつもの恰好で、もう問題ありませんから」
中の子がそう答えると、ドアが閉められた。そして冷ややかな目でユマ君に見下ろされる。
「ごめんなさい」
「ソラ、勝手に入らないように。後でちゃんと紹介するから」
ユマ君が怒った時は、いい訳よりもまず謝罪だ。そして、こういう時は絶対に命令を順守するべきだ。ユマ君は、嫌われると困る。




