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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
エルトナの治療(ジェゼロ)

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103 引きずられる感情


 ソラを送ったら、ララが私もユマ君に会いたかったのにと駄々をこね出した。一年前はおませな幼児だったが五歳か六歳になって、顔立ちも随分はっきりしてきて、小さいころのユマによく似ていた。

 泣きそうになられてしまい、ベンジャミン先生が出てきて場をおさめてくれた。明日にはユマを連れてくることで何とか落ち着いたが、先生もララに負けないくらいユマの顔を見たいと目が語っていた。


 馬小屋で親父には事情を話してオーパーツ大学へ戻ると、仮眠室の前に椅子を置いて、夜空を見上げているユマがいた。

「どした?」

 なぜか黄昏ている。


「……おかえり、エルトナに、簡単な食べ物持ってくるから、その間に診察しておいて」

 こちらを見ると、ふらりと立ち上がった。とぼとぼとでも言うような足取りだ。

 ノックすると中からエルトナの返事があった。


「おー、大丈夫か」

 軽い調子で中へ入る。帝都でユマ達への怪我や毒の処置の仕方も学んだが、そこでの師匠から教師代の代わりにと一つ頼まれたのがエルトナの診察だった。


「はい。ユマのお陰で落ち着きました。ところで、あの時何の薬を与えられたんですか?」

 エルトナとはそれほど付き合いがあるわけではないが、歳に似合わない淡々とした物腰は確かにいつものものだった。ただ、泣いたのだろう痕跡が見られた。


「こちらに運んだのはナゲルの案だと聞きました。どこまで私の症状をご存じですか?」

「正直、薬を渡されて、症状が出たら適宜渡せってくらいだ。後、出発前に所長代理経由で今回の薬と対処法も渡された。ジェゼロに入って発作が起きたら飲ませるようにって。結構きつめの薬だから事前に飲むのは避けた方がいいのと、飲ませた後はオーパーツ大学で静養させとけって。その後はオオガミに話たらなんとかしてもらえるように話は通してるってよ」


 ジェゼロの血筋は特殊で、それに対する処置の仕方や特殊性は結構しっかりと教えてもらえたが、エルトナの持病についてはあまり教えられていない。正直そこまで必要な知識と思っていないので頼まれた分の診察は行うといった程度しかできない。


「以前頂いたものとは別物ですか」

「ああ、今回のは治療薬ってよりは、発作を止めるための薬らしい。脳にかかった負荷を抑えるために機能を抑制させる。必要なければ投薬するなって注意が書かれてたくらいだ。思ったより効きがよかったみたいだが、持続も短かったな。夜中くらいにならないと目が覚めないかと思ってたぞ」

「まだ薬の効果は残っているかもしれません。目覚めた時はかなり不安定になっていました。ジェゼロ国内にも対処できる方がいるなら、早めにお話しをする機会をお願いしますとお伝えください」

 実際不安定になったのは確かだろうが、今は何とも普通だ。


「……ユマとなんかあったか?」

 聞くと苦笑いを返された。

「少々醜態を晒しました」


 ユマがエルトナを随分と気に入っているのは知っている。上手くいけば女性恐怖症の打開策になるかもしれないと期待していたが、ユマはかなりしょんぼりとしていた気がする。


「今晩は念のためにユマを置いとくつもりだ。明日にはあいつ連れてくけど大丈夫そうか?」

 見知らぬ場で目を覚まさせるのはまずいだろうとユマが残るのに賛成したが、あの調子だと置いておくのも心配だ。


「ユマが迷惑でないなら助かります。折角の帰郷だというのにご迷惑をおかけします」

「しばらくはこっちにいるから別にいいって」


 少しして、ユマが戻ってくる。やはり元気がない。

「お前、今夜はここでいいのか? 俺は隣借りるけど」

 食事を並べてから長椅子に腰かけたユマに聞く。


 当初、ここに仮眠室はなかったが、研究室に無断で泊まり込んだり、あまつ野営を始めた某オオガミなどのお陰で仮眠室ができた。申請せずに使用はできないし、無断で夜間に残ることは禁じられている。

 もちろん、今回は申請済みだ。ソラやユマが残るとなれば警護も別途追加しなければならない。


「あ……、エルトナの邪魔でなければ」

 歯切れが悪い。

「むしろ、私がそちらで眠る方がいい気がします。ベッドはユマが使ってください」

「いえ、僕がこっちで問題ないです」

 平常運転のエルトナにユマが慌てて返す。


 ふと、男女を同じ部屋に放り込んどいていい物かと思ったが、このままだとユマは結婚どころか色々苦労するだろう。エルトナは王子と知って襲うよう想像もできない。

 いっそなんか過ちがあったほうがいい気もするから放って置こう。





 ユマに対して、どうしようもなく愛しいという感情が膨らむのを自覚した。ユラ・ジェゼロ様と面差しがとても似ていた。いや、実際の姿とは似ていないのかもしれないが、女装姿のユマを見ると、どうしても同一視してしまう。


 二つ目の記録がどういった感情を抱えていたのか、今ならばありありとわかる。


 好意を返されずともいいくらいに、愛していた。

 それでも拒絶されれば悲しいらしい。普通ならば絶望し、恨んでも可笑しくないのに、国を追い出されてからは女神に更に傾倒していった。

 愛を返してくださらなかったユラ様と同じ顔をしたユマが、優しく抱きしめてくれた。それだけで、すべてが報われた。そんな気持ちになっていた。


 あの薬は以前飲んだものほど効かなかったのは確かだ。それとも、残滓が影響していたのか。

 それでなくとも、急にパニックを起こし泣き続ける相手を介抱するのは大変だ。ユマの高級そうな服を鼻水塗れにしてしまった。その上で、化粧まで落とさせて、ユラ様とは違うユマの顔に安堵する身勝手な相手に、ユマは嫌な顔一つしなかった。


 普通にしていても、好意を抱きそうな相手に、過去の失恋相手を重ねればもう引っ張り込まれるようなものだ。それも見方を変えればストーカーなど可愛いものと思える恋慕だ。神の御使いと崇め、一大宗教に仕立て上げるほどだ。私でも引く。


 だからこそ、二つ目の懸想を引きずって、ユマに好意を抱くのは避けたい。それに自分に好かれてもいい気はしないだろう。自分でも、貧相だと自覚している。胸はこれ以上成長しないだろうし、背も最近めっきり伸びなくなってきた。

 ロリコンならば多少価値はあるが、それならば普通にアリエッタが対象になるだろう。


 部屋の外でユマとナゲルが何か話しているのを感じながら、湯あみを簡単に済ませて服を着替える。シャワーと鏡が完備されていた。流石はオーパーツ大学と感心した後、泣き腫らした顔の不細工さに慄いた。


 そもそも、私が二つ目の感情に引き摺られユマに懸想したとしよう。

 正直、それで終わり。精々友人止まりで進展などないだろう。もしくは二つ目同様に失恋エンドだろう。私だったらこんなのにときめかないし、ユマほどの美形は美少女ないし美女とくっつかないと世の道理が成り立たない。


「まあ……悩むだけ馬鹿か」

 シャワーを浴びてさっぱりしたのと、鏡と言う現実を見たのがよかったのか。すこしすっきりした。


「お待たせしました」

 外に声をかけると、二人が振り返る。ユマは待っている間に着替えたらしく質素な男服で寝間着のようだ。


 二人が部屋に入ってくると、ユマは長椅子で、ナゲルは丸椅子。私はベッドに腰かけた。

 これを誰かがみたら男子会にしか見えない自信がある。


「それにしても、ジェゼロ国内のユマの警備は大丈夫なんですか?」

 以前、ユマにだけ秘密を打ち明けたいと警護に下がってもらおうとしたら拒否された。今思えば当たり前だ。

 ジェゼロの王太子と、庶民……女神教会司教の養子とを二人きりにはできまい。

 だが、今日はこの部屋に二人きりの時間が随分長かった。少しでも私に暗殺技術があれば、ユマの喉首を切れていたかもしれない。まあ、研究所では、ユマにバイトとして働いてもらっている間はよく二人きりになっていたが。


「カシス達のの警護は国外での話ですから。国内では、まあ……こんなものですよ。誘拐の危険性は考慮していますが、僕が母の子であることは別に隠していませんし」

「………普通は、暗殺を考慮したり、常に警護を帯同させるものですが」

「正直、留学当初は常に誰かがいるのに慣れませんでしたよ」

 なんと言うか。流石ジェゼロ。こういう所は、変わっていないのだろう。


「なんというか、もう少し気を使った方がいい気がします」

「エルトナはユマが身元保証してるから、それで何かあればユマの責任だろ」

 ナゲルも何ともあっさりしている。司教の養父が一人でふらふらと街に出歩いただけで、ハリサが凄い剣幕で怒っていたくらいだというのに。まあ、あの人はどこかの暗殺対象に入っていても不思議がないので怒る理由もわかるが……。


「まあ、大学内は警備も巡回してるし、たまに学内で喧嘩とかはあるけど、大体は意味の分からん原理についてだから、結構安全だぞ」

「……そうですか」

 まあ、言ってジョセフコット研究校内もユマは一人でいた。大抵学友と言うなの大物が周囲にいたが。


「今晩は一応様子見で俺たちもいるから、なんかあれば言ってくれ。明日からは……まあ状況見てだな」

「お手数おかけします。多分、大丈夫だと思うので……流石に王子様に看病をされるわけには」

 国外ではそうと知らせていなかったので、ばれないよう普通の対応をしていたが、国内ではそうもいかない。


「お預かりしている身です。もしもの事があってはいけません。一先ず今晩だけは」

 ユマが少し困り気味に言ってくる。迷惑をかけている身としては申し訳ない。

「……わかりました」




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