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女装王子の留学記 ~美少年過ぎて女性恐怖症になったけど、女装していれば普通に生活できます~  作者: 笹色 ゑ
二年生前期

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99 贈り物の価値感


 ルーラとは、授業も一緒なので少しずつだが話す機会が増えた。

 向こうから寄ってくるようになったというのが正しい。正直、苦手なのは変わらないが、ナゲルに好意が向いているなら僕に危険はないし、妨害する気もない。


「休みには帰郷するのは本当ですの?」

 試験が終わって、どこか絶望したような顔でルーラが問いかけてくる。


 冬休みのように勝手に予定を変えられる可能性は否定しないが、帝国側にはあまりにも勝手をされるならばこちらにも考えがある旨をカシスが伝えている。警護の関係ならばまだしも、帝国の要望だけで毎度予定を変えられてはこちらも困る。


「はい。帰りますよ」

「ナゲルも一緒に帰ってしまうと聞きました」

「夏の終わりには戻る予定ですけど」

 夏季休暇の間にも距離を縮めたったのかもしれない。


 因みにルーラは夏もヒスラに留まる。二年からの編入だったので一年次の補習も希望すれば受けられるからだ。それにルーラが仕事の手伝いをすることで、エルトナは休暇を勝ち取った。所長代理をかなり脅しての休暇取得だったと聞く。


「……ちゃんと、こちらに戻りますか?」

 とても心配そうな顔だ。一応ヒスラに戻る予定だが、絶対とは言えない。何せ、誘拐されたり、川に落ちて死にかけたり、矢に刺さって大怪我したりした身だ。


「そんなに心配しなくても、多分大丈夫ですよ」

 まあ今のところ、母よりは無茶苦茶をしていないはずだ。

「……ナゲルだけ置いていくことは……」

「置いていきませんよ」

 ナゲルが残ることを希望したら別に構わないが、今のところ聞いていない。


「………」

 恨みがましく見られてしまう。

「むしろ、今回帰らないと、強制帰還の可能性もありますよ」

 主に僕が。その時はナゲルも一緒かもしれない。


「………わかりました。その、ナゲルのご両親に日頃お世話になっているお礼を届けていただけますか?」

「彼らも基本物での懐柔は好みませんが………」

 何なら受け取るだろうかと考える。


 ナゲルの母は人間に対してはちょっと気難しいが動物が大好きだ。正直子犬か子猫でも渡せば懐柔できそうだが、野良を拾って世話したいからと距離を詰める方が得策だろう。

 ナゲルの父親は気のいい人だ。たまにベンジャミン先生と酒を飲んでいる。特段酒好きでもないが、いい酒とかなら喜ぶだろうか。


「ナゲルに直接聞いてみたらどうですか?」

 答えを告げずに助言して置く。

「……最近は、ちょっと会話が続くようになりましたけど……」

 もじもじとするのを見て、微笑ましく思うようになってきた。


「ああ、まだルーラ嬢に落ちていないのですか」

 コーネリアが少し寝不足の顔でやってきた。

 試験勉強が苦手らしい。他の仕事も抱えているので僕と違って他の同級生たちは試験勉強に苦戦している。


「いっそ、外堀を埋めに行ってしまったらどうかしら」

 アンネが悪乗りしてそんなことを言う。

「やめてください。エルトナの休みがなくなります」

 ルーラがサセルサの手伝いをして、所長代理が働くからエルトナの休みを確保できるのだ。ルーラがついてきたらエルトナがジェゼロへ行けない。そもそも事情を知らないルーラは連れていけない。


「ユマさんは本当にあの子がお気に入りですのね」

 アンネが面白そうにこちらを見る。

「そうです。私には辛辣なのに」

 最近は、ルーラも女性陣ともよく話す。リリアナはいつものように引いた位置にいる。別に男性陣と話さない訳ではないが、ルーラから行くのは同じ編入生のハンセットくらいだ。


 そのハンセットがふらりと女子の輪にやってきた。

「国に帰るなら、これを持っていけ」

 ずいと分厚い紙束を渡された。

「……これは?」

「最後の仕上げで使う研磨紙だ。彫刻画に艶を出したいと言ってただろう。水で流しながら使え」

「ありがとうございます。ずっと仕上げに二の足を踏んでいましたが、これで整えてみます」


 お礼に頷くと直ぐに戻っていく。それを見て、ルーラがふてくされた顔をしている。

「なんでハンセットの贈り物はいいんですかっ」

 ナゲルは贈り物とか好きではないと言っていたからか。

「……彼には、以前から彫刻関係で相談と指導をしてもらっていましたから」

 別に下心でくれたわけではない。いい作品を作れよという意味だ。こういうのは持ちつもたれつだ。


 それを見てアンネがふっと笑った。まだルーラに対してはちょっと高圧的と言うか上から目線だ。ルーラの態度もあるのだろう。

「ルーラさん。物を贈るということは、相手を想う行為。何を差し上げるのも自由ですけど、もらう側もそれを貰ってどう思うかは自由です。今回、彼はユマさんの役に立つだろうからと贈り、ユマさんは喜んで受け取った。それだけですよ」


 紙のやすりはジェゼロにもあるが木に対するものがほとんどだ。大理石の像を作る工房は一つあったかくらいだ。そういう店はあまり技術供与を好まない。僕が言えば教えてくれるだろうが権力の賜物でしかない。


「私だって、ナゲルが必要なものを準備しています」

「……」

 ナゲルは問わないと教えてくれないのでどんな攻撃を受けているか聞いてみた事がある。聞けば別に隠さない。


 高級な紳士服に始まり、医学書やら、変な壷を渡された時はどうするか悩んだとか。医学書はかなり高価なものらしく、みんなで読めるように図書館行きにしたらしい。他で受け取ったものはハンカチだけだ。そのハンカチはルーラが刺繍したもので、授業で作成したものだ。頭文字に葉っぱなどの装飾のある品で、結構綺麗にできていた。ナゲルも、手に怪我を負ってまで作った物を渡されたら断れなかったらしい。その後豪奢な刺繍の入ったブラウスを買ってこられてドン引きしたそうだ。


「ルーラさんは、もう少し頑張った方がいいですね」

 そう言うと、むっとしていた。


 贈り物と言えば、ベンジャミン先生が帝王陛下からの贈り物は注意しろと言っていたのを思い出した。

 既に館を贈られている。なんとか貸し出しのような形に保っているつもりだが、ルーラの贈り物なんて可愛いものだ。帝王からのそれは、物が的確すぎたり、既に断れない状況に持っていかれていることが多いから質が悪い。オーパーツ大学の建設も、そんな感じで進められてしまったらしい。


「わたくしの警護の関係もございますから、この夏は無理でしょうけれど、ナゲルの故郷には私も行きたいです。もし、もしもナゲルが許したら、私も向かえるように助力してください」

 基本我が儘だが、ちゃんと願い出てくる。断られても癇癪は起こさないからか、不思議と嫌悪感までは出なくなっていた。


「……ナゲルに無理強いはしないでくださいね」

「無理強いして聞いてくださるならとっくにしてます」

 これが僕に対してだったら、目に入るところにいるだけでも過呼吸を起こしそうな積極性だ。


 ナゲルは僕と違って本当に嫌ならはっきり言うだろう。



何気に、ユマが微妙に邪険にしながらも普通に会話できる女の子はルーラが初めてなんじゃないかと、修正時に気づきました。

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