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窓越しの空  作者:
99/100

弱さと強さ

 電車移動で行き先も告げられないけれど、不安とかは一切なかった。

 むしろ、聞かない方がいいと思っていた。

 きっと向井さんは楽しい事をしてくれると心のどこかで確信していたんだろう。

 のんびりついて行けると思った。


 電車に乗って1時間くらいして降りた駅。

 初めて降りる駅だった。

 降りる人はそんなに多くなくこの降りた場所に何があるのかさえ見当もつかなかった。

 ただ、その降りた人のほとんどが同じ方へ歩いていっている。

 その先に何があるのかは全く予想ができなかった。



「ここ、どこですか?」



 そう聞いてみたが、



「もうすぐですよ。 ほら、みんな行ってるから迷わない笑」



 そう言った。

 思った通り、やっぱりそうだったんだ。

 指を指したこの先に何かある……。


 しばらくすると磯の香りがしてきた。


 海だ……。


 海に何かあるのかな……。

 その場所は向かう人は、友達同士だったりカップルだったり、家族だったり様々。

 全く想像もつかないけれどその人の流れについて行った。


 どんどん海が近くなる。

 人の賑やかな声が聞こえてくる。

 隣の向井さんは何も言わないままだ。


 角を曲がりその先に砂浜が見えた。

 ……目の前に海が飛び込んできた……。



 ここって……。



 向井さんを見ると、得意げにニンマリ笑っていた。



「ここにきたかったんです。 さ、行きましょ!」



 遠浅の海、風が止むと鏡みたいになる。


 日本でもこんな綺麗な写真が撮れるところがあるんだ……と、テレビを観ていて思ったのを思い出した。

 確かそんな遠くではなかったと記憶していたが、まさか実際に自分がそこへ行くとは思っていなかった。

 間違いなく場違いな、華やかな場所に合う人間ではないと思っていたからだ。

 友達同士、カップルで、家族で……そういう人たちで行く場所。

 私が行く想定は自分自身の中にはなかったのだ。



 目の前に広がる海と空のコントラスト。

 楽しそうな声がいろんなところから聞こえる。

 そこにいる人たちはみんな楽しそうに写真を撮っていた。


 その光景に一瞬足が止まってしまった。



「どうしたんですか? さ、行きますよ!」



 そう言って私の背中をそっと押した。

 ふわっと踏み出した一歩はなんだか少し恥ずかしく感じたが、それよりも目の前の美しい光景に釘付けになった。


 バッグから取り出したスマホでおもむろに写真を撮ってみる。

 写真を撮る事が得意ではない私でもそれなりの写真が撮れた。

 撮った写真を見て思わず笑顔になる。


 不思議な綺麗な写真。


 向井さんも思うがままに写真を撮っている様で気付けば少し遠いところまで移動していた。


 ジャンプした瞬間を撮っている人、まだまだよちよち歩きの赤ちゃんがオムツお構いなしにぺちょんとすわり海で遊ぶ姿をお父さんが撮っていたり、みんないろんな写真を撮っているけれど、統一して言えるのは撮ったものを見て笑顔がこぼれる。


 うまく撮れなくても。


「もう一回いくよーー!! せーーのっ!!」


 友達数人で来ている女の子の撮り直す声も楽しそうだった。


 この場所は人を笑顔にする場所だった。

 自分自身でも実感した。



「安堂さーーん! いい写真撮れましたーー?」



 屈託のない笑顔で少し向こうの方からそう叫んでも誰も気にしない。



 パシャリ……



 そう叫んだ人の方を一枚撮ってみた。

 写真を覗くその横顔がとても綺麗に見えたから。


 私はその人の方へ歩き出した。

 彼はどんな写真が撮れたんだろう……。

 その優しそうに覗き込むその先にあるのはどんな風景なんだろうか……。


 足元の海水が絶妙な温度で心地よい。

 歩くと水面は揺れるが今日は本当に風がなくすっと水面の揺れはなくなる。


 ……と思っていたら、ふわっと涼しい風が吹いてきた。


「しばらくすると今より涼しくなりますね。 もう太陽もそう高くないし……。 で、また綺麗な写真が撮れますよ」



 そう言った通りしばらくすると青空が夕空に変わっていくのがわかった。

 さっきまで青かった空がゆっくりとその青さに弱さを見せ、そう見せたかと思ったら強さを出しつつある温かみのある色を少しずつ見せ始める。


 ひとしきり写真を撮る事を楽しんだので、今度は違った感じの写真を撮れるまでの時間、砂浜間際の階段に座り休憩する事にした。

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