本当の事
どんどん向井さんに近付いていく。
人混みに見え隠れしていた向井さんが鮮明になる。
近付くにつれ、私の気持ちは安心と穏やかさを取り戻した。
「こんにちは」
私は向井さんにそう話しかけた。
「あ……、びっくりした……!! 携帯見てて気付かなかった……。 こんにちは。 急に集合かけちゃってすみません」
そう言ってあたふたしながら手にしていたスマホをポケットにしまった。
向井さんは普通に話してくれている。
目も赤くなってないんだなーー。
気付かれなくてよかったーー。
私は少し安心した。
「で、今日はどうしたんですか?」
私は全くわからない集合につい問いかけてしまった。
「付き合って欲しいところがあるんです。で、誘いました」
……付き合って欲しいところ……??
「どこですか? この格好で行けます?」
私は気になった服装の事を聞いた。
「山登りとかしませんから大丈夫です笑 服装は何でもいいところです。 今その時間を調べてました。 その前に腹ごしらえしませんか?」
時間を調べる??
全くわからなかったがとりあえず向井さんに着いて行く事となった。
ランチの場所を探しながら、今日は時間は大丈夫か?と聞かれ、大丈夫と答えた。
それにしても休日に誰かと外に出るのは久しぶりだ。
そもそも誰かと話す事が久しぶりで、最近話したと言えば派遣会社の木村さんと電話で話したのが最後……。
人と関わらない生活続行中だ……。
食べたいものも聞かれたが、すぐに答えられなくて悩んでいたらそれを見た向井さんがおすすめの定食屋さんに連れてっ行ってくれる事になった。
場所は歩いて10分くらい。
案内されたお店は存在は知っていたが入った事はなかったところだった。
入ると女性の店員さんが元気よく出迎えてくれた。
お昼時ですでにもう混んでいて空いていたカウンターに通された。
並んで横に座る。
メニューを見ると和食メインのお店のようで、ランチ時は小鉢が8種類にごはんとお味噌汁がついたランチメニューを食べに来る人でいっぱいらしい。
「ここ、みんなこれを狙ってやってくるんですよ」
そう教えてくれた。
向井さんもそれを注文したので私も同じものをお願いした。
この近辺に住んでいてこのお店の前も通るのに入った事もなかったし、どんなお店なのかも全く知らなかった。
一体私はここでどんな生活をしてたんだ……。
老後の事を考えて便利な場所を探したのに全く活かさせていない……。
まだまだ発掘する場所はたくさんある……。
もったいない時間を過ごしてるなと思った。
ガラスコップに入ったお水を一口飲んで喉の渇きを潤した。
冷たくておいしい。
ランチが運ばれてくるのを待っている間もお客さんは止まらず、外でも待っている人がいるみたいだった。
こんな人気店、向井さんは誰と来たんだろう……。
私が知らないだけでいろんなところにランチに行くのが趣味だったりして……。
いろんな事が頭の中をグルグル回る。
向井さんの事は知っている様で知らない事が多い。
それは私も同じ。
向井さんには私はどう映っているんだろう。
ランチの間は向井さんの仕事の事や、私の派遣先が決まらない話やこの間ばったり会った時の話をした。 さすが人気店とあっておいしいごはんで、そして久しぶりにおいしく栄養のあるものを食べれた。
しかも一人じゃなく話す相手がいてのんびり楽しくランチタイムを過ごせた。
このランチだけでも満足だった。
お会計をしようとしたら向井さんが払おうとしていた。
自分が誘ったから、との事だった。
「大丈夫ですよ。 自分の分は払います!」
そう言って払わせてもらった。
お店を出ると待っている人も何人かいて、私たちが出て来た事で次呼ばれる事となる一番お店の入り口に近い場所で待っている人たちが嬉しそうにするのがわかった。
結構のんびりしてしまった。
お先に満足して帰らせてもらいます。
少し申し訳なさを感じてしまいその人たちに軽く会釈をして店を出た。
次はどこへ行くのだろう。
そう思っていたら向井さんは駅の方へ歩き始めた。
「向井さん、駅……ですか……?」
「そう。 駅です。 少し移動しますよ」




