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窓越しの空  作者:
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彼女の話

 少し動揺を見せた彼女は覚悟を決めたかのように落ち着いて、




「……すみません……私がお願いする立場でもないのはわかっています……でも、少しだけ……少しだけでいいので私の話を聞いてもらえませんか……」




 そう言うと彼女はこれまでの事を話し始めた。



 彼女と元夫、亮輔は、亮輔が以前勤めていた会社の同期だった。

 新入社員研修で顔見知りとなり配属部署は違ったが同期会が月1で開催され顔を合わす事も多く集まった時にはまだまだ大変な新人の時期を慰め合い、お互いを鼓舞しながらお酒の力に頼りつつ親睦を深めていた。

 同期と言っても、彼女はその会社の社長の愛娘でその肩書きから他の同期とは少し会社からの待遇が違った。

 同期の仲間もみんなわかっていて、その中でうきだつ存在の自分には他の人と違う空気感を出して付き合ってくれている事に気付いていた彼女は寂しさを感じていた。



 なぜこの会社に入社したのだろう……。

 私は私だけど周りはそうは思ってくれない。

 別の会社を選択すればよかった……。



 親の敷いたレールに乗った事に彼女は後悔をしていた。



 その中で他の同期と同じ様に接してくれる亮輔と気軽に話す様になり彼女は分け隔てなく接してくれる亮輔に特別な思いを抱き始め、しばらくして二人は付き合い始めた。

 楽しい日々を過ごしていたが、付き合って4年になる頃、彼女に縁談の話が持ち上がった。

 大企業によくある話なのかわからないが、私はテレビの中の話だと思っていた、「政略結婚」が決まり二人は別れるという選択しか残されていなかった。


 相手は彼女より一回りくらい上の人で一年の大半は海外で仕事。

 相手も会社都合の結婚と割り切って彼女との結婚を決めていた事もわかっていたけれど、それでも結婚をないものにできなかったのはそれほどの力が動いたという事。

 彼女自身も自分の運命はこうでしかなかったと諦め、彼だった亮輔とも別れ自分の運命に従った。


 結婚当初は出張する夫について海外へ飛び回る日々を送っていた。

 その間の生活拠点は、勤務地にあるホテルであったり時には所有するマンションであったり、別荘であったり様々。

 近くにいる事で少しでも夫との距離を縮めようと彼女なりに努力をしたが結果はいまいち。

 彼女には寂しさしかなかった様だ。


 そんな生活が3年続き疲れ果てた彼女はついて行く事を辞め、帰国し一人で生活する様になる。

 夫は帰国すると彼女の生活する自宅へ戻り少し滞在してはまた海外へという生活が定着した。

 そんな時、亮輔と再会した様だ。


 亮輔が結婚した事も噂には聞いていたけれど、なんとなく携帯の電話帳をスクロールし、かけてしまったのが始まりだという。


 まさか出るとは思っていなかった亮輔が電話に出て、一気に昔の気持ちに戻ってしまった。

 最初は気付いた気持ちにも蓋をして、少し電話で話す程度であったが、ある時、仕事が早く終わりそうだからとご飯に誘われた事がありそこから関係が今に続いていたらしい。


 最初は亮輔の出張について行って地方で会っていたりして、亮輔の部署が変わってからは出張がほとんどなくなってからは彼女の自宅で会っていたと言う。



 話を聞いた私は、嫌いで別れた訳ではない二人が再会してもやっぱり……という事だったんだと悟った。

 私が亮輔に知り合う前の話。

 私が出会った頃の亮輔を思い出した。


 今更ながらの答え合わせだが、第一印象が悪いあのやさぐれ感はこれが原因だったのかも知れない……。


 何も気付かなかった私。

 本当の夫を知るのが今でよかったのだろう。

 今更ながらの話でよかったんだろう……。

 もし、夫との離婚も考えずのんびりと毎日を過ごしていた時であれば今の自分とは少し違っていたかも知れない。

 憤り、彼女に強い言葉で罵ったのだろうか……。

 そんな自分を想像できない程今の私は真実を知ったのに怒りや悲しみなどの感情がなく、無に近かった。


 部署が変わって出張がなくなった!?

 どういう事だ!?

 彼女との関係がどうこうより、そっちの方がいらつきポイントとしては高い……。

 私はそこをもっと詳しく聞きたかった。



 後で聞けるかな……と、期待しつつ自分の事はどこか他人事の様に彼女の話を聞いていた。



「そうだったんですね……。 全然気付かなかった……。 その話を今聞いて……、そうだったんだ……としか思わないというか……まぁ、その……不倫……ですよね……」





「……すみません…………」





 さらに小さな声でそう私に謝った彼女に私は聞かずにはいられなかった。




「あ……、いや……、怒ってるとかじゃなくて……、えーーっと……で、どうして今私にその話を……? もう私には関係ないというか……。 さっき会ってるかって聞かれたと思うんですけど、まぁ、会ってないですけど、私と会ってると思う事があったりしましたか?」



 彼女は相当の覚悟で私に電話をしてきたはずだ。

 それ程よっぽどの事なんだろうと予測はできた。

 亮輔に何があったのだろうか……。



 でも、残念ながら私からは亮輔の伝えられる情報が何もない……。



 電話越しに聞こえた深い深呼吸が私に緊張感を走らせた。


 彼女はポツリと私にこう言った。



「ユウさんと別れてから、少し変わったと感じるんです。 ユウさんを忘れられないのかな……って……」

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