存在
え……誰……?
想像もつかないその人はいったい誰だろうか……。
名前を呼ばれ、何も言えないでいる私にその人はもう一度声をかけた。
「ユウさんですよね……?」
明らかに動揺している私とまっすぐな声で私に伝えようとするその人。
誰だかわからないその人に私は勇気を出して答えた。
心臓が凄いスピードで鼓動を打っているのがわかり、まだ要件はわからないが、悪い事をしていないのに悪い事をしてしまったのだろうかという不安な気持ちでいっぱいだった。
「あ、はい……あの……、どちら様ですか……?」
「初めまして……ではないみたい……。 一度バーでお会いした……」
バー……?
あ!
あの梅酒バーの事だ……。
その時の事を一瞬で思い出した。
あのバーでカウンターにいた女性だと思った。
「あの、梅酒のバーですか? バーと言えばそこしか浮かばなくて……その時の……、カウンターにいらっしゃった……?」
その人がなぜ私に電話をかけてきたんだろう……。
なぜ、あの時カウンターにいたのが私だとわかったんだろう……。
あ……、元夫亮輔だ……。
やはりあの時私だと気付いていたんだ……。
亮輔と一緒にいた人だからその繋がりで連絡してきたのだろう。
「そう。 突然ごめんなさいね。 ちょっと確認したくて……」
確認……?
何の確認だろう……。
「私、椎名と言います。 こんな事を聞くのもどうなのかな……と思うんだけど……、ユウさんとリョウは別れたと思うんですが……、今、リョウと連絡取ってたり会ってたりしますか……?」
亮輔と……?
離婚以来、会ってもいないし連絡も取っていない……。
それがどうしたというのだろう……。
「いえ……、離婚以来会ってないですし、連絡も取っていません……。 それが何か……? どうしたんですか?」
「それ本当?」
「え……、本当ですけど……何かあったんですか……? なぜ今そんな事を……?」
その人は亮輔の事で電話してきたらしい。
やはり思った通りだった。
けど、その人が何を聞きたいのか、私に連絡してくるくらいの事なのかが全くわからず……でも私にはそれを聞く権利はあるはずだ。
さっきまで恐る恐るだった私も少し余裕を持って話せそうだった。
「急にこんな事……ごめんなさいね……、リョウとは……ずいぶん前から知ってて……。 えっと……」
椎名さんという女性は亮輔をあの時と変わらず、リョウと呼んでいた。
「ずいぶん前から……?」
いつからの知り合いなんだろうか。
椎名さんとはどんな関係なんだろうか……。
何となく……わかるような気がしていた。
私が知らない元夫亮輔の顔を知ってしまうことになる。
今更だが……。
「ごめんなさい……あの、実は……えっと……」
どう説明しようかともどかしそうにしている彼女を見て、私の中に「正解」という言葉が浮かんだ。
「……そういう……事ですよね……? あ、いや……いいんですけどね……でもいつからの知り合い……なんですか?」
言い出しにくそうにしている彼女に私はそう伝えると彼女はこれまでの全てを話してくれた。




