一人暮らし
派遣会社所有のアパートへ引っ越してから2ヶ月が過ぎようとしていた。
ダンボール2箱だけ持ち入居したがやはり必要なものはたくさんあって入居初日に買いに走った。
事前に話していた通りダンボール2箱の荷物に木村さんもびっくりしていた。
「ほんとに2箱だったんですねーー! でも、これだけで必要なものって揃ってます??」
そう言われたがもちろん揃ってはいない。
周りにどんなお店があるかを把握するためにも買い物に行こうと決めていた。
本当に必要なものだけ、他は新しいもので始めたかったのだ。
ありがたい事に家電製品は備え付けてくれているので大きな出費が出ずに済んだ。
ここを出て違う場所で住むとなったら今回の様にはいかない、それまでに費用を貯める、という事が私の目標であった。
毎日仕事して家に戻る、それしかしていない。
そんな毎日なので行動範囲も広がってはいないし、でも、私自身も今は広げようと思っていなかった。
ただただ今はこれからの為に質素に生きようとしていた。
行動範囲も広げない方がお金を使い過ぎない。
特に趣味もない私は家と会社の往復だけでも支障がなかったのだ。
仕事を始めてしばらくして両親に報告した。
別れる前に話せよと父には言われたが、まぁいい歳の夫婦の決めた事に理解はする、と言ってくれた。
母は、別れるまでしなくても……と言っていたり、何か他に方法はなかったのかと詰め寄られたが、性格の不一致だからと話すとそれ以上何も言わなかった。
離婚を受け入れてもらった後は、家に戻れば?とも言われたがそれこそいい歳の娘が実家に居座る事はしたくないから、ちゃんと一人で暮らせるから、と伝えると納得してくれた。
「何かあったら連絡しなさいよ。 いつでも帰ってきていいからね。 たまには帰ってきなさいよ」
帰る間際の玄関で母親らしい言葉をかけてくれた。
年老いた両親に心配をかける事になってしまった事を申し訳なく思い、玄関で私を見送る母をじっと見る事ができなかった。
たくさん言いたい事やいろんな思いがあっただろう。
年に数回ではあるが実家に夫婦で顔を出すと私と夫の為にと食べきれない程いろんなものを作って出迎えてくれて、その時間をとても楽しみにしてくれていたのは娘の私にも伝わっていた。
夫とお酒を酌み交わし、いろんな話をして楽しんでいる様を楽しそうに母は見ていたのを思い出す。
楽しくて飲みすぎる父に、呆れ気味にお酒を止めながらも顔はいつも穏やかで嬉しそうだった。
そんな母を知っている私は母が喜ぶ選択をできなかった事に申し訳なさいっぱいで、いつもより早めに実家を後にした。
ごめんねの一言も言えなかった。
離婚に後悔はないけれど、その時は両親の事は後回しになっていて今日の母の様な顔をさせる事になる事を考えてもみなかった。
どうにもならなかった事だけれど、両親には申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
実家に戻ると実家の匂いがして、小さい頃の思い出をたくさん思い出した。
いつ帰ってもこんな事はなかったのに、今日はあれこれと思い出してしまった。
父と母の優しさを、この家で過ごした温かさをこんな時だからこそ思い出したのだろうか……。
どうにもならない感情を抱きながら駅までの道をとぼとぼと歩いた。
こんなに駅までの道のりが長く感じたのは初めてだった。
ある休みの日、掃除や洗濯を終え家でのんびりしているところに携帯が鳴った。
横になってゴロゴロしている私は起き上がりもせず、机に置いた携帯を手探りに探した。
あまり鳴らない携帯に瞬時に相手は誰かを想像した。
木村さんかな……?
いや、今日はお休みだから木村さんもお休みのはず……。
友達とも近々の約束もしていないし……。
母かな……、何かあったのかな……。
携帯を見るとどの予想も外れていて、知らない番号が表記されていた。
誰だろう……。
私は誰だかわからない相手の電話を恐る恐る取った。
「もしもし……」
「ユウさん……ですか……?」
私を呼んだその声は私が知らない女性の声だった。




