ダンボール
「アパート……ですか……?」
木村さんが思ってもない事を話してくれた。
「もちろんお仕事をして頂く事が条件ですけど、今ちょうど一部屋もうすぐ空きになるはずなんですよね……」
派遣会社で買い上げをしているアパートがあり、長期で仕事ができる人を対象に貸しているらしい。
工業団地が近くにありその中の会社へ派遣される事が多い様だ。
おしゃれなアパートとはほど遠いが、必要最低限のものが備わっており生活には困らないというおしゃれ感にこだわらなければ問題ない物件だった。
「とりあえず半年は……って感じで、物件が探せたらアパートは途中退去でもかまいませんよ。 ただ、さっきも言った様にお仕事をしている事が前提で……安堂さんがよければ……」
私にはありがたい話だった。
「お仕事ってあります……?」
私は急ぐ気持ちを抑え木村さんに聞いた。
「近場でさっきもお話しした工業団地に加工工場がありまして、そちらの加工のお仕事はあるんです。 安堂さん、事務職がご希望ですからご希望とは違うんですが……。 あ、あとエリアが湾岸エリアになるので今のご自宅からは少し離れるんですが……。 ご希望の事務職となるとまたエリアが違うところではいくつかあるにはあるんですが……」
工業団地と聞いて場所は特定できた……。
確かに今の居住地とは全く違う場所だった。
「工場でのお仕事なんですね……。 私、できますかね?? そこで半年は働かないといけないんですよね?」
「難しいお仕事ではないと思いますので大丈夫だと思いますよ。 お仕事は半年更新になりますがお仕事をしてみて続けられそうだったら更新して頂いていいですし、やっぱり事務職がいいな……と思われたら更新のタイミングで次の派遣先を見つけて……という事も可能ですよ。 その場合、次のお仕事が長期であり、アパートからの通勤で問題なければそのままアパートも契約できますが、次のお仕事が短期だったり、通勤が難しそうであればアパートはご退去になるかと思います。 アパートはいつでもご退去できますのでその間、新しく居住地をどこにするかとかを考えられてもいいんじゃないですか? 居住地が決まっていい物件があればそちらにご転居されてもいいかな、とも思いますし……。 そうなったら契約期間中はそちらからこちらの企業さんまで通勤して頂く事にはなりますが……。 あ、アパートは最長3年までです」
なるほど……。
問題は職種内容と今後の居住地か……。
でもこれからの事を考えるととてもいい話に思えた。
木村さんが提案してくれた話に乗ってみるのもいいかなと思った。
加工の仕事はした事がなかったので自分にできるのだろうか……と不安しかなかったがそれより今の状況を変えれるならという思いの方が強かった。
後でどうにでもなる……、とりあえず今を変えていかないと始まらない。
「加工会社、受けさせてもらってもいいですか? アパート借りたいです」
私はその加工会社の面接を受けてみる事をお願いした。
まさかこんな話になるとは思っていなかったが、しばらく夫に間借りする事もしなくてよさそうなのは凄くありがたかった。
仕事も何とか始められそうで少し先までではあるが何とか生活できそうだ。
木村さんからいろんな手続きをして今週中には連絡をくれる様で、面接後企業側から承諾を貰えれば今月中から仕事ができそうとの事だったが、アパートは月末まで今住んでいる人がいるので美装も含め住める様になるのは1ヶ月後くらいからだろう……と言っていた。
とりあえず、とりあえず第一歩。
とりあえず動いてみる。
とりあえず話にのってみる。
自分の人生のこれからを描く為に。
畳んで捨てる予定のダンボールを元の形に戻し荷物の整理を始めた。
必要なものだけ入れていき、捨てれるものは捨てようと、厳選してダンボールの中へ入れていったがまだ余裕があった。
たくさんは持って行かない。
厳選して残りは捨てる事が大前提だった。
これまで夫に頼って生きてきた。
家にいて欲しいという夫の希望ではあったが、何の不自由なく過ごさせてもらった事は感謝している。
ダンボールに入ったものを眺めながら夫との時間を思い出す。
そっか……、私、離婚するんだ……。
わかってはいるものの急にリアルに思えてきたのだ。
びっくりするくらいの物の少なさに他に入れなきゃいけないものを忘れてないかと探したがなかった……。
あとはもう一つのダンボールに入るだけの衣類を入れるだけ。
身の回りのものを入れたダンボールをガムテープで閉め廊下の隅に置いた。




