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窓越しの空  作者:
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突然の出来事

 私は軽くバイトの男の子に挨拶を済ませその場から離れた。

 間違いなく早歩き……けれどバレない様に、そして全神経は自分の後ろに向けられていた。


 間違いなく目が合った夫。


 私に気付き追いかけてくるだろうか……。

 そんな事も想像しながら歩いていたが、夫が現れる事もなく駅へ辿り着いた。


 早歩きだった事もあり、じんわりと汗をかいてしまい水分補給の水を求めコンビニへ入った。

 コンビニでゆっくりする余裕はなく水を買ってすぐにホームへと向かった。

 駆け足で登ったホームに着くと、安心した自分がいた。

 ふぅーーっと深く息を吐き、手で顔をあおいだ。

 次の電車まで少し時間がある。

 私はベンチに座りペットボトルの水をグイッと飲んだ。

 喉を通り体に染み渡って行くのがわかる。

 鼓動がまだ早い。

 こんなにもドキドキしたのは久しぶりだ。

 それにこの種類のドキドキは今までにない。


 自分が悪い事をした訳でもないのに逃げる様にしてここまで来た……。

 おかしな話だな……と思いながらもさっき見た光景を思い出す。


 お店に入った夫は自分の上着を脱いでカウンターにいた女性に渡して座ったところだった。

 女性はそれを受け取り自分の隣にあるハンガーにかける。

 軽く話しながら席に座りマスターも交えて話が弾みリラックスした様子だった。

 その場所を楽しむ、一度や二度来た事があるという感じではなかった。


 あの、安堂というボトル、あれはやっぱり夫のものだったんだろう……。

 一緒にいた女性はさっき私にピアスの話をしてきた人。

 

 あんな夫を見るのは久しぶりで、久しぶり過ぎて新鮮だった。

 もうずいぶんあんな顔を見た事がない。


 あの私に話かけてきた女の人、あの人は誰なんだろう……。


 歳は自分と同年代くらいでとても綺麗な人だった。


 あのお店を知らないと言った夫の嘘。

 なぜ、嘘をつかなければならなかったのだろう……。


 行った事がないけど存在は知っている。

 それなら知らないと言い切るだろうか……。

 行った事はないけれど、という事を言わないだろうか……。


 夫の口調は全く知らない、だった様に思う。


 知らないと言ったお店で女性と二人。

 一瞬を切り取っただけの事ではあるが、夫はこの状況をどう説明するんだろうと考えた。

 

 追ってきた時にどんな話をすればいいんだろうと思った夫は結局現れなかった。

 そんな事を心配して小走りで汗だくになりながら駅まで来たのに……。

 さっきの自分を思い出すと自然と苦笑いになる……。


 なんだ……追って来ないんだ……。


 乗車する電車がホームへ入ってきた。

 電車にまで帰れよ、と促された気がした……。


 私は促される様に電車に乗った。


 プシューーっというドアの閉まる音、ゆっくりと電車が動き出す。

 そんなに乗客はいない時間帯。

 まばらにみんな座っている。


 私はドア横に立ち、ぼんやりと考えていた。


 ただ一瞬の事だったけど私自身でもはっきりとわかった事もある。

 ……というより、敢えて見てこなかっただけだろう……。

 それに気付かされたという方が正しいのかも知れない。

 けれどこんなに急に自分自身の心と向き合う事になるとは思ってもなかった。


 ただ、楽しい時間を過ごそうと思っただけなのに……。


 今は家に戻りその気付いた事をゆっくりと考えたいと、その気持ちだけだった。

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