予想外
楽しそうに店主と話すその女性の横顔はこの今の時間を心から楽しみにしていた様な笑顔でいっぱいだった。
アンドウサンと偶然にも耳にしたリョウスケという名前。
自然と結びつけてしまったその名前に、少し自分でもおかしくなった。
その女性がアンドウサンなのはわかった。
結びつけてしまった夫は、今日は出張でいないし、このお店の存在を知らない……。
まさかがあったなら……、それを少し考えた。
でも、あまり想像できない……。
充実した毎日を送っていそうなその女性に勝手にいろいろと結びつける事ができなかった。
レジに向かいお会計を済ませた。
「ごちそうさまでした。 おいしかったです」
そうバイトの男の人に伝えた。
「よかったです。 マスターが作るものは何でもおいしいんで、いつ来られても満足して頂けると思いますよ」
心からそう思って私に教えてくれるのがわかる。
この人はいろんな料理を食べてきてるんだろうな……と思うと少し羨ましかった。
「そうだと思います。 今日いただいたものも全部おいしかったし、お昼にオムライスを食べに来たんですがそれもほんとにおいしくって……」
「オムライス、おいしいですよね。 僕も講義がない時に食べに来たりしますよ。 そちらもまたいらしてください」
「こちらって予約ってできるんですか?」
「予約はやってないんです……。 お昼も夜もやってないんですよーー」
「そうなんですね。 じゃあ、また空いてる事を願ってまた来ます」
バイトの人まで話しやすいいい人でなんていいお店なんだろう……。
米田さんと会う日を決めきれてない今、そもそも予約はできなかったけど、予約できないお店なら仕方ない……。
もしこのお店が空いてる日に会う約束になれば来てみようかな……。
人は増えたけど、みんな騒がず、声のトーンを考えて各々がこの今の時間を楽しんでいる、そんな感じだった。
ここならゆっくり話せそうだ……。
私は少し重いドアを押しお店を出た。
お店を出て駅までの道を帰る。
満足しかない時間を過ごし満足に駅までの道を歩く。
私にとっては冒険みたいな一日で、でもとっても満足した一日になった。
満足ってこういう事を言うんだろうな……。
ほろ酔いな私はさっきまでの楽しい時間に気分よく駅を目指していた。
細い路地を抜け夫の会社の前に差し掛かった時、夫の会社の受付あたりに人影が見えた。
何気にその人影の方に目をやった私は立ち止まってしまった。
そこにいるはずのない夫の姿に見えた。
気のせいかと少しその人を見ていたがやっぱり夫だった。
向こうからはこちらが見えていないのか、私が見ている事にも気付いていない様子で、受付のカウンターで何か急いでメモをしている感じだった。
今日の朝の夫を思い出すが、キャリーバッグを持ち、出張だと言って出て行った事は間違いなかった。
え?
どういう事だろう??
なぜ、出張と言っていた夫がここにいるんだろう……。
私は声をかけるべきか悩んだが、でも、何となく今、声をかけてはいけない気がしてしまった。
私は夫の会社から少し離れたところで夫が会社から出てくるのを待った。
会社から出てきた夫にどう声をかけるようか……と考えた。
いるはずのない私がここにいて、声をかけたら夫もびっくりするに違いない……。
ドキドキしながら待っていると夫が会社から出てきた。
朝、持って出たキャラバッグは持っておらず、何も持っていなかった。
やっぱり夫だ。
その直後私はハッとした。
携帯を見ながら夫は駅とは逆の方向に歩き出したのだ……。
その瞬間、私の心がざわついたのがわかった。




