引っかかり
さっき入ってきた二人組の男の人たちを皮切りに少しずつ人が増えていった。
どの人も店主と楽しそうに話してから席についているのを見ると、よくこのお店は来る人なんだろう。
口コミからここへ来てそして、店主と顔見知りになる程になる……。
私は今日初めてきたけれど、また来ていいのか少し不安になった。
米田さんとここへ来ようと思っているが、この来店したらその人がわかるくらいののんびりとしたスタイルで営業されている中に私の様な新参者が入ると迷惑な気がしたのだ。
私はカウンターでさっきまでとは違って忙しそうにしている店主に話しかけるタイミングをうかがった。
一人できりもりするのは大変じゃないのかな……と思っていたら、カウンター奥から大学生くらいの男の人がエプロンをつけながら入ってきた。
見ると楽しげに店主と話している。
バイトの人の様だった。
忙しくなる時間から、たぶん21時くらいからなんだろう……。
少し息が荒いのは時間に遅れてしまったのだろうと、声は聞こえないが店主の人と何やら話しているのを目の前のグラスを見ながらぼんやり見ていてそう思った。
確か、深夜1時までだった様な……。
その時間までバイトとは、大学生じゃないと無理だ。
若かったら、こんなバイトもいいかも知れない。
けどもうさすがに無理だけど……。
次の日、起きれない。
次の日を考えるのがそもそも若くない……。
気付けばお店に人が増え、店主も忙しそうにしていた。
これは話しかける時間なんてなさそうだ。
それに私がここに長く居座るのはよくない。
さっきまで私しか座ってないカウンターも気付けばいい距離感で埋まっていた。
私の隣……と言っても3席程離れているがカウンターの端に座る女の人と目が合った。
さっき一人で来店して真っ直ぐカウンター席に座った人だった。
来て早々、店主の軽い挨拶をして席に座っていた。
店主は今、少し立て込んでいて忙しそうだった。
「それ、私も同じの持ってました」
そう言われた方を見ると、さっきの女の人が自分の耳元を指差して私に話しかけてきた。
私は、自分がしていたピアスの事だとすぐにわかった。
「あ、ピアスですか? これもう古いんですよ……」
「確かに私が持っていたのもずいぶん前になります。 でも綺麗に持たれてますよね。 私なんてずいぶん前になくしました。 彼からのプレゼントだったんですけど……」
「そうなんですね。 私も久しぶりにつけてみたんです」
「へぇーー……、あ、マスター!」
私の話をにっこり笑いながら聞いてくれたその人はカウンターに戻った店主に話しかけた。
「すみませんーー、バタバタしていて。 今日もお越し頂いて……ありがとうございます。 アンドウさん、今日はお一人ですか?」
私はあのボトルキープの『アンドウサン』だと直感した。
この人かーー。
さっきすこし話した感じはとても気さくないい人そうなそんな印象だった。
歳もあまり変わりなさそうに見えた。
同じ名前ということもあり勝手に親近感を沸かせながら目の前にあるふた口ばかり残った梅酒を堪能していた。
もしかして、親戚だったりして……。
いや、もしかして、漢字違いのアンドウだったりして……。
何の関係もないアンドウサンだったりもするよね……。
いろんな事を考えたりしたが、お店にも人が増えてきて、ゆっくりするのはまた今度にして……、隣のアンドウサンの正体もわからぬまま退散することにした。
ぐいっと最後の一口を飲んで席を立った私に気付いた店主が、私に挨拶をした。
「ありがとうございますーー。 お会計お願い……」
そう言ってバイトの男の子に伝えていた。
さぁレジに向かおうかとしたその時だった。
「アンドウサン、今日はお一人で? 今日はお連れ様はいらっしゃらないんですか、リョウさん。 リョウさんじゃなかったですか?」
「あーー、リョウって呼んでますけどほんとはリョウスケなんですよ」
私の中でアンドウサンと、帰る間際にキャッチしたリョウスケという名前を自然と紐付けした。
楽しそうに話す店主とその女の人。
屈託のない笑顔がほんとに素敵な人だった。
私はこの偶然に一瞬体が動かなかった……。




