自然な形
「お腹減った……。 食べよう」
着替え終えた夫は席につき並べられた夜ごはんを食べ始めた。
お味噌汁を手にした私は席に座りそっと夫の近くに置いた。
「今日さ、久しぶりに会社の近く行ったけど初めて見るお店もあったねーー」
私は少し話題になる様な話を夫にした。
このままではよくないと思っている事による、これまでの自分を変えてみようと思っての言動だった。
夫は少しびっくりした様子に思えたが、すぐに普通に返してくれた。
「初めて見る店? どこの事だろう? そんなに変わったかなぁ……」
「タイ料理やさんとかなかったと思うんだけど……」
「あーー、タイ料理の店ね。 あそこ2年前くらいに始めたんじゃないかな? 会社の子たちがよく行ってるよ。 女の人ってタイ料理好きだよね。 俺、あの店行った事ないけど……」
「そうなんだ。 私、今日雨じゃなかったらオムライスのお店に行こうと思ってたんだけど、行かずに帰ったんだよね」
「そこってどこ?」
「え? 会社の横の細い路地進んで少し奥進んだところ。 知らない?」
「……いや、よくわからないけど、ユウ、そこ何で知ってるの?」
「そこ、おいしいって知ってる人は知ってるよ。 雑誌とかには載らないから知らない人も多いけど……。 私は友達から教えてもらって……だからずっと行きたかったんだよね。 今日そこはと思ったんだけど、また今度だね」
「……ふーーん……。 でもうちの会社の近くにそんなに来る事ないでしょ? 来たりする?」
「ほとんど行かない……。 だから今日が行くタイミングだったのにな……」
「……ふーーん……」
なんだ……。
夫はあのオムライス屋さんに行った事がないんだ……。
会社の近くだし行った事があると思っていたのに……。
雑誌とかには載らないけど、近くだし噂は比較的早く届くと思うんだけどな……。
「オムライス、嫌いじゃないでしょ? また行ってみたら? だいたいの場所わかる?」
「……そうだね、だいたいはわかるかな……」
私は今度はいつ行けるかな……。
なかなか夫の会社の辺りには行かないし……。
次のタイミングを楽しみにしてよう……。
私はごはんの後片付けや、お風呂の準備に取りかかった。
……とその時、思い出した。
「あれ? 持って行ったキャリーケースは?」
「あー、会社に置いてきた。 そうそう、明日出張になったから」
「え! 明日出張なの? 予定はそうじゃなかったよね?」
「そうなんだけど、急遽。 今日の出張を明日にしてもらった。 客先にOKもらったから」
そっか……。
じゃあ、ハンバーグも明後日帰ってきた時にしようかな……。
私は明日予定していたハンバーグを翌日に延期しようと思った。
夫と会話らしい会話をしたのはいつぶりだろう……。
今日も大した話ではなかったけれど、こういう夫婦の時間を取る事を私もしていなかったんだと感じた。
夫からもっとこうして欲しいとか、ここを直して欲しいとかそういった事を言われた事はない。
夫はこんな私に不満はないのか……。
私は夫に不満があるという訳ではない。
出張が多い事、休みがあっても2人でどこかへ出かける事をしない事……私は特に不満はなかった。
それが当たり前というか、付き合っている時からのんびりした時間を過ごす事が多かったから結婚もその延長というか、私たちの形としてそうある事が自然だったのだと思う。
私が夫としたい事ってあるのかな……。
ふと、そんな事を考えた。
自分はこの生活でいいのだろうか……。
あまり考えてこなかった事を考え出すきっかけになった夜だった……。




