忘れ物
「安堂部長の奥様でいらっしゃいますか? 私、総務の者で芹沢と申します」
私はてっきり派遣会社からの連絡だと思っていた。
もうそろそろ連絡があってもおかしくない。
そんな時期に入っていたのでいつも連絡が来る携帯ではなく自宅の電話が鳴った事にすら疑いもせずそう思ってしまった。
なんだか拍子抜けた自分がいた。
あぁ、そっか……。
連絡があるとしたら携帯だよね……。
私は数秒前の自分を思い出し、クスリと笑った。
「あ、はい、そうです。 いつもお世話になっております」
気を取り直して会社の人、その芹沢さんに応対した。
でも夫の会社から自宅へ電話なんて、今まであった事がない。
夫が会社で倒れたりしたのだろうか……。
一瞬、そんな事を思ったりもしたが、電話をかけてきてくれた芹沢さんの声の感じからそういう事でかかってきた電話ではないなと思った。
とんでもなく急ぎの用というのではないのはすぐにわかった。
芹沢さんは清潔感あふれるいかにも『できる』感じのイメージが湧くそんな人だった。
「あ……、えっと……、何かあったんでしょうか?」
私は芹沢さんにそう尋ねた。
「突然すみません。 部長から伝言を頼まれておりまして……。 お昼からの会議の書類をご自宅にお忘れになったみたいで、それを奥様に届けてほしい旨を伝えて欲しいと……。 部長は現在午前の会議中でして奥様にご連絡する事ができず、私の方からご連絡させて頂いた経緯でございます」
あ、そうなんだ……。
でも書類ってどこにあるんだろう?
夫の仕事関係のものは触った事がない。
たぶんあるとしたら寝室にある小スペースに作った机と椅子があるそこくらいしか浮かばなかった……。
3段の引き出しが備え付けてあってあるとしたらそこぐらいしか浮かばなかった。
「書類ですか……。 私、主人の仕事関係のものってどこにあるかわからなくて……」
「あ……、さようでございましたか……。 書類の所在まではお聞きしていなくて……奥様もご存知ではなかったんですね……どうしましょうか……」
芹沢さんも困った様子なのがわかった。
「あ、あの……、ちなみにどんな書類かってわかりますか?」
私は沈黙を埋めるかの様に、聞いてもわからない質問を芹沢さんに聞いていた。
「クリアにファイルに入れてある……と言われておりました。 そういったものをお見かけしてませんか?」
「見た事はないんですけど、主人が会社のものを置きそうなところがあるのでそこを探してみますね。 また折り返しご連絡でもいいですか?」
当たり前だが見た事もない……。
もうあの寝室の机あたりを見てなかったらわからない。
まぁ、あそこしかないだろうからそこを探してなければ夫には諦めてもらおう……。
私は芹沢さんに折り返しの番号を聞いて一旦電話を切った。




