知り合いの同僚
順番に回り、向井さんのいる工場の人たちが集まっているところへやってきた。
いつも陽気な工場長はお酒も入って更に賑やかになっていた。
話しかけるタイミングを見計らっていた私に一緒に飲んでいた工場の人が気付き工場長に合図した。
「あーー、安堂さん! お疲れさまーー」
「お疲れ様です。 今日はありがとうございました。 今、お邪魔してもよかったですか?」
「もちろんーー! ごめんね、気付かずに。 こっちでワイワイ話してて」
「後ろから見ても楽しそうでしたよ」
「なんだ、見られてたの? 早く言ってよーー」
いつも陽気な工場長は工場の人からも慕われている。
今日も周りの工場の人たちは工場長と楽しそうに話している。
今日はお酒も入って、私が見た事がある感じよりもっとフランクに見えた。
「何の話をしてたんですか?」
私は工場長にそう聞いてみた。
「いやぁ、こいつらの恋愛話。 いつになったら結婚するんだ?って話してたんだよ。 結婚式に俺にスピーチさせろ、って言ってたの」
意外にも恋愛話だった。
意外と言ったら失礼だが、工場勤務の人はほとんどが男の人で、仕事の話や趣味の話で、男臭い話をするものなのかな……と勝手に思い込んでいた。
工場長が言う、『こいつら』とは向井さんと向井さんより少し若そうなもう一人の工場勤務の人だった。
向井さんのそんな話を私が一緒に聞いていいのやら……と一瞬戸惑ったりもしたが、そそくさと退散する訳にもいかず、その話に付き合うしか私には選択肢はなかった。
確かに聞きたい事はある。
けれど、自分自身も自分の心を明確に判断できずにいる中で向井さんの話を聞いてどう感じるのかが想像できなかった。
そんな私の気持ちなど知る由もなく、工場長は話を続けた。
「早く彼女作れ!って言ってるんだけど……、なかなか報告して来ないんだよ。 で、今、いろいろ聞いてたところなんだよ。 安堂さん、いい人いない?」
「いやぁ……」
「安堂さん、困ってますよ」
向井さんは困った私に気付いて工場長にそう言ってくれた。
「向井、どうなんだ? お前、ほんとに家と会社の往復だろ? あの子は違うんだろ?」
「あれはいとこです。 この前も話しましたけど」
いとこ……?
私は話の内容がわからずその場にきょとんとしていた。
いとこって私も会った事があるあの人かな……。
そんな私に気付いて、休日に出かけた先で向井さんが仲良さげに女の人と歩いていたのを見かけたがいとこだと説明された、という事を工場長から説明された。
やっぱり、私が前に会った事がある人かも……。
なーーんだ……。
あのいとこの人かーー。
でも、向井さんってどんな人と付き合ってきたんだろう?
今までも聞いてきた事がない。
どんな人がタイプとかもわからない。
スカイさんとして知り合った時……、スカイさんは私のどこをいいと思ってくれていたんだろう……。
向井さんとして今は同僚として知り合いになったけど、あの時の深いところの話はそんなにしていない。
でもその知り合いもきっと終わる。
楽しそうに会社の人と話す向井さんを見ていると、これからもここでこの人たちと過ごしていくんだと思うと、会社の人たちが何だか羨ましく思えた。
初めて見る表情もある事に気付き、会社にいる事ができればまた新たな向井さんを知る、そんなタイミングに出くわす事もあっただろう……。
でも、もう私には無理な話だった。
あの時の事を聞かずに去らなくてはいけないのか……。
わざわざ聞く勇気も私にはない。
でも、聞かない事がいい事なのかも知れない。
楽しかった向井さんとの時間だけで充分。
そう思う事で、完結すればいい話。
自分が納得できればそれでいい。
今、工場の人たちのやりとりを静かに聞きながら、心のどこかで向井さんとの時間も今日までだと、この時間を忘れない様に自分の中に刻もうとしている。
何だろう……。
自分の中の感情を説明できない自分がいた。
私はもっと知りたくなったんだろう……。
そう悟った。




