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窓越しの空  作者:
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何気ない幸せ

 平穏な毎日を過ごす事に少し慣れてきた。

 あれ以来、何もない。

 なくてよいのだが、緊張して過ごしていた事が薄れつつある事に自分でも気付いていた。


 もちろん夫にも言えない話……。

 家ではあまり仕事や会社に直結する様な話は避けていた。

 その前に夫からは何かを聞かれる事はほとんどなかった。

 話と言えば、出張先の話がほとんど。

 私はいつも聞く側で話す側の夫の話も広がる話をする訳でもない。

 何となく場持たせで話している感じ。

 そう思っても私自身、もう何とも思わなくなっていた。

 それが当たり前で割り切って考えていたのかも知れない。

 業務連絡、堅苦しく言えばそんな感じだった。


 そんな夫婦なのだ……。



 気付けばもう退社まで1週間となった。

 こんな時はあっという間にその日がきてしまうものだ。


 日に日に私のデスクへ立ち寄ってくれる人が多くなってきた。


 最終週は出張でいないからと早めの挨拶に来てくれた部長や、他部署の人も通りすがり際に声をかけてくれる事が多くなった。

 些細な事、挨拶程度、お菓子をくれる人……、声をかけてくれる理由はまちまちだけれど、気にかけてくれているのがわかって、ありがたく心が温かくなる。

 社員でもない私を温かく迎えてくれて充実した毎日を送る事ができた。

 私にとって久しぶりの社会との関わり。

 不安しかなかった。

 その上、スカイさんの事もあり私は気持ちを上げて社会と向き合う状況にはなかった。

 久しぶりの社会復帰なのにありえない話だ。

 普通なら心躍らせて、ワクワクしつつも緊張でいっぱいの毎日を送るはずなのに。

 社会というものに久しぶりに復帰する者としては不適合者だったはずだ。


 いつしか私はこの会社に人に居心地の良さを感じていた。

 家でいてもほとんど1人。

 それが苦痛ではなかったけれど、広いフロアでパソコンを打つ音、電話の音、話している声、コピー機の音……、遠ざかっていたその音に癒される事があるなんて想像もしていなかった。


 それくらい心地よい会社だった。

 神様が教えてくれた毎日の何気ない幸せのひとつ。


 残り少ない毎日を噛み締める様に過ごした……。




 水曜日。

 退社後、米田さんと送別会という名の飲み会に向かった。

 米田さんとごはんを食べたのはこれで2回目。

 前の時と同じ様に楽しそうに旦那さんの話や子供の話をひていた。


 ふと何の話からか私の話になり、私はこれがきっかけだと思い、今まで謝らなかった事を謝った。



「米田さん……、最後にこんな事言うの申し訳ないんですけど……、私、始め頃どんな感じでした? この子、やる気ないなって思いませんでしたか……? ほんとにすみません……、私、いろいろあったタイミングでここに入ってしまって……。 どうしようもない奴だと自分でも思ってました……」




 米田さんは大きく笑い、私が仕事を始めた頃の事を思い出している様だった。




「うーーん……、そっかーー。 でもちゃんとしてたと思うけどねぇ。 何? そのいろいろって聞いていいの? 旦那さんやご家族の事?」





「いや、違うんです……」





「え? じゃあ、体の調子とか……?」





「……いや、それも違うんです……」





「そっかーー……。 まぁ、でも体の不調とかじゃなかったらいいよ。 元気なら何でもできるしさ! でもさ、いろいろあってもちゃんとしてた。 今思うと、緊張してるのかなぁ……って思ってた事が安堂さんが気にしている事なのかなぁ……って思うかな。 不慣れな事をやらなきゃいけなかっただろうし、環境にだって慣れなきゃいけないし……、私自身は何も思ってなかったよ。 今まで続けてくれてありがたかったからこうして今の会があるんだよ。 私こそ、安堂さんには感謝。 毎年この時期まで派遣さんやパートさんを雇うんだけど、安堂さんで楽しかったよーー。 また来年も来てよ、って言いたいわーー。 来週から寂しくなるよ……」



 私はその温かい言葉に心が熱くなり込み上げるものを止める事ができなかった。

 大粒の涙が頬をつたった。

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