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窓越しの空  作者:
58/100

あと少し

 向井さんと一緒に帰らなくなり、今日で1週間になる。

 最初はドキドキしながら帰ったものの、何の変化もなくうつむき加減で小走りで帰る事は変わらないけれど、少し落ち着きを取り戻しつつあった。



 家に着くと、それを向井さんに知らせる為に家のイラストのスタンプを送る。


 向井さんからも同じ様に無事に帰った事を知らせるスタンプが届く。

 向井さんから送られてくるスタンプも同じ様なものだった。


 無事に着いた事を知らせてもらい、安心する。

 それがわかればよかった。

 家のイラストのスタンプ。

 履歴を見るとその同じスタンプがズラリと並んでいる。



 同じスタンプばっかり……。

 私は他にも似たようなスタンプがないか探してみた。


 似たようなスタンプを見つけては、



 これなんかどうかな……。

 家に着きました、ってわかるかな……。



 そんな事を想像しながら手持ちのスタンプの中を探した。


 気付けば薄暗かった部屋の中は真っ暗で、スマホの画面の光だけがぼんやりと明るく光っていた。

 真っ暗になった事にも気付かず、カーテンも閉めずに帰ったそのままの格好でソファに座り、一体どのくらいの時間探していたんだろう……。



 そんなにもスタンプを探すくらいの事に夢中になる!?



 自分の行動に笑ってしまった。


 一生懸命探したけれど、結局これといったスタンプも見つからず……。

 残念な結果だ……。


 最近の自分には珍しく夢中になった事に気付いて少し恥ずかしくなった。

 スタンプごときに何を一生懸命になってるんだろう……。


 ……らしくない。



 私は静かにスマホを置いた。


 無事を知らせるだけでいい。

 私は初心に返った。




 ある日、仕事の合間に米田さんから声をかけられた。

 もうすぐ私が仕事を辞めるのでその前に一度飲みに行こうかというお誘いだった。




「え! いいんですか!?」





 私は予想もしていなかった事に前のめりに問いかけた。

 そんな私を見た米田さんは、笑いながら話を続けた。





「え? 何それ? いいに決まってるでしょ! 今までよく頑張ってくれたお礼! 忙しくてなかなか仕事の後に飲みに行く様なそんな時間も作れなかったしさ……。 そういうのもひっくるめて、飲みに行こうか?って話!」





「行きます! 行きます!!」



 私はまたも前のめりに返事した。

 こんな嬉しい事はない。

 お世話になった尊敬する米田さんと最後にゆっくり話せる。

 楽しみしかない!!



「じゃあ、最終週にする? 本当の最後の日、金曜日にしようか? 安堂さんの都合はどう? 旦那さん、帰ってくる日だったりする?」





「帰ってくる日ですけど大丈夫ですよ。 事前に話しておきますから」





「そう? じゃあ、その日にしようか!」




 私は米田さんと約束をした。

 その日の帰りだった。

 総務の人が私のところへやってきた。




「え! 送別会ですか!?」





「そうそう。 部長から安堂さんの送別会しようって話になってて、他の部署からも送別会しないの?って問い合わせもあったり……、安堂さんの事、気にしてるのよ! 最後にたくさん話したい!って人もいるし、都合どうかな?」



 こんなありがたい話はない……。

 一派遣の私なのに光栄な話だ……。




「ありがとうございます! 嬉しいです。 ぜひ、参加させてください!」





「安堂さんがいないと私たちが参加できないの! じゃあ、最終日の金曜日で! あ、米田さんにも後でメール回すね! 参加よろしく!」



 そう言って総務の人が去った後、米田さんと顔を見合わせた。

 二人で大笑いだ……。



「安堂さん、日にちずらそうか! 確かに最後はみんなで盛大にお別れしたいよね! 同じ週の水曜日はどう?」





「変更してもらってもいいんですか? いいですよ! 水曜日、行きましょう!」



 短い時間だったけど、ここに来れてよかったな……。

 ほんとによくしてくれる人ばっかり……。

 思い返せば心が落ちたままお世話になったのに、米田さんにもよくしてもらい、いろんな場所の人からも気遣って声をかけてもらい、偶然にもスカイさんと会う事もできたし、そのスカイさんがとてもいい人たったし、そのスカイさんが向井さんで……、向井さんには迷惑かけてばっかりで……。



 こんないい人たちがいる社内に私にあの電話をかけてきたり、写真を送ってきたりした人がいるかも……、と一瞬でも思ってしまった事を申し訳なく思う自分がいた。



 あと少しで、ここを辞める。

 だから、もう何もしないで欲しい……。

 ここの人たちをそんな目で見たくない。


 何もなく終えれる事を切に願った。

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