繋がり
やっぱり向井さんにお願いしてはいけなかった……。
今更ながらそう思った。
こんな事になる事を思ってもみなかった。
浅はか過ぎた……。
何枚もの写真を手に私はリビングに一人立ち尽くす。
写真は一日に撮られたものではなく、数日間に渡って撮られたものだった。
全く気付かなかった……。
写真の中の私はどれも楽しそうに向井さんと話していた。
自転車を押す向井さんの横で私はどんな話をして、聞いてきたのだろう……。
思い出そうとするが、特に印象に残る話をした訳でもなく、でも、毎日が楽しかったという事しか浮かばなかった。
確かに、楽しかったし安心できた。
それは向井さんの人柄に甘えていたという事で、私はそれに気付くのが遅かった。
もう向井さんを巻き込んではいけない……。
私は明日、向井さんに謝り、もう一緒に帰る事をやめる事を伝えようと思った。
封筒ごと通勤用のバッグに押し込み、私はまた食器の片付けに戻った。
何の為にそんな事をするのか……。
私はその差出人に何をしたんだろう……。
見えない相手に何をどう考えればいいのか困惑した。
ただ、私には早く会社を辞めて欲しいという事はわかっている。
あともう少し、もう少しだけ待って欲しい……。
私は見えない相手に願った……。
翌日、私は小休憩に久しぶりにあの渡り廊下へ行った。
私の手元にはファイルが一つ。
その中にあの封筒を忍ばせ持ってきていた。
向井さんが来るとは限らないが、チャンスがあるとしたら今だけ。
今日の帰りからは私に付き合ってもらう事はできない。
私は向井さんが来るのを待った。
しばらくすると、工場側のドアが開き向井さんがやってきた。
私を見るなりびっくりした顔でこちらへ歩いてきた。
「ここで会うの、久しぶりですね! びっくりした!」
「久しぶりに来ました……。 向井さん、少し話せますか……?」
「大丈夫ですよ! 何です?」
私の隣に座った向井さんにあの封筒を差し出した。
「これ……?」
「中、見てもらって大丈夫ですよ。 見てもらってもいいですか?」
そう言うと向井さんはそっと中身を取り出した。
「これ……」
黙ったままゆっくりと写真を一枚一枚見ていた。
「手紙も読んでください……」
向井さんはそっと手紙を開き、短い手紙をさっと読み終え静かに閉じた。
「私がこんな事を頼んでしまったから……。 本当にごめんなさい……。 それで、今日からもう一緒に帰るのは辞めましょう……。 もっと考えるべきだった……」
「でも、不安でしょ……?」
「あともう少しだし、大丈夫ですよ。 それより向井さんが知られてしまったから……、向井さんの方が危険です。 ほんとにごめんなさい……。 私はもう少しで辞めますが向井さんはそうじゃないのに……、ほんとにごめんなさい!!」
向井さんは下をうつむき黙ったまま……。
これらからの事を考えたりしてるのかな……。
自分のせいでこうなってしまった事にこの場に私がいる事が申し訳なさすぎた。
私なんて見たくないだろう……。
今私ができる事と言えば、目の前から立ち去る事。
きっと向井さんも言いたい事もあるだろうから……と、何か言われるのを待って去ろうと思っていた。
……!!
顔を上げた向井さんは笑っていて、話し始めた。
「撮られましたね……。 誰だよ、こんなのしたの。 つけてたんですねーー。 こんなのが送られてきたら怖かったでしょ?」
あれ……、何か怒ってない……。
笑って怒る人なのかな……。
「全然気が付かなかったですね。 でも、俺全然平気ですよ。 一緒に帰れますけど……。 けど、安堂さんがきっと平気じゃないんでしょ? 俺に悪いと思ってるんでしょ?」
私は小さく頷いた。
「安堂さんはそういう人だ。 優しい人だからそう言うと思う。 一緒に帰るのは辞めるんですね。 俺なら大丈夫ですよ。 さっき、もう少しって言ってましたけど……」
「あと1ヶ月で辞めるんです……。 私はあと1ヶ月だから……。 これ以上向井さんに何かあるといけないから、辞めた方がいいです。 本当にごめんなさい……」
「そっか……。 じゃあ、交換しておいてください!」
そう言って見せられたのは、スマホのメッセージアプリだった。




