無情な青空
静かに受話器を置き、一点を凝視し黙ったままの私に米田さんが気付いた。
「どうしたの? なんかあった?」
何やら書類の作成をしていた様だが手を止めて心配そうに覗き込む。
「いえ……、大丈夫です。 すみません」
晴れない心で仕事に戻る。
私の行動ひとつひとつを思い出すが全くわからなかった。
田中さんという人が言った、『見ててイライラする』という言葉。
田中さんはどこから私を見ているんだろう……。
今、習い事をしている訳でもないし、友達とよく会社帰りに会っている訳でもない。
家と会社の往復がほとんどで、会社の人か、行き帰りの電車の中で会う人なのかな……と勘繰った。
そういえば、仕事を辞めてと言っていた。
私がもうすぐ辞める事を知らない人……。
私が契約期間満了で辞めるのはもうある程度広まっているはず……。
社内の人で知らない人もいるのかな……。
社内の人でわたしが辞める事を知らない人が、電車で会ってる人……と、想像した。
私がが何をしたんだろう……。
モヤモヤした気持ちで仕事をしていたが、ふと、デスクに置いた缶コーヒーが目に入った。
向井さん、今日も行くのかな……。
あの渡り廊下へ行くのかな……。
行けば会えるんだろうか……。
私は小休憩にあの渡り廊下へ久しぶりに行ってみる事にした。
久しぶりに来た渡り廊下は以前と変わらずベンチが一つあるだけで何も変わった様子はなかった。
遠くから聞こえる休憩中の座談会の声がうっすら聞こえる。
何かを話している声や、笑い声、ひとときの緊張から解放されてみんなリラックスモードの様だ。
残念ながら向井さんは来ていなかった。
今日はいて欲しかった。
向井さんに詳しく話すつもりもないけど一緒にいる事で一瞬でも心のモヤモヤを忘れられたらいいなと思っていた。
私は一人ベンチに座り、青過ぎる程晴れ渡った空を眺めていた。
こんな日に限って、心とは正反対の青空……。
そんな空を見て私はため息しか出なかった。
小休憩もそろそろ終わり……。
事務所に戻って仕事を再開しようと重い腰を上げた。
「安堂さん!!」
その声は向井さんだった。
振り向くと向井さんはこっちに走ってきてくれていた。
私は誰かに嫌がられている。
そんな私に向かって走ってきてくれるなんて、そんな姿を見るとありがたい気持ちと、会えた事の喜びとで泣きそうになっていた。
「安堂さん、今日来てたの!? 知ってたら早く来たのに……。 僕、小休憩、今からなんですよ! 残念だなーー」
いつも笑顔の向井さんにホッとする。
私は自分でもびっくりする行動に出た。
「向井さん、お願いがあるんですけど、しばらく一緒に帰ってくれませんか……? あの、シフトが合う時だけでいいので……」
向井さんはいつもの私ではない事に気付いたのだろう……。
さっきまでとは違う真剣な顔になった。
「何かあったんですか……?」
私は優しい声に涙が溢れそうになった。
その涙がこぼれない様に目に力を入れる事に必死だった。




