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窓越しの空  作者:
50/100

分岐点

 夫は何も気付かずお風呂に入っている。

 シャワーの音が私の存在をかき消してくれている様でありがたかった。


 これは何かあるのかも知れないな……、とそう思った。


 私はもしも……を想像する様になった。


 私たちはなぜ夫婦であるのか。

 夫婦であるのか必要はあるのか。

 夫婦の形に拘る理由とは……。


 私はどうしたい?

 泣き崩れる事もない、すがる事もない。

 悲しさ、辛い、悔しい、そんな気持ちはもう私の中には残ってなかった。

 別れようと考えた事もない。

 夫が嫌いという訳ではない。

 ただ、ここまで何も思わないものかと思う。

 世間一般の夫婦ってこんな感じなのかな……。

 いや……、そんな訳ない……。

 うちには子供がいないから……?


 私は妻という仮面を被っただけで妻にはなりきれていなかったのかも知れない。


 このままでいいのかな……。


 お互いこの形のままで歳を重ねていく事で、自分が自分の人生をふりかえる時、生きてきて楽しかった、と、また自分に生まれたいと心から思えるのか……。


 何となく時を過ごす事をもったいなく思えたりもする。

 夫にそんな人がいるならば尚更。

 私と夫婦という形をとっている事で、コソコソとしなければいけないのなら、私とは別れて新しい道を進む選択だってある。


 私に悪いと思っているのかな……。

 夫に残った愛情なのか……。


 どう夫に確認すればいいのだろう……。

 こんな不確かで、もしそうであったとしても自分自身も憤りも感じていない事をどういう気持ちで夫に問いただすのか……。


 自分自身、スカイさんという人に恋をした、それは紛れもない事実だ。

 夫以外の人にそんな気持ちを抱いてしまったという事は、私も夫に強く言う資格はない。


 いろんな事が考えては消え、また新しく思う事が生まれ……、それを繰り返していた。


 夫にそんな人がいるいないに関わらず夫婦のこれからを考える時期に来てしまったんだろうか……。


 何も気付いていない夫がのんびりとお風呂に入っている。

 この家にどんな気持ちで帰ってきてるんだろうか……。


 確信をついた事がある訳でもないのに無駄な事を考えているんだろうか……。


 私は心が忙しかった。





 ある日、仕事中に内線が鳴った。



「はい、安堂です」



 私は違う部署の人からの電話を待っていたので、やっとその人からの電話だと思って飛びつくように電話に出た。




「あ! 安堂さん?」



 けれど電話の向こうのその声は私が待っていた人の声ではなく、総務の女の人からだった。




「お疲れさまです。 安堂さんに田中さんって人から外線が入ってます」




 そう言われ、あの電話を思い出した。

 同じ名前の人……。

 またあの人なのかな……。




「安堂さん……? どうしました?? 電話、取り継がない方がいいのかな……?」



 一瞬、無言になった私にそう言ってくれた。




「あ、いや、すみません! 大丈夫ですよ、取り継いでもらってもいいですか?」



 心臓のドキドキという鼓動が速くなるのがわかる。

 相手がわからない事がこんなにも恐怖に思う事を初めて知った。

 私との接点は何だったんだろう……。

 怖さでいっぱいだったが、夫の事も重なって、もしかして……というのもあった。

 勇気を出すしかない……。



 私はまた田中さんという人と話してみる事に決めた。

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