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窓越しの空  作者:
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平常心

 あの匂いはいったい何なんだろう……。


 全くわからなかったが、でも、あの匂いからは綺麗な大人の女性を連想させた。


 全く所帯じみず、生活感のない感じ。


 勝ち組な、高層マンションに住んでそうな、いつ見てもメイクはばっちり、着ているものにもお金をかけてそうな、そんな感じを彷彿させる匂いだった。


 これで2回目……。

 私が気付かなかっただけで、もっと前からこういう事はあったのかな……。


 日頃の夫に変わったところなどない様に感じた。

 夜ごはんを食べ、お風呂に入りさっぱりとして、ソファに深く座りスポーツニュースを観るといういつものお決まりのスタイル。

 いつもとどこも変わらなかった。


 その後も夫の出張は変わらずあったが、あの時以降は私もあのいい匂いを感じていない。


 私は少し経ったある日、夫に仕事の事を少し聞いてみた。




「今回はどこに出張だったの?」





「え? 今回は九州。 2県回って帰ってきたけど、何で?」





「いや、特に理由はないんだけど、どこだったのかなとふと思ったから聞いただけ」



 そんな話をしてみたけれど、夫の様子は変わる事もなかった。

 目でも泳いだり、声がうわずったりしたらわかりやすいのに、その期待を裏切る様に夫は普段通りだった。


 あの時感じた事は気のせいだったのかな……。


 自然とそう思うほどだった。


 今日も夫の気まぐれで私が夫の持ち帰った洗濯物を洗濯機に放り込んだけど、あのいい匂いは感じなかった。




 夫にもしもそんな人がいたら……。



 嗚咽し悲しむ自分の姿を想像できない。

 普通じゃない。

 でも残念ながら私はそんなよく描かれる奥さん像ではなかった。


 けれど、どうなんだろう……?とは思う。

 真実を知りたいし、知った時、自分はどうするんだろう……。

 そんなモヤモヤはある。

 それに、あの電話。


 もしかしたら、その相手の人だったのかな……。


 そんな関連性を考えたりしてみる。

 けれど、結局は答えは出ない。

 私は気持ちにモヤモヤを持ったまま日々を過ごしていた。






「安堂さん!!」




 社内で声をかけられ振り向いた先には向井さんがいた。

 どれくらいぶりだろう……。

 遠くから近寄ってくる向井さんを見ながら、あの帰り道に二人で話した時の事を思い出した。


 何だか、くすぐったい感じだった。




「向井さん、お久しぶりですね。 元気でした?」





「元気でしたよ。 安堂さんも元気でした? もうずっと渡り廊下に来ないから……」




「そうですね、ずっと行ってなかったですね」





「俺は行ってますよ。 また空の写真、待ってますよ」





 そう言ってまた工場の方へ戻って行った。


 向井さんはあんまり話さなくとも穏やかに時間が流れる感じで居心地がいい。

 向井さんが出す雰囲気なのか、言葉の柔らかさなのか……。



「向井さん!! また行きますね!!」




 私は遠くなって行く向井さんに自然とそう叫んでいた。





「待ってますね!」



 そう言って小さく手を上げ笑顔を見せ、また工場の方へと戻って行った。


 自然とそう声をかけた自分にびっくりした。

 なぜそんな事ができたのかその時はわからなかった。

 歩きながら気にかける様に何度も振り返った。

 工場へと帰る後ろ姿を見えなくなるまで見送った。


 そういえば、空の写真、最近撮ってなかったな……。


 明日朝、久しぶりに撮ってみようかな……。

 明日はどんな空なんだろう……。

 いい写真が撮れるといいな……。


 私は朝を楽しみにしていた。





 今日は夫が帰ってくる日で、マンション近くのスーパーで買い物を済ませて帰ってくると珍しく夫が帰ってきていた。



「あ! おかえり」




 リビングに入った私に夫はそう声をかけた。




「ただいま。 亮輔、今日早いねーー。 珍しいね」





「こっちに早く帰れたから。 予定より早い飛行機に乗れたからね」





「そうなんだ。 ごめんね、ごはん今から作るから。 ちょっと待ってて」





「じゃあ、俺、お風呂入ってくるわ」



 そう言って夫はお風呂へと向かった。

 今日はきまぐれのいい方の方で、洗濯物は洗濯機の中へ入れてある。


 ほんとにきまぐれだ。

 いつもしてくれると楽なのに……。


 ……とふと見るとソファ横に靴下が落ちてあった。

 どうやら洗濯機に入れる洗濯物の中の一つが落ちた事に気付かずそのままになっていた。



 落ちてる事に気付いてないんだ。



 私は靴下を拾い、洗濯機に入れようと洗濯機の蓋をあけた。



 あ……。



 私はまたキャッチしてしまった。

 またあの匂いを感じたのだ……。

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