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窓越しの空  作者:
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ズルい

 次の派遣期間の更新はなく、私はあと2ヶ月でこの会社での派遣業務を終える事が決まった。



「安堂さんがいて当たり前になってたのにね……」




 ありがたい事に、いろんな人がそう言って寂しく思ってくれた。




「終わりは決まったけど、あと2ヶ月あるから……。 ちょうどのんびり仕事ができる様になってきたから、ゆっくり仕事しよう!」



 米田さんは目の前の書類の山を片付けながらそう言った。

 米田さんには本当にいろんな事を教えてもらった。

 心を閉ざしたままの私にも、腫れ物に触る様な事はせず普通に接してくれた。

 気付いていない訳ではない。

 心を開くタイミングを私に委ねてくれたんだと思った。

 その優しさに気付いた時、自分もこのままじゃいけない、いつまでも下を向いててはいけないと、変わる事へ気持ちを加速させてくれた様なそんな気がした。


 米子さんにはいろいろ話せる様になり、プライベートの事も話す事もあった。



 この前の、夫の洗濯物の話。




「米田さんはどう思いますか……?」





「匂いと口紅であろうシミねぇ……。 私ならその場で問いただすかなーー?」



 大笑いしながら米田さんは話を続けた。




「……まぁ、うちの旦那はそういうタイプじゃないから考えにくいけど……。 何ていうの? おうちが大好き人間だからそうなったらわかりやすいかも? 家でまーーったり晩酌しながらテレビ観たり、私と話すのが好きなのよ。 仕事から帰った後のその時間を楽しみに生きてる……。 そんな旦那が浮気とかしたら、私、ひっくり返るわ!」



 米田さんはもしもの想像をしてさらに大笑いしていた。

 米田さんはいつも笑ってる元気いっぱいの人で私まで元気になる。

 私は米田さんのポジティブさが好きだ。



「でもそんな事があっても、安堂さん、案外、でーーんと構えてるんだね。 大丈夫なの?」






「案外、そうでしたねーー。 実際、浮気なのか女の人がいるお店で付いたものなのかはわからないですけど……、誰のものなんだろう?とは思いましたけど……。 興味の方が大きいんですかねーー?」






「もしも、もしもよ、浮気だったらどうする?」






「どうするんですかねーー? でも、ちゃんと話を聞くとは思います……。 今はそこまで深刻に思ってないんですけど……」



 そう米田さんには答えた自分に吐き気がした。

 最後にいい妻を演じた様に答えた私。

 もうそこまで夫の事を思っていないというのが一番の理由なのに……。

 米田さんにいろんな事を話せる様になったが、自分をよく見せるという事は自然と徹底していたんだろうな。

 自分は夫ではない人に恋をし、その人に失恋し、そしてその人はまさかの同僚だった。

 そんな真実もある。

 米田さんといろんな話をする私だったが、ずる賢い私はそんな夫に対しての気持ちがあったという事は言わない選択をしていた。



「そんな事があるとさ、気落ちする人がほとんどじゃない? 安堂さんはでーーんと構えてるからよかったわ。 私なんかはもう歳だし、そんな気落ちする歳でもないけど、安堂さんはまだ若いから。 でもお店の女の人だったんじゃないのーー? 今まで旦那さんにおかしいな?って思った事はないんでしょ?」






「ないですねーー。 今回が初めてなのかなと思います……」





「じゃあ、やっぱり違うんじゃない? 適度にモテる旦那もいいけどね。 モテないよりモテるの方がいいじゃない?」



 そんな事を話しながらまた仕事に戻った。

 私が気落ちしていないとは思いつつも、そうやって念の為の冗談まで言ってくれた米田さんに改めて優しさを感じた。



 いつも元気で笑顔な米田さんの様な奥さんだと、家に帰ってくるのも楽しみだったのかな……。


 私たちはどうだろう……。

 出張から帰ってくる夫を待ちわびる事も、出張から急いで帰ってきて、出張中にあった事を話しながら楽しく食卓を囲む事も私たちにはなかった。


 洗濯物の件があったなかった以前の問題だった。

 ふと考えた事だったけど、これからを少し考えるきっかけになった出来事だったのかも知れない。


 そう思いながら仕事に戻った。



 ある日、総務の人から内線がかかってきた。


「安堂さん、お疲れさまです。 今、安堂さん宛に田中さんという女性の方からお電話がかかってます。 何か、急用みたいですよ!」



 そう言われたが、田中さんという女性に心当たりがなかった。

 わからないけど、父や母に何かあって、夫かも知れないし……と、この展開にいい連絡ではない事だと思ったので電話を取り次いでもらった。


 内線が切れ、点灯している外線ボタン1を押した。


 どんな話になるんだろう……。

 相手は誰なんだろう……?

 不安でしかない電話に勇気を持って出てみた。



「はい、お電話変わりました安堂です……」




「安堂ユウさん……?」


 その声は女性だったが聞き覚えはなかった。




「あ、はい、そうですが……」




 プツ……。

 ツーーツーーツーー……。



 電話が切れた。



 え……?



 私は一気に不安と恐怖でいっぱいになった……。

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