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窓越しの空  作者:
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魅惑な匂い

「あ、俺がやるのに……。 変わるよ。 ユウだって疲れてるでしょ……」



 ワイシャツをじっと見ていた私に後ろからそう話しかけてきた。


 ワイシャツに付いたあの綺麗な色は間違いなく、女性のものだった。

 口紅がサッと擦れた程度の薄い色だったが間違いない。


 不思議な事に、夫婦関係は破綻していると思っていても今目の前に起こっている現状に思考が固まったりするんだと少しびっくりした……。



 場所は左の腰の辺り。

 でも何でこんなところに付いてるんだろう?

 得意先の人と女な人がいる所へ飲みに行ったりした?

 そういう事だってあるだろう。

 そんな時に付いたのかな……?

 でも、どうやったらあんな場所に付くんだろう……?

 もしかして特定の女の人がいたりして……。

 それは今まで気付いた事がない。


 私は証拠を隠す様にワイシャツを洗濯機へ押し込んだ。





「してくれるの? じゃあ、お願いしようかな……」



 そう言って夫の珍しいご厚意に甘える事とした。


 それにしてもいい匂いだった。

 口紅だけじゃなく、ワイシャツ自体にも付いていたのかな……。

 女性らしいというか、女性の私が言うのも何だけど、私よりもずっと女性としての意識が高い、そんな事を想像させる人が付けていそうな、そんな感じのとてもいい匂いだった。




 洗濯物を洗濯機へ入れる夫を見て、証拠隠滅している様に見えてくる。

 本当はどうかわからないのに……。

 私は追求せず気付いていないふりをする事にした。


 そういう女の人がいるお店に行くのは悪い事でもないし、もし、特定の女の人がいるならば……、いるならば……?



 私はどうするんだろう……。


 今まで考えもしなかった事を考えてみた。

 もしそうなら、何で離婚しないんだろう……。

 夫もそこまで本気じゃないんだろうか……?

 でも、それならいつから……?

 夫からは全くそんな気配は感じられなかった。

 私が気付かなかっただけ……?

 ほんとに最近なのかな……。



 でもそんな事を考えても、夫に対して怒りなどという感情は出てこなかった。

 むしろ興味の方が強かった。

 そう思った自分は完全に夫婦としての感覚を失っているんだと改めて気付かされた。



 玉子焼きとお味噌汁、冷凍しておいた作り置きをレンチンした簡単な夜ごはん。



「ごはん、できたよ」




 私はリビングでくつろぐ夫に声をかけた。

 テーブルに向かい合って座る。

 目の前の夫を見て、さっきの出来事を思い出す。

 何も言わずにごはんを食べている夫の心の内はいったいどんななんだろう……?



 今日も静かに二人でごはんを食べた。




 会社帰りに話して以来、向井さんには会っていなかった。

 どうしてるんだろうな……と思いながらも仕事も忙しい事もあってあの渡り廊下にも行っていなかった。


 あの日、飲まなかった缶コーヒーは会社の机に置いてある。

 バッグに入れたまま次の日出勤し、会社でそれに気付きそれから机の上に置いている。

 その缶コーヒーはお守りみたいな大切なもので、殺伐とした中仕事をしていてもふと目に止まると心が和むのだ。

 瞬時に心をリセットできたり、気持ちに余裕がない時にふと我に返ったりできる。


 私が私らしい自分に戻れるアイテムだった。

 心地よく、柔らかい風に包まれている様なそんな気持ちにさせてくれる大切なものだった。

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― 新着の感想 ―
[一言]  どうもご無沙汰しております、更新お疲れ様でございます。スカイさん=向井さんだろうと思っていました。実際にこんな事はあるかと言えばないと思う、ご都合主義と言えばそうかもですが小説だからこれく…
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