いつも通り
帰りの電車の中、まだ電車の中には人は多い。
電車の中からマンションや家にあかりがついているのが見える。
家族で楽しくごはんを食べているのかな、帰りを待ってる人がいるのかな、そんな事を思いながらもこんなに人がいるのになぜ向井さんだったんだろうと考えても出てこない答えを考えていた。
「安堂さん、いつも通りで」
そう言って向井さんは帰って行った。
いつも通り……。
そうだよね……。
……いつも通りか……。
それが難しかったりするんだよな……。
派遣社員だし、気まずくなったとしても派遣期間内何とか過ごせばもう関わる事もなくなるし……と、意気込んで話していたのに、向井さんの人柄にそんな強気でいようと思っていた自分はどこかへ行ってしまった……。
やっぱり向井さんとは変わらず楽しくいたいと思っていた。
駅から自宅のマンションまでの道のりは5分程度だったが、考え事をしていたせいかいつもより早く着いた気がした。
今日は早めに寝ようと思いながら何となく目にした自宅を見ると明かりがついている事に気付いた。
夫が帰ってきている。
今日は亮輔の帰る日じゃなかったはず……。
予定が変更になったのかな……。
ごはんの用意なんてしてないし、冷蔵庫の中、何かあったっけ……?
そんな事を考えながら私は急いで自宅へと向かった。
ドアを開けると、キャリーケースが置いてあった。
明日帰るはずが今日に変わったのかな……。
私は置かれたキャリーケースをリビングまで持って行った。
浴室からシャワーの音が聞こえる。
私は着替えを済ませ、夫の持って帰った洗濯物を片付け始めた。
夫は几帳面で綺麗に片付いてないと気が済まない。
キャリーケースの中もいつも整頓されていて、洗濯物もすぐ取り出せる様になっている。
……とその時、夫がお風呂から出てきた。
「びっくりしたーー! なんだ、ユウ帰ってたの……? 気が付かなかったよ……」
「さっき帰ってきた。 亮輔こそどうしたの? 明日帰るんじゃなかったの?」
「あ、うん、そうだったんだけど、客先の都合で予定が変わったから……。 ユウこそ遅くない? 残業?」
「あ……、うん……。 あ、それより、ごはんは? 亮輔が帰ってこないと思って何も用意してない……。 あるもので簡単にになるけどいい……?」
「それでいいよ」
私は夫の顔を見ずに話をそらした。
さっきまで向井さんと話していた。
実情はただ話していただけ。
話していただけだけれど、無視できない心情もある。
会社の人と立ち話していただけだけれど、それだけではない。
残業というものに頼った。
キャリーケースの中から洗濯物を取り出し、洗面室へ向かった。
少しの後ろめたい気持ちを抱きながら洗面室へ逃げたのだ。
気持ちを切り替える為に少し距離を置いた。
いつもの様に出張から帰った夫の洗濯物の仕分けをする。
持ち帰りの袋の中に入れられた衣類はいつものごとく折り畳まれていた。
……ん?
私はいつもとは違う感じをキャッチした。
何かいい匂いがした。
何の匂いだろう……?
ホテルの匂い?
いや……、そんなの付かないよね……。
畳まれた洗濯物を一つずつ広げ洗濯機へ入れていく。
と、同時に気付いてしまった。
夫のワイシャツに薄く色の付いた箇所を見つけた。
匂いはそこからだった。




