ふたつの心
時間が止まるとはこういう事なのか……。
向井さんの言葉をスカイさんの言葉として変換する事を頭が処理できないでいた。
私に向けられる優しい眼差しと優しい言葉は、想像したスカイさんそのままだった。
ただ、あれほどまでも愛おしいと思っていた人を向井さんと被らせる事が難しかった。
「最初は空の写真をSNSで見かけたのがきっかけでした。 その空の写真を載せている人を見ると少し前から投稿しているみたいで、そのいろんな空の写真を見させてもらいました。 その写真たちはいろんな表情をみせるバイタリティーあふれるもので、俺はyuuさんが投稿するのを毎日楽しみに待っていました。 その後、やり取りが始まったんです……」
向井さんは何だか懐かしそうに話し始めた。
その相手は私だったなんてどう思ったんだろう……。
私もびっくりだけど、向井さんだってびっくりなはずだ……。
「そうですね……。 そんなに前の話じゃないのに何だか懐かしい気持ちです。 私がyuuでびっくりしましたか?」
「びっくりしましたよ。 まさかって思いました……。 でも実際に会ったyuuさんは自分が想像していた通りの人でした。 あのトイレの前で会った時、安堂さんは嫌な感じだったと思っているかも知れないけれど、俺はそんな感じはなかで何となく気になってました。 SNSを辞めたのは、yuuさんをほんとに好きになってしまったから。 最初SNSの中だけで楽しく話せればいいと思っていたけど、それで満足できなくなってきて……。 会う約束までしたけれどやっぱりこれは進めてはいけないんじゃないか、そう思ってSNSを辞めたんです。 一方的に辞めてごめんなさい。 でも、あなたが既婚者でも関係ないと思った。 それだけ真剣だった……、それは嘘じゃないです」
それはSNS上のyuuの話。
ありがたい言葉だと、心に染みるほど嬉しい気持ちなのに複雑だった。
「私も、スカイさんの事は好きでした。 会った事もない、声も知らない人だったけど、毎日のメールのやり取りで私の中では素敵な人と認識したスカイさんとのやり取りに私は夢中でした。 これがSNSマジックなのかも知れません。 恋愛ごっこなのかも知れないけど、私の心が満たされたのは事実です。 スカイさんが会おうと言ってくれた時は本当に嬉しかったです。 やっと会える、素直にそう思ったんです。 それが私の答えだったんだなって、もうメールだけじゃ満たされない程、スカイさんという人に会いたくなってるんだと思いました……」
私は今まで誰にも言えなかった気持ちを向井さんに向かって話した。
これまで心にしまっていた気持ちを何の遠慮もなく全て話せる事に清々しささえ感じていた。
引っ掛かりが取れたみたいに止めどなく。
スカイさんに向けて話しているのだが、そうじゃない感じ。
だからこそ気持ちも軽く話せるのだろう……。
私のスカイさんへの思いは、今やっと、やっと変わろうとしていた。
立ち止まったままだった気持ちがやっと動き出そうとしていた。
一人でいたかったあの渡り廊下で、いつも静かに隣にいた向井さんが実はスカイさんだったなんて、こんな偶然ってあるんだ……。
静かではあるけど、一人にして欲しい……。
心の中でそう思ったけれど、本当は会いたい人が隣にいた。
そんな偶然、凄いに決まってる……。
「俺ね、yuuさんを忘れるためにSNSを辞めたんです。 そんな時、安堂さんが現れた。 安堂さんは最初から何となく気になる人でした。 寂しそうに感じたのは大きかったです。 あの渡り廊下で安堂さんと話す度、安堂さんにyuuさんを重ねていたのかも知れない。 安堂さんは俺にとって居心地のいい人でした。 yuuさんを忘れる為に俺はあの渡り廊下へ行っていたんだと思います。 あなたに癒して欲しくて通っていたんだと思います。 今思えばすごい話です……。 忘れようとしている人に実は癒されていたなんて……」
向井さんの話を聞きながらyuuであった自分を思い出していた。




