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窓越しの空  作者:
39/100

これからの事

 今日は夫が出張で帰ってくる日。

 あの日以来、私は今まで以上に夫と話す意欲がなくなり、出張で帰ってくる日が億劫になっていた。


 夫に思った事も言わず……、というより、言う事も面倒だと思い心に引っ掛かりを残して夫との時間を過ごしている感じだった。

 私はいつもと変わらず、夜ごはんを作り、夫の帰りを待つ。

 相変わらず夫はキャリーケースを片付けたり片付けなかったり……。


 今日は片付けている。


 前までの私なら、片付けてくれている事に、やればできるじゃん!と、3回に1回でもやってくれたら助かるな……、そんな風に思っていたのに、今は、何で毎回やらないの……?、1回やれるなら毎回やれるでしょ?……、そんな風にしか思えなくなっていた。



 夫は私の事をどう思っているんだろう……。


 夫が帰るこの場所は、夫にとってどんな場所なんだろう……。


 明らかにお互い夫婦という形だけでお互いを見ていない。

 楽しくない日々を無理に過ごす程意味のない事はない。

 私は今の生活とは別の選択も頭をかすめる様になっていた。

 今とは違う毎日を想像する。

 ただ、無力な自分にまだその勇気が持ててなかった。


 今じゃない……。

 今は自分に力をつけよう。

 自分一人で暮らせるだけの力をつけよう。

 考えるのはそれからだ……。



 私は仕事に没頭する事に決めた。

 もうあの渡り廊下へは逃げる事はしない。

 向井さんとは交流がなくなるけれど、自分のこれからの人生の為にやらなきゃいけない。

 スカイさんの事もすっぱりと忘れなきゃいけない。


 それからの私は米田さんの元で今まで以上に仕事をふってもらった。

 少しの時間があればその時間でやれる事をさせてもらったり、少しずつ自分からも動ける様になってきた。

 米田さんの負担が減り、米田さんも喜んでくれる事が嬉しかったり、ようやく、仕事を楽しいと思える様になってきていた。


 渡り廊下へ行かなくなって1週間が過ぎた頃、仕事を終えた私は会社の入り口で声をかけられた。

 振り向くとそこには仕事を終えた向井さんがいた。


 工場勤務の人とは定時が違って、私より1時間ほど早く終わる。

 その向井さんがいたのだ。



「あ! 向井さん。 お疲れ様です。 どうしたんですか?」





「お疲れ様です。 安堂さん、ちょっといいですか?」



 向井さんは私が終わるのを待っていてくれたのだろうか……。




「あ、いいですよ。 どうしましょうか……?」




「そんな長くない話なので……駅まで一緒に行っていいですか?」



 そう言われ、駅までの道を歩く事にした。


 何か話があるのかな……。

 何だろう……?


 辺りは少し薄暗くなり始めていて、帰宅する人で溢れかえりつつあった。

 車道にも車も増え始め、少し賑やかになっていた。


 そんな中、向井さんは自転車を押しながら話し始めた。



「最近、渡り廊下、来てないですか?」




「そうなんです。 仕事が結構忙しくなってきて行く時間がなくて……」


 私は詳しく話す事はせず、それなりの理由にして向井さんに答えた。

 本当の理由など話すつもりもなかったが、向井さんも聞いたところで困るだけだろう。


 理由は何でも良くて、渡り廊下へ行ってない事さえ伝わればそれでよかった。


 向井さんは少し前に比べ最近は少し違った雰囲気だった。

 物静かで朗らかなのは変わらないのだが、どこか緊張している様な、慎重になっている様な、そんな感じがした。

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