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窓越しの空  作者:
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優しい空気

 いつも渡り廊下に来ていた向井さんが来なくなって一週間が過ぎた。



 どうしたんだろう……。



 毎日会っていた人がパタリと姿を見せなくなるのは気になる事だった。


 例えば、事故にあったとか、自身に何かあったら総務部に何らかの連絡はあるはずだし、会社の事を熟知している米田さんがどこからも何の情報も得ていないのは、何もなくただ、あの渡り廊下に来ていないだけなのかな……と思っていた。


 私自身、少しずつ他の部署の人とも顔見知りになりつつあるが、工場の人とはなかなか顔見知りになる事がなかった。


 人が多いというのもあるし、私がいる事務所に工場勤務の人で出入りする人はある程度決まっていて、顔見知りになるのもそのわずかな人だけだった。



 向井さんに見せようと思っている空の写真が溜まっていく。

 スマホの中の写真フォルダを見ながら、次会った時にはどれから見せようかと考えるのも楽しみの一つになっていた。



 でも、どうしたんだろう……。

 仕事が忙しいのかな……。

 ここに来ているけれど、時間が合ってないだけなのかな……。



 今週一週間は、向井さんと会う事のない一週間だった。


 来週は、ここで会えるのかな?

 そう思う自分もいた。


 一人ベンチに座りぼんやりとする。


 こんなにも置いてあるベンチって広かったっけ?


 なんだか静か過ぎるけど、こんなに静かだったっけ?


 向井さんはあまり話さない私に、少しずつのペースで話しかけてくれていた。

 それも私に寄り添い、黙って隣にいる事も多かった。


 私も気が付かなかったが、そのゆっくりと時間が流れるその空間が居心地がよかったんだろう。

 同じ空間にいた事は知らない間に自然な事になっていて、その事にすら気付いていなかった。


 現実を受け入れられなかった私は、ただただ時間が流れて行くのを待っていたけれど、その流れる時間はとても穏やかで優しくて知らず知らずのうちに癒やされていたのかも知れない。


 一人になりたくて来ていたこの渡り廊下が、いつしか、向井さんと話す場となり、和やかな心を少しずつ取り戻す事ができる場所になっていた事に気付いた。


 ありがたかった向井さんの存在。

 一週間会わない期間があってやっとそんな事に気付く。



 次の週、私はいつもの様に渡り廊下へ行くとそこには向井さんがいた。

 ベンチに座りスマホを眺めていた。




「お疲れ様です! 向井さん、お久しぶりじゃないですか?」




 私はそう言って声をかけた。


 一週間ぶりの向井さんはいつもの向井さんに見えた。

 いつもより大きな声で話しかけた事を自分でも気付き、意外な自分にびっくりした……。




「あ、お疲れさまです。 先週、ちょっと来れなくて……」





「そうだったんですね。 向井さんに会ってない間も空の写真を撮ってましたよ」




 私はスマホを取り出し、いつもの様に空の写真を見せようとした時、向井さんが話し出した。




「安堂さんってお住まいって隣町でしたっけ?」





「あ、そうですよ。 電車で30分くらいかな? 向井さんはこちらですよね? お近くなんですか?」





「僕はこっちです。 自転車で通勤できますよ。 雨の時だけ電車で来ます」




 また、穏やかな時間が流れ始めた。

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