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窓越しの空  作者:
36/100

きっかけ

 派遣されている会社はまだまだ忙しい時期で、私は毎日時間に追われる日々を過ごしていた。


 社内もみんな忙しくしていて、張り詰めた空気になる場面もあるけれど、居心地が悪いわけじゃない。


 忙しい中でも社内の雰囲気がよく、米田さんにも可愛がってもらい楽しい時間を過ごしていた。


 忙しいという事は私にとってはよかった事で、少しずつスカイさんの事を思い出す頻度が減りつつあった。




 思っても仕方ない人。




 なかなか整理がつかなかったが、忙しいさのおかげでそう思えるようになっていた。



 私は仕事の延長が決まった事を夫に伝えた。




「へぇーー、そうなんだ。 まぁ、ユウかいいならいいんじゃない? でも、意外だねーー。 ユウ、久々の仕事だしそんなに続けると思ってなかったよ」





「え? どういう事?」





「もういいや、ってすぐ思うかな、と思った。 少し仕事したら満足してまた専業主婦に戻るんじゃないかと思ってたけど」




 そう言われ、その後話を続ける言葉を見つける事ができず私は黙り込んでしまった。


 仕事を遊び感覚で始めたと思っていたのか?

 そんな訳ない。

 やるからにはそれなりの責任を持って仕事を始めたつもりだ。



 なのに何……?



 夫の会社でも私と同じ様に派遣社員を雇う事だってあるだろう。


 その人たちも私と同じ様に遊び半分とか腰掛けだとかそんな風に見てたりするんだろうか……。


 自分は立場ある役職で全国飛びまり出張ばかり、忙しく充実した毎日なのかも知れない。

 自分が会社を回してるんだ、くらいに思ってるんだろうか?


 夫を自分以外に頑張ってる人を認めないというか、全く見ていない、見ようともしない、よく耳にする最低の上司に見えてとれた。



 一気に話す気を損ねてしまった。





「延長してあと3ヶ月なんだよね? まぁ、やるといいよ。 楽しんでやる事はいい事だし」




 何だろう……。

 米田さんや向井さんに話した時との温度差を感じてしまう。

 あんなに喜んでくれた人たちとは全く違った夫の反応にがっかりしてしまった。


 こんな事を言う夫とこれからやっていけるんだろうか……。


 今も夫婦という形ではあるけれど、形があるたけで中身は全くだった。

 紙切れ一枚の契約を守っているだけ、そんな感じなのかも知れない。

 楽しかったり、笑ったり、ドキドキしたり、ワクワクしたり……、そういうのはもう夫とはないのかも知れない。

 そもそもそういうのが最初から少なかったし、お互いそれでよくて始まって夫婦になった。


 今の現状は夫だけのせいではない。

 私も私なんだろうな……。



 何となくただぼんやりとこの先来る老後二人暮らしを想像をしてみたが全くと言っていい程想像できなかった。

 仕事人間の夫と二人、どんな話をして、どんな事で笑って楽しく過ごしていけるんだろう……。

 会話という会話さえない今、これから歳を重ね、今と変わっていく事に期待するという賭けにでないといけないのか……。


 私はいつもの様に夫をリビングに残し、早々と寝室に入った。

 たまには少しリビングで夫と何でもない会話をする時間を作ればいいのに。

 私も私で今のままじゃいけないし、変わらなきゃいけないんだろうな……。


 一人ベッドに潜り込みグッと目を閉じた。

 そのうち寝るだろうと力を込めて閉じた目は私の予想を裏切り、結局寝れずに朝を迎えてしまった。


 いろいろ考えながらふと、思った。

 冷めきっている夫婦であっても、私は夫に米田さんたちの様に言って欲しかった。

 こんな夫婦でもまだ相手に期待する事は残っていたんだという事に気が付いておかしくて笑ってしまった。


 横を見ると夫はまだ寝ていて起きる様子もない。

 背中を向け合い同じベッドで寝る事に意味があるのかな……。


 夫を背中を見ながらそう思った。



 いつもより早くベッドから起き上がり、リビングのカーテンを開けた。


 今日は天気がいい。


 私は空の写真を撮り続けていた。

 向井さんからお願いされたのがきっかけだったけれど、元々好きでやっていた事でもあったので続ける事は苦ではなかった。

 むしろ、いい写真を撮る事が楽しみだった事を思い出していた。

 向井さんに見せる写真をどれにしようかと考えたり、こういうのは好きかなと考えたりするのも楽しかった。


 けれど最近、仕事が忙しいのか、時間が合わないのかあの渡り廊下で会わない事がしばらく続いていた。


 工場勤務の人とは社内ですれ違ったり食堂で会ったりする程度で出勤しているかどうかもよくわからなかった。


 今日も一人、渡り廊下へ来てスマホの写真フォルダを眺める。


 けれど、向井さんは今日も来なかった……。

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