報告
いつもの朝。
慌ただしく家を出て、会社にも時間ギリギリに着いた。
席に息を整えていると、米田さんがそんな私を見て笑っていた。
「大丈夫? 今日も急いで来たんだねーー。 ゆっくりでいいよ。 さっき課長が来て、出社したら応接室に行く様にって言ってたよ。 落ち着いたらで大丈夫だと思うよ」
そう教えてくれたけれど、のんびりしている訳にも行かず、応接室へ急いだ。
応接室のドアの前に立ち、深く深呼吸。
ふぅーーっと大きく息を吐きドアをノックをすると、中から声が聞こえた。
ドアを開けそこにいたのは、派遣会社の木村さんだった。
「おはようございます! お疲れ様です」
「木村さん、おはようございます。 お久しぶりですね。 今日はどうしたんですか?」
「今日はですね、契約の件で……。 先程まで課長さんとお話させて頂いてました」
契約……。
もうそろそろ満期終了の時期だった。
「あ、そうでしたね。 あと、3週間くらいですかね?」
仕事にも慣れてきたし、次の派遣先を紹介してもらわなきゃ……。
そんな風に思っていると、予想外の話になった。
「実は、企業さんからご相談がありまして、契約期間を延ばしてもらえないか……というお話で……。 安堂さんのご希望を聞いて……という事で改めてご連絡……、という事になっていまして……。 安堂さん、どうします? 環境を変えて次の企業先へ……というのがご希望であればそちらでもいいですし、せっかく仕事にも慣れてきたところだと思うので、企業さんからの延長のお話もあるし続けてみるのもいいとは思いますよ」
延長があるとは思っていなかったので話を聞いてびっくりした。
米田さんや他の人もみんないい人だし、居心地は凄くいい。
もう少しここにいてもいいのかな……。
「あの……、延長します」
私は木村さんに即答した。
「そうしますか! 僕もそれがいいと思います。 仕事にも環境にも慣れてきた頃だと思いますし……。 何より企業さんの社員の方ともいい関係を築けている様ですのでそこは大きいですよ!」
延長更新の処理ができたらまた連絡してくれる事になった。
急いで机に戻り、午前中の仕事を片付けていく。
今日は何かとバタバタしていて忙しく、延長の話を米田さんにする余裕もなく、さらに今日はお昼当番でお昼休憩をみんなとはずらして取る米田さんに報告するタイミングを私は完全に失っていた。
まぁ、今日の帰りまでに話せるといいか……。
そう思って仕事に集中した。
小休憩に入り、いつもの渡り廊下へ行くと、向井さんがもう来ていた。
「お疲れさまです!」
いつもの向井さんの感じだった。
そうだ、向井さんにも話そう。
「お疲れさまです。 向井さん、私、契約が延長になったんです……。 朝、そう言われて……」
「え!! そうなんですか!! じゃあ、またここで会えますね!! よかったーー!!」
私は思わず息を飲んだ。
嬉しそうに笑う横顔に吸い込まれそうになったのだ。
私の延長にそんなに喜んでもらえるとは……。
ありがたく、私も嬉しく思った。
向井さんってこんな感じで笑ってたんだ……。
一気に今までの向井さんを思い出した。
その勢いは凄まじい程早く、頭の中はあのトイレの前で初めて話してから今日までを一つ残らず思い出した。
決して長くはない時間を、ほんの少し重なる時間を過ごしただけだった。
なのに、いくつもの瞬間を思い出し、そのひとつひとつはいつも爽やかで朗らかで、どんな私にも静かに寄り添う、そんな感じだった。
その優しさを改めて感じてしまった。
と、同時にあのスーパーで会った女の人が誰だったのかが気になり始めた。




