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窓越しの空  作者:
32/100

プライベート

「じゃあ、また明日! 今日はありがとう!!」



 颯爽と帰っていく米田さんを見送り、私は家までの道のりを歩いた。

 お昼とは違う真っ黒な空も、その空に瞬くたくさんの星も、いつもよりは見る余裕があった。

 米田さんにも本当の自分の思ってる事を言えなかったけど、それでもいつもより足取りは軽やかに感じた。

 米田さんと話せて気分転換になったのかも。

 それだけでありがたかった。



 マンションに着いた。


 下から見る自分の部屋は当たり前だけどあかりはついていない。

 部屋を見上げた時に思い出した。

 空の写真。

 今日の今の空の写真を撮っておこう。

 私にとってはいつもと感じ方の違う空。


 私は空をまっすぐ見上げて一枚写真を撮った。


 ふうーっと一息つき、あかりをつけにマンションへ戻った。

 マンションへ戻ったらまたあの気持ちを思い出す。

 ひとときの休息だったかも知れないけど、今日みたいな日を増やして少しずつスカイさんへの気持ちを整理していけたらいいなと思えた。


 そう思えた事も一歩前進だ。

 米田さんは私に優しい風を吹かせてくれたありがたい存在。

 その心地よい風に乗って行けるといいなと、ほんの少しの希望が見えた様な気がした。



 向井さんとの空の写真の交流は静かに続き、2週間目になっていた。

 あの夜の空の写真を見せた時、




「あ! 夜もいいですね! 雲がなかったんですね、星がいっぱい見える!!」




 そう言って笑ってその写真を見ていた。

 興味を持って見入ってくれているのがわかるその横顔は、素直に写真を見て楽しんでいるのを感じ取れ、向井さんへの見えない壁は少しずつなくなっていっている事は何となく自分でもわかっていた。



「夜もいいですよね。 今度は、向井さんも……」




 私はそんな事を言える様になってきた。

 いつもは向井さんから聞かれる事に答える、というのが精一杯だった。

 私に対して、腫れ物に触る様な事もせず、ただ、朗らかに静かにその時間を過ごしてくれる事をありがたく思える様になって来た。

 私の心がこれでもほんの少しずつ、あの儚かった恋を忘れようとしているんだと思えてきた。



 ある休日の午後、私はスーパーへ買い出しに出かけた。

 いつも行くスーパーではなく、気分転換に少し遠くにあるスーパーへ行ってみたが人でいっぱいだった。

 その日はスーパーの特売日だったみたいで人が混み合っていた。

 夜に夫が帰ってくるので、夕飯の買い出し。

 今日は何にしようかな……と、スーパーの中を歩きながら考えていた。

 鮮魚コーナーで今日だけお買い得になっている海老を見つけた。

 新鮮でたくさん入ってる!

 私はその海老を買う事に決めた。


 今日は久しぶりにエビチリにしよう……。


 他のメニューも決まって、お肉だけ、ささっと見て帰ろうと精肉コーナーへ差し掛かった時、フラッと現れた人に目がいった。




「唐揚げ食べたいな。  ねぇ、唐揚げにしようよーー」





「……え。 ……俺、お魚がいいんだけど……。 唐揚げ食べたいな、じゃないよ……。 明美(あけみ)、家、帰りなよ……」





「なんでそんなに冷たいのーー、ハルーー」





「そりゃそうだろ……!!」





 そんな話をしながら歩いているその人たち。

 見慣れない普段着にいつもはかけていない眼鏡だけれど、背格好と声は変わらない。

 作業着を着ていないけれど、その人は向井さんだとすぐにわかった。


 一緒にいるのは……、彼女なのかな……。

 こんな時、どうしたらいいんだろう……。

 向井さんは私に気付いていない。

 声をかけるべきか……、プライベートだから見て見ぬふりがいいのか……。

 悩んでいたが、向井さんたちは私がいる方向とは真逆に歩き出し、人混みに紛れて行った。



 向井さんって、失恋したって言ってなかったっけ……?

 もう、彼女できたのかな……。

 見ている感じは仲良さそうだったな……。

 女の人もかわいい人だった。


 その人とは距離が近いんだなと感じた。

 話す感じも私と話す時とは違った。


 向井さんってハルって呼ばれてた……。

 そう言えば、向井さんの名前、知らなかったな……。

 そんな事を考えながらレジに並び、御会計を済ませた。

 辺りを見回してみるが、もう二人はいない。

 ホッとした様な、まだ二人を見ていたい様な……。


 会社外で会社の人と会う……というか、今回は見た、だけど、一方的になんだか恥ずかしい様な、くすぐったい感じだった。

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