結婚とは
「結婚って何なんだろうなぁ……って思う事が多くなりました……」
私は米田さんの優しさに少しもたれかかりたかった。
米田さんの居心地の良さに少し休みたくなった。
誰にも言えずに一人で自分の心と戦って、答えも出せず、光さえも見えず、目の前の暗闇から抜け出せる目処も立たず、この現状から目を背ける事ができるなら、少しでも心地よい朝を迎える事ができるなら、すがれるものならすがりたいとさえ思った。
誰かに心の全てをさらけ出す事ができるなら、どんなに楽になれるだろう……。
どうする事もできない状況に私は少し疲れていた。
そう話す私を見ながら、米田さんは話し始めた。
「それは……、旦那さんが仕事が忙しいからそう思うの? こんなはずじゃなかったって思うって事?」
「どうなんですかね……? それ以前の問題なのかな……。 何で夫と結婚したんだろう……って、ふと考える事があるんです。 夫が嫌いとかじゃないんですけど……、これでよかったのかな……と考えたり……。 子供も結局できなかったし、夫にとっても私でよかったのかな……って考えたりします……」
「よかったから別れてないんじゃないのかな……? でも、安堂さんは何となく毎日が晴れないんだね。 だからそう思うんだ……。 安堂さんはどうしたいとかあるの? 例えば、旦那さんがもっと安堂さんとの時間を増やしてくれたら……とか、何が夢中になる趣味を見つけるとか……、安堂さん自身にビジョンはある?」
ビジョンか……。
私はどうしたいんだろう……。
晴れない理由もわかっている。
けど、口に出す事はできなかった。
「これというビジョンは考えた事がなかったです……」
「究極の話、離婚も?」
「離婚も……考えた事がないです……。 離婚って……するとなったら大変だろうな……」
「けど、新しい道は開けるんだよ。 離婚を勧めてるんじゃないけど、今より安堂さんが笑顔になれる事が一番だよね。 まぁ、安堂さん自身が考えた事がなかったのなら、離婚がこの答えじゃないんだよ。 何の不自由もなく暮らしてるからこそ旦那さんに感謝があるんじゃない? 時間を合わす事から始めてみたらどう? 旦那さんとこれからのあり方を話すいい機会かも知れないし……」
本当の自分はスカイさんに恋をした。
夫以外の人に恋をしてしまったんだ。
まだ会った事もない人が夫を勝ってしまった。
けれど、その恋は儚く消えた。
私の掌からするっと抜け出してしまった。
大切に優しく守っていたはずが、簡単に一瞬にして消えてしまった。
もう会えない人を思っている。
愛おしく思っている事から自分を変える事をできないでいた。
「少し、旦那さんと話した方がいいかも知れないですね。 いいきっかけになるのかも知れないですね……」
「まぁさ、落ちてる気持ちが上がってくるのが一番だから。 言わなきゃ、自分が動かなきゃ、変わらない事もあるから……。 安堂さんの中でいろいろ思う事があっても仕事はよくやってくれてると思うから、私は助かってる。 あ! そうだ! 最近、向井さんと話してる?」
「向井さんですか? 小休憩の時、渡り廊下で一緒になる事はありますけど……」
「あーー、そういう事か! 何か安堂さんとの向井さんが話してるのを見た、って聞いてね。 向井さんも珍しいな……と思ってたのよ。 向井さんもそんなにペラペラ誰かと喋るタイプじゃないから接点がない安堂さんとどう話すんだろうって疑問だったけど、小休憩で一緒になる事があるんだーー」
「そうですね。 向井さんもあの場所がいいみたいで、たまに一緒になるんです」
「向井さんとどんな話するの? 楽しい?」
そう言われて、その時の自分を思い出してみるも、何の感情も思い出せず、ただ空の話をした、写真を見せ合う、そんな事しか思い出せなかった。
「楽しいというか、普通の話です。 空が好きみたいで空の話しました」
「空の話? あれかなー? 家族の事、思い出してるのかなーー? だから空の話するのかなーー? まぁ、わかんないけど……」
家族の事……?
思い出している……?
向井さんからは家族の話は何も聞いた事がない。
話してくれた事があっても私が聞き逃してるのか……。
それならごめんなさい……。
あの場所にいる私は、何も考えない無気力な人だった。
人の事を注意深くみる余裕など持ち合わせてなかった。
そこにいる事で精一杯だった。




