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窓越しの空  作者:
29/100

トラブル

 私は写真を消しそうになっていた手を止めた。


 向井さんは息を整えながら、話しにくそうなまま何とか話そうと一生懸命になっていた。




「あの……、待ちますよ。 ゆっくりでいいです」




 私はあまりにも一生懸命話そうとしているのを見て、無理する事でもないと思いそう伝えた。




「いや……、もう小休憩終わっちゃうから……」




「あと、3分ありますよ」




 大きく息を吸ってようやく落ち着いてきた向井さんは笑って自分のスマホを私に見せた。




「今日朝、撮ったんです。 これ、恐竜みたいな雲じゃありませんか??」




 そう言って見せてくれた写真は確かにそれっぽい雲が写ってあったが恐竜には少々遠かった……。




「そうですか? 恐竜っていうよりトカゲっぽくないですか??」




 トカゲが恐竜……。

 そのギャップに笑ってしまった。




「初めて、ちゃんと笑ってくれましたね。 愛想笑いじゃなく……。 嬉しいです」




 嬉しいです……?

 私ってそんなに笑ってないのか……。




「いや……、トカゲが恐竜か……って思っちゃったらおもしろくて……。 でも、私ってそんなに笑ってないですか? 米田さんとも笑って雑談してますよ」




「僕に対しては初めてだと思います。 で、安堂さんは撮りました?」




「あ、そうだ……。 でも、普通の空ですよ……」




 私もスマホの画面を見せた。




「グレー一色だけど、何だか綺麗だなって思っちゃいました。 これはどこから撮ったんですか?」




「これは自宅のリビングからです」




「そうですか……。 また、見せ合いましょうね! 今度はちゃんと恐竜の雲、探してきます!」




「そうですね……、今度は恐竜に見えるといいですね。 ……さぁ、私はそろそろ時間なので戻ります。 向井さんはもう少しゆっくりして行くんでしょ?」




「あと少ししたら戻ります。 定時までもう少し、頑張ってください!」




「ありがとうございます。 向井さんも……。 では……」




 そう言って渡り廊下をあとにした。



 振り返ると向井さんは自分のスマホをじっと眺めていた。

 私がトカゲと言った事を気にしているのだろうか……。



 失礼な事を言ってしまったかな……。



 少し気になったりもしたが、また次があれば期待したい……そんな風に思いながら事務所へ戻った。



 事務所へ戻ると米田さんが珍しく焦っていた。




「米田さん、どうしたんですか……?」




「客先でのトラブルで今から書類の作り直しよーー。 こんな時間から……」




 米田さんも参っている。




「頭抱えてても仕方ないね! やらなきゃ!!」



 16時……。

 定時まで1時間半……。

 私も一緒に手伝った。




 一生懸命やっても定時までに作り直せる量じゃない。

 これ、何時までかかるんだろう……。




「あ、定時だから安堂さんもういいよ! あがって! ありがとう! 助かった!」




 時間を気にしてくれてそう声をかけてくれた。




「私、手伝います! 特に帰ってもする事ないし……」




「今日、旦那さん帰ってこないの?」




「今日は帰らないんです。 だから大丈夫なんですよ!」




「ほんと!? じゃあ、ちょっとお願いしちゃおうかなーー!! 助けてもらえる?」



 米田さんが嬉しそうにしてくれるのを見て私も嬉しかった。

 私でも役に立てるかな……。

 私は一緒に書類を作り直した。



 どんどんと事務所から人が減っていく。

 どんどん静かになっていく。

 どんどん電気が消えていく……。



「何かこれだけ事務所から人が減ると寂しくなりますね……」



「静かだからねーー。 まぁ、電話がかかってこないから仕事ははかどるけどね! もうちょっとだね! 頑張ろう!!」



 そう言って書類の作り直しが終了したのは21時前だった。




「ラッキーー。 まだ営業が残ってた!! 鍵閉めしなくて済むね!! 早く会社出よう!!」




 数人残る営業さんに一言帰ることを伝え、会社を出た。


 何だか久しぶりにがっつり仕事をしたって感じで疲れもあるけれど清々しい気持ちだった。

 ぐーーんと背中を伸ばし、さぁ、帰ろうとした時、米田さんに呼び止められた。




「安堂さん、帰っても1人でしょ? ごはん食べて帰らない? 私、奢るよ! 今日のお礼!」




「お礼だなんて!! 全然です!! でも、米田さんはお家の方が待ってるんじゃ……?」




「あーー、うちは待ってないのよ。 旦那にも残業だっていってあるし、そんな時はいつも好き勝手やってるから。 子供の事も気にしなくていいし」




「あ、じゃあ、ご一緒していいですか? でも、奢ってもらうのはなしで! 私が米田さんとご一緒したいんで!!」




「そう? じゃあ、おいしいもの食べて帰ろう!」




 米田さんといると楽というか、安心するというか、米田さんみたいになれたらいいのにな……って思うから。


 米田さんとの時間が楽しみでさっきまで殺伐としていた事はすっかり忘れて、これから米田さんとどんな話ができるのかと期待しかなかった。

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