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窓越しの空  作者:
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うわの空

 向井さんは、静かにそこに佇んでいた。

 私に向かってベラベラと話す訳でもなく、ただぼんやり空を眺め、ポツリと一言ずつゆっくりと話す感じ。

 ただ、私にはそのゆっくりと話してくれる事にさえ返す言葉を考える程の余裕はなかった。


 今の私はぼんやりと空を眺める事が一番生きている中で楽な行動だった。


 自分の心が追いつかず、しんどいという一言しか浮かばない。

 できるなら、一人になりたかったが、この場所を独占する訳にもいかず、私は仕方なく、この場所から去る事にした。




「じゃあ、仕事に戻ります……」




 そう伝えて去ろうとした時、向井さんが一言こう言った。




「空、好きなんですか? また一緒に見ましょう!」




 何となく見ていた空だった。

 毎日空の写真を撮っていた時期もあった。

 もう、そんな事もしなくなった。

 向井さんは空が好きなのか……?


 私は軽く会釈をして事務所へと戻った。


 毎日、一人になりたかった。

 仕事をしている時は集中しているせいかスカイさんの事を思い出す事はなかった。

 ほんの瞬間でも、集中が切れると頭の中は一気にスカイさんの事でいっぱいになる。

 しんどくて、しんどくて、しんどくて……。


 どうして会った事もない人にこんなにも恋焦がれるんだろう……。


 誰にも話せず、自分の中で消化する他なかったが、一人でいれる場所を見つけては大きく深呼吸して悲しさと闘う日々を続けていた。


 あの渡り廊下が一番人に会わずに自分の気持ちと向き合える場所。


 そこへ、また向井さんがやってくる。

 そんな事が何度かあった。

 その度に、特に話す事のない私は気を悪くさせない程度に少し話をして早めに事務所に戻っていた。


 ある時、いつもの様に渡り廊下へ向かうともう既に向井さんが来ていた。

 いつもは私が先で後から向井さんが来ていた。

 今日は最初から一緒か……。

 Uターンする訳にも行かず軽く会釈をした。




「今日は早いんですね……」




 私はその言葉しか出てこなかった。




「はい、これ」




 向井さんはにっこり笑ってポケットからコーヒーを差し出した。



「え、いや……、いいですよ!」




「ブラック、飲めない?」




「いや……、そうじゃないですけど……」




「じゃあ、一緒に飲んでください」




「……じゃあ……、いただきます……。 でもどうしたんですか?」



 コーヒーをもらったら、そそくさと戻る訳にもいかない……。

 何、話そうか……。

 話す事に困る……。


 でも、向井さんはいつものゆっくりな感じで話し始めた。




「安堂さん、いつもここでいますよね? ここ、お気に入りなんですか?」




 週の何度かはここで向井さんと会うが、何を話したか覚えていない。

 それくらい私は上の空だった。


 お気に入りという訳ではない。

 一人になれる場所がここであるだけだ。

 そこにあなたが来ているだけだよ……。

 そう言いたかった。




「いえ……、そういう訳では……。 向井さんは?」




 ある意味嘘を言った。




「僕は……、ここに来たら安堂さんがいるかな、と思って……」




 ……え……?

 どういう意味……?




「私ですか?」




「そう、安堂さん。 安堂さんがいるかな……と思ってここに来てます。 話したいなぁと思って」




 私に?

 私と何の話があるというんだろう……?

 事務所にいる私と、工場にいる向井さん。

 接点なんてどこにもない……。

 私は疑問しか浮かばなかった。

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