晴れない
淡々と話は進み、私の派遣先での仕事が決まった。
工場の事務員補充で期間は短く、3ヶ月。
正社員の人のサブ的な立場で仕事のフォローをしていくらしい。
数ヶ月ぶりの仕事……。
この前、13年ぶりの社会復帰をした時は希望に満ち溢れていて楽しくて仕方なかったのに、今回は全く違っていた。
私が今、仕事をする理由は一つ。
スカイさんの事を考える時間を減らす事。
毎日楽しいしかなかった日々からの落差は想像以上にダメージが強かった。
スカイさんが去った今、毎日スカイさんの事を考えている事を変えてないのは私だけ。
スカイさんはとっくの昔に私の事なんて忘れてる……。
既婚の私より独身の人の方がリスクもないし、何も考えず恋愛ができる。
もしかしたら、素敵な人が現れたのかもしれない。
仕方ないと思う他ない。
忘れよう!
忘れよう……、忘れよう…….。
それでも何度もスカイさんの事を思い出し、毎日もがくしかない自分と戦うしかなかった。
気持ちが進まないまま派遣先での仕事が始まった。
私の配属された部署には私より一回りくらい上の社員さんが数人いて、楽しそうに仕事をしていた。
「安堂さん、よろしくね。 ここはこんな感じで気楽にやってるから緊張しなくていいよ! 仕事はそんなに難しくないからすぐ慣れると思うよ。 私たちができるんだから、安堂さんなんてすぐだよ!」
そう教えてくれたのは、米田さんという女性だった。
元気いっぱいで、周りの人からも親しまれているみたいで、米田さんに声をかける人みんな楽しそうに話して去って行った。
歳は、自分の親より少し若いくらいに見えた。
ベテラン中のベテラン。
どこにでもいそうな普通のおばちゃん。
紺色の会社の上着を羽織り化粧もバッチリ。
お局感はなく、周りの人の感じから誰からも慕われている人なんだろうな……というのがわかった。
私は米田さんの隣の席に座り、米田さんがしている事を静かにじっと見ていた。
「安堂さん、結婚してるの?」
米田さんは私の薬指の指輪を見てそう言った。
「あ、はい……。 子供はいないんですけど……」
私は最初に聞かれるであろう子供のことを伝えた。
「そうなんだ。 夫婦二人もいいよね!」
私の心はそうは思っていなかった。
夫とは何もない。
平日は出張が多いし、お休みの日はゴルフに出かけたり、出張先への移動日だったり。
もちろん、休日出勤もある。
ただ、同じ家へ帰り、同じ空間にいながらもお互いの時間を過ごす。
二人でどこかへ旅行へ行ったり、そもそも二人で出かける事がなかった。
そういえば、いつ笑ったっけ……?
それすらも、思い出せなかった。
米田さんの言った、「夫婦二人もいいよね!」
私には今最も不釣り合いな言葉で米田さんに笑って返す自分が嫌で仕方なかった。
本当の私は夫婦の時間などなかったし、楽しもうともしていない。
会った事もない人に恋焦がれ、何に対してもやる気も失せているあり得ない女だった。
初めて会った人にいい人を振る舞う。
その人は初めて会った私を朗らかな顔で見つめ、これから始まる仕事の説明を始めた。
そんな中、私は真剣とまで心が付いて行かず、その気持ちをひたすら隠しながら説明を聞いた。




