終わりを告げる夜
え……?
どういう事……?
私は混乱したまますぐにスカイさんに返信した。
『どういう意味? もう辞めるって、ここでのやり取りを? どうして?』
その文面を打つ手が震え、気持ちも先走りうまく打てない。
続ける事がいい事とも思っていない。
けれど、続けないという選択肢もなかった。
私がすぐに返信しなかったから?
なぜ急にそんな事を言うんだろう……。
私が送ったメールの返信を待つ。
この時間がとても長く感じる。
スマホの画面眺めていても早く返信が来る訳でもないのにひたすら眺める。
一人の寝室……。
隣のリビングで夫が観ているテレビの音が微かに聞こえる。
静まり返った寝室で夫ではない男を想いただひたすらその男からのメールを待つ。
しばらくすると返信が来た。
『もっと知りたくて、知りたくて会いたいと思った。 けれど、yuuさんは結婚してる。 そのお互いの立場を考えるともうこれ以上、続けてはいけないと思ったんだ。 yuuさんを困らせるだけだよ。』
そこにはスカイさんのわかり過ぎる程の気持ちのこもったメールだった。
私も同じ……。
ダメだよね……。
わかってる。
けど、これからスカイさんと関わらなくなるのは考え難かった。
まだメールでのやり取りを、優しい文面で癒してもらえる事を私は望んだ。
『スカイさんとやり取りできないのは嫌です。 変わらずにいて欲しい。 知りたくて会ってみたいと思ったのは私も同じ。 けど、会おうよと言われて、迷いがあった事も事実。 嫌とかじゃなく、会ってしまったらどうなるんだろう……とストップがかかってしまった。 だから、すぐに返信ができなかったの。』
私は思っている事をスカイさんに話し、返信がすぐできなかった事を理由も添えて伝えた。
どうか、どうか、思いとどまって欲しい……。
私はこれ以上ない程願った。
お願い……。
そう願いながら、スカイさんから届いたメールを開いた。
『それが、答えなんだよ。 俺とyuuさんは会うべきじゃない……。 知りたいからってその気持ちを優先してしまうと、yuuさんを傷付けてもいけないから。 俺も悲しい事をわかって欲しい。 yuuさんは今の生活を大事にして。』
愕然とするしかなかった。
SNSだけでしか繋がらない関係は、ここで終わってしまうともう二度と会えない。
スカイさんという人が私の前から消え去ろうとしていると感じた。
偶然にも隣町で暮らすスカイさんの顔はまだ知らない。
こんなに近くに暮らしていても、探す手段はない。
しぶる事なく写真の交換だけはしておけばよかったと今更ながらに後悔し始めた……。
一気に現実味を帯びてきて怖くなった。
『私、スカイさんがいない毎日は考えられない。 スカイさんにとってもそうじゃなかったの?』
私にはもうすがるしか方法がなかった。
私という人はこんな事ができる女だったんだ……と、新しい自分を発見した。
そんな発見、したくなかった。
『そうだよ。 俺だってyuuさんがいない毎日は考えられない。 本当に会いたいと思った人だった。 けどね、考えなきゃいけないんだよ。 yuuさん、yuuさんの毎日を壊しちゃいけない。 この数ヶ月、楽しかった。 yuuさん、元気でいてね。 ごめん。 ありがとう。』
会いたいと思った人【だった】……。
過去形になってる事が切なかった。
スカイさんが本当にやめてしまう事を確信した。
私はそれ以上、スカイさんにメールを送り返すことができなかった。
スカイさんが言っていた事は全て理解できたから。
続けたとしても、スカイさんを困らせるだけだという事もわかっていたから。
けれど、やめられなかった。
ベッドに潜り込んだままこれまでの事を考えた。
スカイさんに癒され、甘えさせてもらった数ヶ月だった。
顔も知らない人にこれ程まで自分をさらけ出すなんて……。
メールだからいつもより臆病じゃなくなるのかな……。
いろんな事、話してきたよね……。
私は、これまでのやり取りを読み返す頻度を少しずつ減らしながら忘れて行かなきゃいけないのかな……。
そう思って、またSNSを開いた。
!!!!
スカイさんのアカウントは無くなっていた……。
少しずつ整理をするはずが、もう今の瞬間から始まってしまった。
やり取りがなくてもいい。
もう少し、繋がっていたかった。
SNSの中でスカイさんの存在を感じていたかった。
これで完全に閉ざされた事になる。
その現実を受け入れられなかった私は声を殺してベッドの中で泣いた……。
そんな時も隣のリビングから夫が観るテレビの微かな音だけが虚しく聞こえる。
悲しいのに大声で泣く事もできない。
そんな私は何の力も持たないとてもちっぽけな人間だった……。




