ズキンという心の音
私はその後、メールを続ける事ができなかった。
どう返していいかわからなかったのだ。
その日から、いつもより更に考え始めた。
スカイさんと会う事。
今は顔も知らない。
顔を知ってしまうと一気に距離が縮まってしまう。
タイプかタイプでないかは別にして、この人と今までいろんな話をしてたんだと実感してしまうんだろうな……。
これまでのいろんな感情をその初めて知るその人に抱いていたと気付くんだろうな。
そもそも会っていい訳ない。
相手を気になってるなら尚更。
でも本当の自分は会いたいと思っていた。
会っていいものではない、それもわかっている。
葛藤の中で静かに暮らすしか今の自分にはできなかった。
仕事をしていない今は考える事といえば、スカイさんの事が多かった。
今、何してるんだろう?
仕事なのかな?
もし、会う事ができたらスカイさんはイメージがそう変わらないのかな?
背は高いのかな?
どんな声なんだろう……。
想像もし難いスカイさんを頭の中で想像する。
私は会ったらどう思うんだろう?
もっと知りたいと思うのかな……?
日に日にスカイさんの存在が大きくなる。
私もその気持ちに気付いていた。
そして、気持ちを止める事ができなくなっていた。
結婚しているという現状をどうしたらいいかわからなかった。
会った事もない人を想うなんて、何て馬鹿げた事なんだ、ただの恋愛ごっこじゃないか、と言われれば何も言い返せない。
ただ、スカイさんを想ってしまっているその気持ちは確かに存在する。
会って、嫌な人であって欲しい。
そう思えれば、私も、馬鹿げた事だったし恋愛ごっこだったと納得もするだろうな。
スカイさんも私じゃない方が幸せになれる。
お互いの為に会うべきなのかな……とも思うが、もし、会ってしまって今以上に想いが大きくなってしまったら……、という事を考えると、会う事がベターでもないと思ってしまい、結局は会っていない現状が一番ベターなのかもという考えに辿り着く。
このままでいい訳ない。
なのに、現状に留まる事が今一番誰も傷付けなくて済む。
心の中はむちゃくちゃだった。
スカイさんからのメールに返信できずにいたが、スカイさんからもあれ以来メールが来ていなかった。
返信しなきゃな……。
私が思っている事を伝えようと思っていた。
今日は夫が出張から帰ってくる日。
私はいつも通り夜ごはんを作り、夫の帰りを待った。
早めに寝室に入って、スカイさんにメールしてみよう……。
数日、メールをしていないだけで寂しさが込み上げてくる。
スカイさんを求める自分にびっくりする……。
忘れてはいけない。
私は既婚者なんだ……。
まだ現実に引き戻す余力は残っていた。
その夜、夫が帰ってきた。
今日はいつもより機嫌良く帰ってきた。
「どうしたの? 何かいい事あった?」
「いや、何でもない。 ユウ、仕事の方はどうなったの?」
勘違いだったのかな……?
夫は何でもない風だった。
「仕事? 今、求人ないらしいから……」
木村さんが言っていたもうすぐすれば求人が増えるという話はいつだろう……。
「そっか。 でも、もう、仕事いいんじゃない?」
え……?
「それって、仕事しなくてもいいんじゃない?って事? 私、仕事したいし……」
「だって、ユウができる事なんて限られてるでしょ? うちでゆっくりすればいいじゃん!」
私ができる事なんて……?
夫にそう言われた一言は、とてつもなくダメージが大きいものだった。
私は社会に出ず、うちでいればいいという事を言いたかったんだろう。
なぜ……?
私はそんなに無力な人間なのか……。
私はどこにも必要とされないのか……。
私はそれ以上、夫と仕事の事について話す気力がなくなった。
いつも以上に自分がやるべき事を早く終わらせて、寝室に入った。
ベッドに潜り、SNSを開くとメールが入っていた。
スカイさんだとすぐわかり、飛びつく様にそのメールを開いた。
『俺もよく考えた……。 yuuさん、もう辞めよっか……。』
それは、私が思っていたメールの内容ではなかった。




