あの日のこと
夕暮れ時に近付いてもまだまだたくさんの人がいて、何ならさっきより増えている気がした。
夕方の方が涼しくて過ごしやすいから、それも理由の一つかも知れない。
向井さんに、
「ちょっと行ってくるんで座って待っててください」
と言われ、一人座って待ちながらぼんやりと目の前の人たちを見ていた。
ちょっと行ってくるんで、って何だろう……。
どこの事??
始めて来た場所、有名な所ではあったが少し不安になりつつとりあえず座って待つ事にした。
キラキラする海と楽しそうに笑う声。
目に映る光景はとてもいい時間を過ごしている人たちばかりだった。
私は自分の撮った写真はどうだっけな……と、携帯を取り出し撮った写真を見てみた。
意外にもなかなか綺麗なのが撮れてる。
自己評価はまぁまぁよかった。
知らず知らずのうちに結構な枚数を撮っていて自分でも気付かずに、むしろ夢中になっていたのだろうとさっきの自分を思い返すと何だか少し恥ずかしかった。
思わず笑みがこぼれたところに、
「どんなの撮れました?」
そう言ってそこへ帰ってきた向井さんが冷たい缶ジュースを差し出してくれた。
炭酸のジュース。
こういうのを今飲みたかった!!
「え! いいんですか!? ありがとうございます! 今、こういうのを飲みたかったんです!!」
「よかったー笑 缶コーヒーにしようかと迷ったんですけど、結果、こっちでよかったです!」
プシュッ
「いただきます!!」
グイっと喉に流し込む。
シュワッとする炭酸の刺激が喉を通る時の気持ちよさ。
スッキリするーー。
「おいしーーい!!」
自然に出た言葉だった。
さっぱりしてて喉を通る時の炭酸の刺激がスキッとして気持ちいい。
私は勢いよくもう一口飲んだ。
天気もいいし気持ちいい。
充実感たっぷりで目の前の景色を眺めながらいつもとは違う休日を過ごしている事に少しはにかみながらも幸せともみえる今を噛み締めていた。
「やっぱり安堂さんって素敵な人ですよね。 いただきますもさっきのおいしーーい!も、ほんとの心で言ってるのがわかる」
「待っててよかったです」
ん??
え……?
キョトンとする私に向井さんは吹き出しそうになっていた。
「え? 安堂さん、僕、気持ち変わってませんよ? この前偶然会って、離婚したって聞いて……嬉しかったです。 そう言っちゃうとダメかも知れないけど……でも、嬉しかったんです。 これで気にする事なんてないから」
突然そう言われ、私は頭の中を処理しきれずにいた。
どうにか出した言葉が、
「え……、待ってください……」
だった……。
「はい、待ちますよ。 今まで待ったんだから待てますよ、いくらでも……笑」
そう言って笑っているが、その間も私の頭の中はフル回転でこれまでの事を思い出していた。
目の前で起こっている状況を整理する為に一番聞きたかった事があった。
「……向井さん、あの……、聞いていいですか……? 何であの時来てくれなかったんですか……? あの時、私は自分の立場をわかっていながらも向井さんに会いたくて行ったんです、あの場所に。 ……でも向井さんは来なかったから……それが答えだと思ったんです……」
あの日、来てくれなかった事は私のひっかかりであり、それがあるからゆえに向井さんを忘れる事もできない、ずっと気になる人であった事に間違いはない。
「あの時……? 僕に会いたくてっていうのはすっごい嬉しいんですけど、あの時って何ですか?」
向井さんはピンときてないようだった。
「え……、会おうって話になって……、え? やめたSNS、復活して……で、あの時連絡くれて会おうって……」
「連絡……ですか……? ……僕、あれ以来あのSNS、やってないです……よ……。 僕だと何で……? でも、僕だと思ったんですよね……」
え……、逆に怖い……。
今まで向井さんだと思っていた。
向井さんじゃないなら誰……?
何のために嘘をついてまで私を呼び出したんだろう……。
さっきまでこれも幸せの一つなんだろうなとそういう気持ちに浸っていたのにその気持ちは今ここにない。
頭の中をフル回転がさっきとは別の事でフル回転し始めた……。




