◯第二話 干物女の私が告白された!?
話数の前に◯マークがついている時は樋本さん視点の話になります。
相羽くん視点の時は△マークが付きます。
──初恋の人から告白された!
私はもう心臓が張り裂けちゃうんじゃないかってくらいバックバクに心臓を鳴らしていてた。
静かな校舎裏だったから、心音が聴こえちゃってないかなって不安になるくらいに。
卒業式が終わった後、
「話があるんだ、ちょっと時間いい?」
誰もいない校舎裏、私が緑化委員会の仕事で水をあげていた花壇の前に呼び出された。
先に行った相羽くんを追いかけて、昇降口で靴を踏み潰すように履き替えて相羽くんに指定された場所へと向かった。
そこには相羽くんがポツンと一人、大きく深呼吸をしながら立っていた。
ゆっくりと近づくと、「こんな所に呼び出してごめんね」と人懐っこい笑顔を浮かべた。
もう結構前のこと──クラスの怖い女子たちに詰め寄られた私を救ってくれた優しい笑顔だ。
「それで、私に話って?」
花壇の前だから緑化委員会のことだろうか。
まさか告白──だったりしないかな?
なんてあり得ない考えがよぎった。
相羽くんは明るくて優しくて、クラスで笑い声があがった所を見ると、いつもその輪の中心には彼がいる──そんな人気者だ。
そんな相羽くんが私に告白を? あり得ない、少女漫画の読み過ぎだ。
これは私の叶うことのない、憧れにも似た一方通行の想い。
私はそう言い聞かせて目の前の相羽くんをチラリと見る。
絶対本人には言えないけど、相羽くんは今日もポテっとしていてとても可愛い。
それなのに中身はカッコいいんだから反則だ。
少し俯きがちだった相羽くんの目が、私を力強く見据えた。
「よし……」という小さな掛け声と共に。
大きくて黒々とした目に見つめられて、私は恥ずかしくなって目を逸らしたくなったけどその目線の力強さに掴まれて目は逸らせなかった。
そして相羽くんはその視線の力強さに負けないくらい力のこもった声で絞り出すように
「──好きです! 付き合ってください」
と。
──へ?
私の素っ頓狂でマヌケな声は声にならず喉を空気がひゅーと通り過ぎるだけだった。
好き?
相羽くんが、私を?
相羽くんの言葉が何を意味しているか──情報量は多くないはずなのに脳が全く応答してくれない。
思考回路は完全にショートしていた。
現実感がなくなって、私は目を二度三度ぱちくりとさせた。
目の前に移るのはきゅっと目を瞑って、遠慮がちに手を差し出す相羽くんの姿だけ。
その意を決した表情を見て、私はようやく理解した。
──もしかして私告白されてる!?
え、嘘ちょっと待ってあり得ない。
よく考えてみれば卒業式の後、人気のない所へと呼び出し。
少女漫画でよくある告白のシチュエーションだ。
あり得ないと一蹴した考えがまさか現実のものになるなんて!
憧れの人から告白されるなんて!
混乱した。
多分、目の前に相羽くんがいなかったらその場で卒倒するほど混乱した。
混乱しすぎて──何故か冷静になった。
不思議なことに。
思考回路が動き出すと体に一気に変化が訪れる。
鼓動が張り裂けそうなくらい強く脈打ち始めて、体がカーッと熱くなるのを感じる。
顔にいたっては暑さののあまり湯気がしゅぽしゅぽと出てる、絶対。
暑さでクラクラしそうになりながらも、私は他人事のように考えていた。
──返事、しないと。
このままだと相羽くんは永遠に固まったまま動きださないかもしれない。
物語だと石になったり眠ったままになるのは大抵お姫様だけど、今目の前で石になっているのは私の王子様だ。
なんとか返事をしないと。
でも、なんて言うのが正解なの?
返答はイエス以外浮かばなかった。
当たり前だ、だって私も相羽くんのことが好きなんだから。
でも伝え方ってものがある。
ここで変な答え方をしたら、「え、こいつないわ……」みたいな感じで失望されるかもしれない。
でも少女漫画のヒロインみたいに気取ったセリフで答えるのもなんか違う気がする。
悩んだ。
多分今までで一番悩んだ。
進路希望と比較にならない位悩んで──
何も浮かばず、等身大の私で答えよう、という結論に達した。
「──私も……」
そこまで口にしたところで恥ずかしさに気づいた。
私、相羽くんに直接好きって言わなきゃいけないの!?
もちろん相羽くんは好きだけど──好きなんだけどそれを言葉にしてしまうって言うのはやっぱり特別なことだと思うし──けど、相羽くんはその特別な言葉を口にしてくれたんだから私が言葉を濁すのは卑怯な気がするし……ああもう! 考えが纏まらない。
私の悪い癖だ。
追い込まれると投げやりになってしまう悪い癖。
それが人生で一番大事な瞬間に出てしまった。
「私も……相羽くんのことが──好き、です」
ぷしゅぅ。
風船から空気が抜けたみたいに一気に体中から力が抜けていく。
言っちゃった。
好きって言ってしまった。
もう後戻りはできない。後悔なんて何もないけど。
恥ずかしさのあまり少し顔を逸らして相羽くんを見れば、キュッと瞑っていた大きな目がぱぁっと開いて嬉しそうに私のことを見ている。
私たち──両想いだったんだ。
あまりに今更な事実に、今になってようやく気が付いた。