16.宮廷舞踏会
アイリスは自分の姿を覗き込む。
まぶたに幾重にも乗ったアイシャドウ、しっかりと上がった睫毛、ぷるんとピンク色に艶めく唇。
自分なのに自分ではない気がしてしまい、どうにも慣れない。
「姉さん、行こうよ」
「わかっているわ。変じゃないかしら?」
「変じゃないって、さっき言っただろう」
黒いフロックコート姿でこちらを見つめるディーンが呆れたように肩を竦める。
「だって、こんな格好したのは初めてなのだもの」
「姉さんは去年も参加しているだろう?」
「去年のドレスより、ずっと豪華なの!」
アイリスは少しふてくされたように頬を膨らませると、もう一度鏡を覗く。ディーンが参ったと言いたげに息を吐くのが、鏡の端に映った。
アイリスが今日着ているのは、リリアナ妃が『少し早めの十八歳の誕生日プレゼント』と称してプレゼントしてくれた真っ赤なドレスだ。腰は細く絞られ、大きく広がった裾に向かって幾重ものドレープが重なっている。
首にはドレスとセットのリボンチョーカーを付けており、その中心には布で作られた赤いバラが付いていた。
肩より少し長い程度の長さしかない貴族令嬢にしては短すぎる髪は、リリアナ妃付きの侍女達がありとあらゆるテクニックを駆使して見事に結い上げてくれた。そこには母の形見の髪飾りが添えられている。そして、化粧もリリアナ妃付きの侍女達がしてくれるという至れり尽くせりだ。
だから、おかしいということはないはずだ。
──でも、なんだかちょっと恥ずかしいのよね。
アイリスは慣れない格好への恥ずかしさから赤面しそうになる顔を仰いだ。
「もう、気は済んだ?」
「うーん、まだ心配だけど……」
「大丈夫。姉さんは歩くだけなら完璧な令嬢だから」
「それ、どういう意味?」
「剣を振り回したりしなければって意味」
からかうようにディーンの口の両端が上がる。
アイリスは目をぱちくりとさせ、意味を理解するとディーンの胸を叩こうと手を伸ばす。
「もう!」
ディーンは軽い身のこなしでひょいと攻撃を避け、アイリスの手は宙を切る。ディーンは逆に片手をこちらに差し出した。
むうっと口を尖らせるアイリスを、ディーンは真剣な表情で見つめた。
「姉さんには本当に苦労をかけたから、感謝している」
「なあに、急に。二人っきりで過ごしてきたのだから、助け合うのは当たり前でしょう?」
「それでも、言いたかったんだ。今度の春には俺が騎士団に入団するから、後は任せて。姉さんは望む道に進んでいいよ。どんな選択でも、応援するから」
アイリスは曖昧に表情を濁す。
ディーンはたったひとりの家族であり、双子の弟だ。
アイリスが今考えていることを、薄々感づいているのかもしれない。
「びっくりさせちゃうかもしれないわよ?」
「男装して僕に成り代わろうとすることより驚くことなんて、ないって断言するよ」
ディーンは陽気におどけると、にこりと笑う。
「さ、行こうか」
「ええ」
アイリスも釣られたように笑みを零すと、ディーンの手を握った。




