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【書籍化】堅物閣下はわけあり男装令嬢を逃がさない!  作者: 三沢ケイ


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9.除名(2)

 言われた処分内容は、予想通りのものだった。

 それなのに、思った以上にショックを受けている自分がいた。


 自らがまいた種とはいえ、アイリスは言いようのない寂寥感(せきりょうかん)を覚えた。


「……承知致しました」


 なんとか気丈さを保ち、頭を垂れる。

 そして、ディーンへ情状(じょうじょう)酌量(しゃくりょう)を願い出ようとしたとき、先に口を開いたのはレオナルドだった。


「ワイバーンの世話はどうだ?」

「ワイバーンですか? 思ったよりも可愛らしく、やりがいがありました」


 アイリスは思ったままを素直に告げる。

 そうか、とレオナルドは満足げに頷いた。


「改めて、問う。名前は?」

「アイリス=コスタです」

「性別は?」

「? 女です」


 なぜこんな質問をされるのかと、アイリスは戸惑いながらも答える。レオナルドが目配せすると、すぐ横に控えていた副団長のグレイルが小さく頷いて前に出た。


「いくぞ」


 グレイルの言葉に、アイリスは瞠目する。


 次の瞬間、グレイルが腰から素早く抜刀し、剣戟けんげきを振るう。アイリスは咄嗟に自らも抜刀し、それを受け流しながら後ろに下がった。


 ──ここで、私を処刑するってこと!?


 ずっと尊敬して、密かに慕っていた人──レオナルドのあまりに惨い仕打ちに怒りで目の前が赤くなるのを感じる。


 皇都騎士団の副団長だけあり、グレイルは強かった。

 普段の練習相手をしているカインとは比べものにならない。


 ディーンの顔を一目見るまでは、死ねない。

 それだけがアイリスを奮い立たせる。


 執務室には執務机だけではなく、ソファーや本棚、サイドボードなど、様々なものが置かれている。すぐに足にソファーが当たり、アイリスは舌打ちした。片手を付いてひらりと飛び上がると、その勢いでグレイルの顎を蹴り上げ、後方回転して着地する。

 手で口を拭うグレイルの顔にべっとりと血が付く。


 次の攻撃はすぐだった。

 息つく暇もなく剣が飛んできて、アイリスは自分の剣でそれを受け止める。重い太刀筋にビリビリと両手がしびれたが、それを横に避けて部屋の角に背を預けた。


 壁が邪魔で思うように剣が振るえないグレイルが、「チッ」と舌打ちした。アイリスはその一瞬の隙を衝いて反撃の剣を振るう。避けたグレイルの制服のボタンがひとつはじけ飛んだ。


「止め」


 落ち着いた声が室内に響き、グレイルは何事もなかったように自らの剣を鞘にしまう。アイリスは何が起こったのかわけがわからず、呆然と二人を見返した。


「どうだ?」


 レオナルドが片眉を上げ、グレイルを見つめる。


「閣下から聞いてはいましたが、想像以上ですね。女性とは到底思えない素晴らしい身のこなしです。他の団員に見習わせたいくらいですね」

「だから、言っただろう?」


 勝ち誇ったようにレオナルドはニヤリと笑う。

 アイリスは全く話が見えてこず、戸惑った。


「あの、これは一体?」

「改めてアイリス=コスタ。お前の新しい配属先を伝える。近衛騎士団、リリアナ妃付きだ」


 想像だにしていない内容に、アイリスは大きく目を見開いた。


 近衛騎士団とは、皇帝を始めとする皇族を守るための精鋭部隊だ。特に腕の立つ騎士だけで構成されており、騎士の頂点とも言える存在である。


「私は、除名されたのではないのですか?」

「皇都騎士団からの除名は正しいな。今後は近衛騎士として働いてもらう」

「……なぜですか?」


 アイリスは呆然として聞き返した。

 自分は除名され、コスタ家は終わると思っていた。それなのに、なぜレオナルドがこんな処分にしたのかがわからない。


「なぜ? 非常に腕が立ち、有能な女騎士を見つけたから皇后陛下の護衛役を任命しただけだ。男騎士では湯浴みや着替えなどのときにどうしても離れざるを得ないが、その点女の騎士は適している。部屋で襲われたときの対応も見事だった。懸念事項だったワイバーンとの適性もある。適材を適所に配置するのに、他になんの理由がいる?」


 部屋で襲われたときの対応と言われ、すぐに先ほど突然グレイルに襲われたことを言っているのだとわかった。

 それに、ワイバーンとの適性と聞いて、レオナルドが最初からこれを見るために自分をワイバーンのお世話係に任命したのだと今更ながらに気付いた。


「明日より、より一層任務に励むように。話は以上だ」

「……はい」


 疲労感、安堵、驚き……。


 色々な感情が入り交じって、それ以上の言葉が出てこなかった。


 ──私、女なのに騎士として働いていいの?


 何よりも嬉しかったのは、レオナルドが性別に関係なく、自分の剣の技量を見て認めてくれたこと。そして、沈黙を貫きながらも自分の今後についてしっかりと考えていてくれたことだった。


「この命に代えてでも、皇后陛下をお守りいたします」


 胸に手を当てて誓いの言葉を立てる。


「ああ。期待している」


 その言葉を聞いたとき、鼻の奥がツーンと痛むのを感じた。



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