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【書籍化】堅物閣下はわけあり男装令嬢を逃がさない!  作者: 三沢ケイ


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8.事件(5)

    ◇ ◇ ◇


 レオナルドが病室に入ると、カインは上半身を起こしてベッドに座っていた。


「加減はどうだ?」

「……傷の痛みはなくなりました」

「そうか」


 レオナルドはそれ以上は聞かずにベッドの横の椅子に座ると、カインを見つめる。


「ひとつ確認させてくれ。突入作戦の日、なぜ指示通りに動かなかった?」

「指示通りに動かない? いいえ、動きました」

「動いた?」

「はい。突入しておかしいとは感じましたが、指示書にそう書いてあったので自分達が戻ると作戦が崩れると思い、そのまま進みました。ただ、突入後のことは指示書に記載されていなかったと思います」

「……。その指示書は誰が持ってきた?」

「第一師団のセリアンです」


 ──同じだな……。


 カインが言うことは、アイリスと全く同じだった。

 だが、レオナルドは直前に作戦変更など指示していないし、師団長が勝手にそんなことをするとも思えなかった。


 ──これは、徹底的に調査する必要があるな……。


「話はわかった。今はゆっくりと養生しろ」

「ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げるカインに見守られながら、レオナルドは部屋を後にした。

 


 ◇ ◇ ◇



 その翌日のこと。

 グレイルからの報告を受け、レオナルドは考え込むように腕を組んで天井を睨んだ。


「報告内容に間違いはないか?」

「ありません。複数回に亘って関係者から聴取しました」

「……」


 レオナルドがグレイルに調査させているのは、先日の違法薬物摘発事件でのことの顛末だった。


 入念な計画がされて隊員達にも事前説明がされていたにも拘わらず、一組の隊員──ディーン──本当の名はアイリスだが──とカインが先行突入して大怪我を負った。助かったからよかったものの、もう少し遅ければ二人とも死んでいたかもしれない大怪我だった。


 このときの経緯に関して、少々不審な点があった。


「ということは、第五師団長は指示を出していないのだな?」

「はい。一緒にいた副師団長にも確認しましたが、そのような指示はしていないと」

「だが、アイリスとカインは指示を受けたから突入したと言っている」

「はい。そこの情報の錯綜がどうして起きたのかがわかりません。しかも、受け取った指示書は内容に従って燃やしてしまったようなのです」


 なぜ事前の計画を無視して先行突入など無謀な真似をしたのか。


 軍人を兼ねる騎士団において、命令に背いた独断行動は厳禁だ。本当の戦争であれば、その行動ひとつで、何千人もの仲間達が命を落とすことになりかねない。


 事態を重く見たレオナルドはこの件に関して徹底調査を命じた。

 しかし、二人は口を揃えて「直前に手紙で指示を受けた」と言うのだ。


 レオナルドは直接二人と話をしたが、その様子はその場逃れで言っているようには見えなかった。

 それに、レオナルドは上司として、二人がそのような稚拙な噓を言う人間ではないと確信している。


「指示書を届けた隊員はセリアンか?」

「はい、本人もそれは認めています。ただ、セリアンは指示書が落ちているのに気が付いて届けただけだと」

「落ちていた? どこに?」

「待機しているときに届いた指示書を確認していたら、足下に落ちているのを見つけたと。自分達の指示書に紛れていたのだと思って届けたそうです。それは一緒にいたペアの隊員も見ているので間違いありません」

「…………」


 レオナルドは宙を睨む。


 何かがおかしい。

 第五師団長は指示を出していないのに、アイリスとカインは指示を受けた。そして、その指示に使われた指示書を拾ったのは、全く関係ない第一部隊の隊員……。


「内部に情報錯乱を企んだ奴がいるな」


 考えたくはないが、それが一番しっくりとくる。

 もしそうだとするならば、絶対に看過することはできない。


「引き続き、調査にあたってくれ」

「承知致しました」


 グレイルがぺこりと頭を下げる。そして、何か言いたげにレオナルドを見つめた。


「なんだ?」

「ディーン……、アイリスはどうするのですか?」


 グレイルからの問いかけに、レオナルドはグレイルを見返す。


 医務室に運ばれたことにより、多くの人間がディーン=コスタが女であることに気が付いた。まだ二日しか経っていないというのに、今やディーン=コスタはアイリス=コスタであることが多くの団員に知れ渡っている状態だ。


「あいつの今後については、少し考えがある。陛下にも相談して、判断を仰いでいるところだ」

「そうですか。では、そのご判断をお待ちします」


 グレイルが部屋を後にした後の静まりかえった部屋で、レオナルドは一人椅子に座って考え込む。

 喉の渇きを覚えて執務机に乗ったコーヒーに手を伸ばすと、いつの間にかそれはすっかりと冷え切っていた。

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