8.事件(4)
「私はこのあと、どうなるのですか?」
「お前の処遇はこれから陛下にも相談する。なにせ、前例がない」
「そう……ですか」
アイリスは目を伏せる。
視界に映る毛布を包む真っ白なシーツには、放射線上に広がる縦皺ができて波打っていた。アイリスがぎゅっと握りしめているせいだ。
今の時点ではどんな処遇になるかわからないが、それなりの覚悟が必要だろう。
「では、その処分をお待ちします」
「………。まずは怪我を治すんだ。わかったな?」
「はい」
この期に及んで未だに自分を部下として気遣ってくれる目の前の優しさに、また涙が滲みそうになった。
◇ ◇ ◇
アイリスの病室を出たレオナルドは、深いため息をつく。
医務室に連れて行けば、医師や看護師、薬師など多くの者にディーンが女であることが知られることはわかっていた。それでも、あの状況を見れば連れて行かないわけにはいかなかった。
もしも連れて行かなければ、ディーンはあのまま命を落とす可能性があったからだ。
ただ、これまでは女であることを知りながらそっと見守っていたが、さすがにこの人数に知れ渡るとレオナルドが口止めしたところで完全にその事実を隠し通すのは無理だ。
ディーン=コスタは実は姉だったとしてなんらかの処分を下す必要がある。
アイリスの隣の病室のドアがカチャリと開く。
ちょうどカインの包帯を巻き終えた宮廷薬師のカトリーンが、部屋から出てきたところだった。
カトリーンはリリアナ妃と同じ魔法の国の出身で、この国で唯一『魔法薬』と呼ばれる魔法の力を付与した薬を作れる宮廷薬師だ。そして、魔法薬は通常の薬よりも格段に効き目がいい。
「カトリーン」
「あ、レオナルドさん」
使用済みの包帯類を入れた籠を脇に抱えたカトリーンは、レオナルドに気が付くとぺこりとお辞儀をした。
「あいつの傷の具合はどうだ?」
「傷口は殆ど塞がっているわ。ただ……」
カトリーンは表情を曇らせ、言葉を詰まらせる。
「ただ、なんだ?」
「彼、右腕をかなり複雑に骨折していたの。魔法薬は傷の治りを早くしたり、本人の快復力を強めることは出来るのだけど、完全に壊れたものを治すことはできないわ。つまり……」
「右腕は、完全には治らないと言うことか?」
「ある程度は回復すると思うのだけれど、この国の医療水準と私の魔法薬の力では完全に治すことは難しいわ」
──治せない。
その言葉を聞いた瞬間、暗雲たるものが胸の内に広がるのを感じた。
カインは入団一年目の騎士の中で、特に有望であると師団長からも報告が上がっていた。前途洋々たる輝かしい未来が広がっていたはずなのに、その道が絶たれたのだ。
「カインにそのことは?」
「いいえ、伝えていないわ」
「なんとか治す方法はないのか?」
カトリーンはじっと考え込む。
「さっきも言ったとおり、魔法薬で治すのは限界があるの。あり得るとすれば──」
カトリーンはレオナルドにひとつの可能性を告げる。
それは、高度な治癒魔法を使いこなせる者に治してもらうという方法だった。




