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038  作者: Nora_
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09

「大武君、ありがとうございました」

「おいおい、それは煽りか?」


 珠奈と一緒に登校して教室の席に座った――というタイミングで赤羽が来て言ってきた言葉がこれ。

 

「いえ、本当にそう思っていますよ」

「聞いたのか?」

「はい……ごめんなさい、僕は良かったと思ってしまいました」


 そりゃそうだわ、今更好きだとか言って付き合いだしたら最悪だよな。

 頑張れよとか言っておいて結局それかって誰でもそうなる。

 三鈴のやつも余計なこと言いやがって……赤羽が異常に気づいただけなのかもしれないが。


「って、やっぱり煽りじゃねえか、性格悪いなお前」

「ち、違いますよ。僕が言っているのはその……過去に好きだと言ってくれていなくて良かったと……だって勝てないじゃないですかその場合は」

「だからそれが煽りなんだよ、この野郎!」

「わっ、や、やめてください!」


 全部後ろに(笑)が付いている気がする。

 

「おめでとう、三鈴のこと頼んだぞ」

「はい、それは任せてください」


 でも俺も大人だ、それにあそこで振られて終わったこと。

 なのにいつまでも引っかかっているわけにはいかない。

 三鈴が楽しそうならそれでいい、まだ今日は見ていないが。


「翼くん……と、篤希くん」

「いちいち露骨な反応するなよ。土曜だって普通に会話していただろ?」

「うん……そうだ、今日みんなであのお店に行かない? ジンジャーエールの味が忘れられなくて」

「じゃあお前らが付き合えた記念にってことで俺が奢ってやるよ。ただし三杯くらいまでな」


 珠奈には自分で出してもらおう。

 昨日のあいつは正にクソな人間だった。

 なぜなら俺のアロエンガを勝手に進化させたからだ。

 いやそれだけではない、俺がぐーすか寝ている間に勝手にクリアしてしまった。

 ストーリーゲームで勝手にやる無慈悲なやつがいるか? ……いるからこうなっているのか。


「ははっ、それならお願いしましょうか」

「そうだね!」

 

 くっそこいつら楽しそうにしやがって。

 俺はいまからぐーすか寝ている珠奈の頭にチョップを繰り出す。


「ったあ!? な、なにするのっ」

「いや、今日の放課後あそこに行くぞ」

「それは三鈴たんと翼君も一緒に?」

「寧ろあいつらが誘ってきたんだ。でもな、お前は自費で払えよ?」


 土曜のそれでだいぶ評価が変わったとはいえ、してくれたことに対しての罰はちゃんとする。

 可愛いからって甘やかしておくと悪い人間になる、それは珠奈と接しているとよく分かることだ。

 ちなみに「えぇ!? 酷い……昨日はあんな激しくしてくれたのに……」なんて馬鹿を言ってくれた。


「ああしたな、こめかみをな」

「あれ痛かったんだから!」

「俺は勝手にゲームをクリアされて辛かったんだが?」

「一緒にやろうと言ったのは篤希でしょうが!」


 反省している感じがないのでまだゴリゴリタイム。

 朝から涙目にさせることに成功したのだった。




「ぷはぁっ、篤希と一緒で辛いねこれは!」

「余計なお世話だ」


 店内には他のお客さんがいるが、俺の側には珠奈しかいない。

 一杯飲んだらあのふたりは帰ってしまった。なんでもこれからプレゼントを買いに行きたいんだと。


「今週の土曜日にどこかに行こうよ」

「ってもどこ行くんだ? ここら辺は特にないが」

「展望台。あの本当の方ね」


 そういえばまともに向こうに行ったことがないな。

 実は向こうの方が景色が綺麗だったりするんだろうか。


「どうせ行くなら夜のがいいよな?」

「え……でも怖いよ」

「手を繋いでおけば大丈夫だろ?」

「それでも怖いよ」


 ま、分からなくもない。

 よく分からない動物の鳴き声とか、自分の足音にびくりとする時もある。

 あとそこそこ遠いせいで行きだけで疲労することもあることから、歩幅が狭くなってその一番の問題点をゆっくりと移動しなければならないとかな。


「いや、あのルートは正しいものじゃないんだよ。展望台に行くなら小綺麗な道を通ることができる、だから大丈夫だ」

「篤希がいればいいか」

「横にくらいならいてやるよ」


 あそこでこれが飲めたらどんなにいいか。

 一応市販でも売っているが、あれは甘いから物足りない。

 一度市販で辛いのを飲めた時は、これが常時販売ならいいのにって思ったものだが。


「帰ろ、満足したっ」

「おう」


 ……甘えな、結局俺が払ってるぞ。

 あと四人分だとそこそこ高い、格好つけてやるべきではないとすぐに後悔した。

 だって金を貯めておかないといざって時に困るだろ? ……こいつにプレゼントとかする時に。


「なあ、欲しい物とかあるか?」


 彼女の家がある方に向かって歩きながら聞いてみる。


「特にないかな、私は無欲なもので」


 よく言うよ、口を開けば「あれが欲しい!」とか言ってくるくせに。


「肩揉みしてほしいとかそういうのでもいいんだぞ?」

「じゃあ、ファーストキスちょうだい」

「残念、もうファーストじゃねえんだわ」


 足を止め、顔をうつむかせそれっぽく呟いてみせた。

 あの時の三鈴は俺のことが好きだったから言ったのかと今更ながらに思った。

 勇気が出なくてしなかったが、していたら変わっていたんだろうな。


「え……」

「母親に奪われた」

「……ばか」

「事実だろ? 考えたくねえが父さんにも奪われたぞ、多分」


 なんで赤ちゃんにはそうしたくなるんだろう。

 もし自分に子どもができたら分かるんだろうか。

 子どもねえ……俺は誰と結婚するんだ? 目の前のこいつ……だったらいいかもな。


「三鈴ちゃんとしたかと思ったじゃん……」

「実際あったぞそんなことも」

「し、したのっ?」

「いや、勇気が出なくてできなかった。だから、付き合えなかったんだろうな」


 恥ずかしがらずに全部しておけば――って、いつまで意味ないことを考えている。

 こいつを不安にさせるな、また同じような照れ隠しはよせ。


「別にいいぞ、お前が望むなら」

「え……こ、ここではちょっと」

「そりゃそうだろ。じゃあ土曜日にするか、そうすれば上書きできる」


 しかしあれだよな、それならその前に告白しなければならないよな。

 土曜日のいいタイミングで告白からのキスって普通の感じでいいか。

 ……そういうつもりだと考えておくとお互いに緊張して上手くいかないかもしれない。


「やっぱり土曜日は普通に楽しむか。市販のジンジャーエールでも買って上から見よう。別にキスとか急ぐ必要ないからな。つかお前さ、それって俺のこと好きってことなのか?」

「好きだよ、普通に」

「真顔で言いやがって、どう反応すればいいんだよ」


 本当にチョロいな俺ら。

 だけど嬉しいからどうでもいいような気がする。

 昔みたいに一方通行かもしれないって恐れなくていいんだよな。

 

「中学生の時から好きだったよ」

「待て、関わりなかっただろ?」

「だって三鈴ちゃんがたくさん話をしてきていたからさ、気になってね」


 俺が知らなかっただけで三鈴という生き物はお喋りさんだったらしい。

 なんでもかんでも起きたことを口にしなければ死んでしまうのかもしれない。

 でもそこに悪意があるわけではないから、別に嫌な気分にもならないが。


「にゅふふ、これからは私があっくん! って呼んであげようか?」

「あいつの真似をしなくていい。お前はお前だ、それに俺はお前を求めてる」

「……篤希って馬鹿だよね、なんでそんな急にグイグイくるの?」

「嫌なら謝る。でももう同じような失敗を犯したくないんだよ。思いをぶつけて振られたことで吹っ切れたんだ、これはお前のおかげだぞ?」


 珠奈の要求通り振られてきた。

 願望かもしれないが、それはもう三鈴のことを忘れてほしかったんじゃないかと考えている。


「悪いがもう諦めてくれ、俺は全力で珠奈と向き合うつもりだからな」

「まあいいけどね。だって私といる時はなんか顔が真剣だし」

「でもまあ土曜日はそういうの意識せず楽しもうぜ」

「うん、そうだね」


 ……本当はその後に絶対するんだけどな。

 こういう形にしておけば珠奈も来やすいだろうからという計算だった。




「うぅ……決まらない」


 この後に出かけるための服が決まらない。

 約束の時間である十八時まではまだ三時間もあるけど、先程からずっと手持ちの服を眺めては駄目、駄目、駄目と繰り返していた。

 だから気づけばベッドの上だけではなく部屋にも服やズボン、スカートや下着まで散乱している。


「え、ど、どうしたのこの部屋……」

「あ、えっとこれから……お出かけするから! でも……服が決まらなくて」

「下着まで……ははーん、なるほどねー」


 断じてそういうのではない。

 だけどゼロというわけではないから子どもっぽいのではなくちょっと……そっち系の物を。


「いや下着はどうでもいいんだよっ、大事なのは表面上で……どれがいいかな?」

「うーん、相手の子はどんな感じが好きなの?」


 篤希ってどんなのが好きなんだろう。

 まさかメイド服? こういうひらひらした感じが好きなのかな?

 メイド服を着てあんなところに行ったら、一応人がいないこともないしだいぶ恥ずかしいような。


「ひらひらしたやつ、かな」

「ふぅん、名前はなんていうの?」

「大武篤希、あ……もう!」


 順番に吐かされてしまっている。

 ……というか私は篤希の好きな物とかあんまり知らない。

 向こうはどうなんだろ、よく分からないけれど。


「あつき……ああ、あの子ね! ふぅん、意外ねー」

「知らないでしょどうせっ」

「知っているわよ? 三鈴ちゃんの幼馴染でしょ?」

「え゛……なんで……」

「だってあなた、中学時代の時に頻繁に名前を出していたじゃない。全部聞いていたわよ?」


 消えてくれ中学時代の私。

 ……だけどそれがなければ好きになったりはしていないか。

 なんで好きになったんだっけ? あ、そうだ、監視――観察を続けていたところ優しいと分かったからだっけ。

 まあ正直に言って他人を優先しすぎて自分のを忘れて怒られていることも多かったけど、それでも他人に怒ったりはしていなかった。

 それは当然自分のできる範囲での協力ではあったものの、最後の方では自分のも疎かにしたりせず完璧にこなしていて格好いいなって思って……って感じか。


「そうね、これなんかがいいんじゃない?」

「シンプルじゃない?」

「こういう時は派手さは一切いらない! あなたは十分可愛いんだからありのままで勝負よ」

「だからそんなのじゃ……ちょっと上の展望台まで行ってくるだけだよ」

「展望台ってそこそこ距離があるじゃない。車で行っても三十分くらいはかかるわよ?」

「あそこがもうお気に入りなんだ」


 ほぼふたりきりでいられるし、静かだし、綺麗だし。


「ふふ、それは誰が決めたの?」

「私」

「おぉ、積極的! 愛を深める場所としてはいいわよね」

「だからそんなのじゃないってば!」


 今日は楽しもうって言っていたからあんまり気合を入れてもしょうがないんだけど……気分が盛り上がって勢いでというのもなくはない。

 抱きしめ、キス、そこから……とかも絶対ないわけじゃないから一応内側まで綺麗でいたいと考えていた。


「そういうことならやっぱりこれよ、シンプルにいきましょう!」

「うん、なんか私もそれがいい気がしてきた」


 篤希だって派手なのはいらないって言ってくれたし。


「あなたは普段ダメダメだけど、そういうのを着たらお淑やかに見えるからね」

「ダメダメ……」

「まあまあ、ほら着て?」

「うん」


 ……改めて着てみるとこれ、スースーするな。

 足元がふわふわしている感じ、それは篤希といる時はずっとそうなんだけども。


「おぉ、やっぱり喋っていないと美少女ね」

「喋んないほうが……いいかな?」

「冗談に決まっているでしょー大丈夫よ、見た目だけはいいからね」


 なるべく喋る頻度を減らして微笑んでおけばじれったくなった篤希が私をガバっとぉ!?

 拒もうとしても男の子には力が敵わなくてそのまま……こんな形は嫌だと思っているのに本能が彼を求めて……みたいな。


「珠奈、珠奈! なに変な顔をしているの? 約束は何時からなの?」

「十八時……」

「ならお風呂に入っていい匂いで挑みなさい」

「だから今日は……ああはい……分かりました」


 距離があるからちょっと汗をかいちゃうけどどうせならいい匂いでいたいし。


「あと今日はポニーテール禁止ね」

「え……」


 あのシュシュを付けていこうと思っていたのに。

 あれ、だけど長い髪が好きだとか言っていたっけ。

 髪型が好きとかも言ってくれたよね、目の保養になるとかそういうのまで。


「せっかくシンプルでいくんだから髪も変に飾らない!」

「うん……あのさ、いまシャワー中だから開けるのやめて、お母さん濡れてるよ?」

「別にいい! それと今日のが終わったら篤希くんを連れてきて」

「え……いや私は……」

「あーなるほどね、そういうことね、だったらお母さんは明日まで起きて待っているわね」

「寝てて。ちゃんと明日には帰ってくるから」

「はーい」


 今日は遊びなんだからそのまま泊まったって別に悪いことは一切ない。

 まだたくさんモンスターを育てなければならないし、篤希ともいたい。

 ずっと家に帰っていない不良娘というわけではないから、許してもらいたかった。


「ちゃんと洗ってー」

「そうそう、隅々までね」

「シャンプーもちょっとお高いやつを」

「髪の毛先まで」

「あとは拭いた後にちょっとだけ香水を」

「それはいらないわ」

「もう! なんでまだいるのっ」


 駄目だこの母……篤希が見たらこの親にしてこの子ありとか言いそう。

 確かに私は色々やらかすこともあるけど……なかなか悪くない人間だと思う。


「ドライヤーで乾かしてあげる」

「ありがと」


 いやでもこの人が母で本当に良かったけどね。

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