08
「好きだ、付き合ってくれ」
現在時刻、十八時二十五分。
赤羽とゆっくり過ごしてきた彼女を外で出待ちし、いきなり告白した。
そのせいで彼女は固まり、静寂が俺達を包む。
「お前が赤羽を好きになるずっと前から――いや、中学よりも前から好きだった」
一緒にいられているしまた今度、それを繰り返していた。
でも、それも唐突に終わりを迎え、曖昧な態度を取る彼女に苛立ちもしたがいまそれはいい。
「なんで……急に?」
「そりゃお前、お前を取られる前にしたかったからに決まっているだろ」
自己満足の告白、こんなの受け入れられるわけがない。
しかし、いまはとにかく盛大に振られたいのだ、そればかりは相手にしてもらわないと駄目。
「どうなんだよ? 赤羽はどうでもいいとか言っていたのは結局口だけか?」
「い、いきなりすぎてどうしたらいいか……」
「簡単だよ、YESかNOどちらかを選ぶ、それだけだろ?」
「ごめん……」
「ふっ、そうか、それじゃあな」
寧ろ受け入れられなくて良かった。
恐らく今日のそれで改めて赤羽への好意の強さってやつに気づいたんだろう。
「相良、これでいいんだろ? お前の望んだ通りだよな?」
「っ、わ、私は……帰るっ」
「そうかい、気をつけて帰れよ」
徹夜でゲームなんかできねえよ。
結局強烈なダメージしか残らなかった。
だけどこれで友達として割り切ることができる……はず、なんだがなあ。
「篤希くん」
「ん?」
「なんで珠奈ちゃんがいたの?」
「なんでって朝から一緒にいたろ?」
アプリを使わずドタキャンは良くないということでしっかり口で言いに行ったんだ。
単純にそこにもゲームが売っていたから、というのが1番の理由なんだが。
「今日はどうだったよ?」
「うん……翼くんが優しくて改めて好きになった」
「はははっ、単純なやつだな。だったら返事してやれ、あいつも待っている――」
「返事したよ、私もって」
なにもかも遅かったということか。
振られるにしてもせめて他の男の彼女じゃない時にしたかったなあ。
だってそれじゃどういう風に無理なのか分からないままじゃねえか。
彼氏がいるとかそういうことではなく、単純に○○が無理だからって言ってほしかったんだ。
強烈なダメージとモヤモヤが残る終わりとなってしまった。
「私ね、翼くんと出会う前は篤希くんが好きだった。でも、君は振り向いてくれなかったでしょ。あ、本当は好きでいてくれたんだっけ? だけどさ、それを言ってくれないとさ、もういまから言われても遅いんだよ……」
「なんでお前が泣くんだよ。良かったじゃねえか、赤飯でも炊いてもらえよ」
「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」
「なんでだろうな、確かに好きだったはずなんだが。まあもういいだろ? 入れよ中に、それじゃあな」
こっちなんか結局生涯非モテで終わるんだろうよ。
少なくともこの後の学生生活は退屈なもので周りを羨ましそうにしか見ることのできない時間になる。
「どうしたの? 元気ないみたいだけど」
「いや。飯ってどれくらいにできる?」
「十九時にはできるよ」
「ならソファで転んでおくわ」
珠奈にまで嫌われたらひとりじゃねえか。
いや、赤羽が来てくれるか? あいつ優しいもんな。
「なんとかなるか」
「んー?」
「いや、なんでもない。いつもありがとよ」
「えっ……な、なに急に……」
いつ消えるか分からないからお礼を言っているだけだよ。
「篤希の馬鹿!」
シュシュや可愛いって言ってくれるかなって思って買った服をぐしゃぐしゃにして投げ捨てる。
結局こっちには可愛いとか言っておきながら、本当に好きだったのは三鈴ちゃんだったなんて。
しかも告白とかするし振られてざまあみろとしか思わなかったけど……なんかやだった。
そもそも三鈴ちゃんが変な態度を取っていなければ……。
「違う……私が悪い……」
あんなことを言ったせいでヤケクソな告白をさせてしまった。
いや、それ以前にないとか言ったせいで迷惑とか言われて逆ギレして結局逃げ帰ってきてしまった。
なにをやってるんだよ私は……嫌われるようなことをしてどうするんだ。
「可愛いって……本当に思ってくれていたのかな?」
私がここであそこに逃げ込めば探してくれるのかな?
……気になったら止まらなくて、わざわざメッセージを送ってから家を飛び出した。
手荷物はスマホだけ。
これだけでもライト機能があるし、連絡も取れるから最強の代物。
「はぁ……はぁ……」
疲れる、いざ自分で歩くと道が分かりづらいしかなり怖い。
風で揺れた草の音とか、なんらかの動物の鳴き声とか、ひとりで来たことをすぐに後悔する。
「ひぃ!? あ、なんだ……猫か」
体毛が黒色というなんか不吉なもの。
というか待て、嫌いとか言って逃げてきたやつを探しに来てなんてくれるかな?
「はあ……なにやってんだお前」
「ひぃにゃあ!? って、な、なんで……?」
「お前がメッセージを送ってきたんだろうが。というかよ、まだ全然向こうだぞ」
「いまから行くところだったのっ。ふ、ふんっ、なんだかんだいったって私のことが心配ってことじゃんか! こんなに早く来て馬鹿じゃないの?」
「馬鹿でもいい。お前に怪我される方が嫌だからな」
思わせぶりなことを言っているのは篤希も同じだ。
こんなの意識しちゃうに決まってるじゃん、どれだけドキドキさせられてきたと思っているの。
だけど篤希は三鈴ちゃんが好きだった、だから振られてほしかった。
だってそうしないと辛い、苦しい、一緒にいたいのにいたくないって考えてしまう。
「ほら、危ねえから手を握っててやる。というかな、本当は俺もどうしようもなくて向かうところだったんだよ。良かったこのタイミングで、そうしないとお前に会えなかったからな。……こんなこと言うのだせえけどさ、もうお前しかいねえんだよ……だから嫌いでもいいからいてくれよ」
……自分が他の男の子を探せとか言っていたくせに、振られたら急に甘えてきやがって!
「……手汗かいてるよ?」
「……だって嫌だろ?」
「そんなの勝手に決めないでよ。いいから行こ、で、篤希の家に泊まっていく」
「……ああ」
余計なことを言わなかったら普通に仲良くなれて、三鈴ちゃんと翼君みたいになれていたのかな?
……本当になにをやっていたんだか……自分でやってダメージを受けるなんて馬鹿らしい。
嫌われていたらどうしようって居ても立っても居られなくて飛び出てきたけど、なんか中途半端なところで篤希と出会っちゃうし、求められちゃうし、手を握られてドキドキしちゃってるしっ。
「綺麗だな」
「そうだね」
この光景をもう好きになっていた。
というか、篤希のことをとっくに好きでいる。
じゃなければあんな画像を送ったりしない。
似合う、可愛いと言われる度にドキドキしたりしていない。
「ね、なんで私にここ教えてくれたの?」
「……お前には悪いとは思っていたが、そろそろ次へいくべきだと思っていたんだ」
「それって……」
「まあつまり興味の対象を珠奈にシフトしようと……利用しようとしたんだよ」
名前呼び……なんだかなあ、どうしてこんな大事な場面で……。
「……ごめんっ」
「は? ふっ、謝るなよ急に、気持ち悪い」
「……やだ、篤希といたいよ、嫌いなんて嘘だもん」
「なんだ、じゃあ急いで来る必要もなかったか?」
「それもやだっ、こうして来てくれて嬉しかった! もう嫌いとか言わないから一緒にいて!」
案外スラスラと出るもんだな、なんて呑気に思っていた。
この手の温もりを離したくないって初めてここまで思った。
「珠奈……ああいう写真を送ったりするの、やっぱり他の野郎にはやめてくれ」
「しないよっ、他の人になんてするわけないもん!」
「そうか。なら帰ろうぜ、お前と一緒にいるとアロエンガを育てたくなる」
「なんでー私といられればいいんでしょ?」
なぜかそのまま篤希に抱きしめられる。
「ならお前も離れないでくれ」
えっと驚いている内にそう言われてかあと全身が発熱。
私も篤希に一緒にいてほしい。
異性の友達として、それから――みたいな存在としてだ。
「それって告白?」
「いや、友達だからだよ」
「ふふふ、そっか! じゃあしょうがないよね?」
「おう」
だけどちょっと待ってほしい。
いささか抱きしめるというのはやりすぎではないだろうか。
振られたことでスッキリできたのかもしれないけど本当に急激に変わるから心臓に悪い。
「もういい!」
「わにゃあ!?」
「このまま帰る、じっと掴まってろ」
「う、うんっ」
……だけど幸せなのは変わらないから、深く考えないことにして家まで運んでもらったのだった。
「うぅ……なんかスースーする」
「悪い、我慢してくれよ」
お互い順番に風呂に入って後は寝るか話すかゲームタイムというところになった。
「でも、篤希に包まれているみたいで……なんかいいかも」
「お前なあ……まあいいけど。どうする? ゲームでもなんでもいいが」
「お話ししよ」
「さっきまで延々としていたけどな」
客人にだけ床に座らせるのはあれなので俺も床に座り直す。
「……今日は悪かったな」
「ううん、こっちもだから」
「で、さっきも言ったように、一緒にいてほしい」
「それもこっちもだよ」
「っだあっ、なに話せばいいのか分からねえな……」
いままで普通に対応できていたのにいざってなればこれか。
えっとつまりあれだよな? 嫌いではなかったってことなんだよな?
それどころか熱烈に一緒にいたいとまで言われて、俺もつい抱きしめてしまった、と。
「ね、篤希は三鈴ちゃんのどんなところが好きだったの?」
「三鈴の? 笑顔が好きだったんだよ、ちょっと褒めると分かりやすくにへらって楽しそうに笑うから」
「なら私は?」
「そうだな……あいつもそうだけど誰かのために動けるところか。普段調子に乗ってるくせに押されると弱いところや、色々な表情で揺さぶってくるところかな。あとは手の置きやすいところに頭があるところかな」
こんな風にと実際に置かせてもらう。
だが今回はそれだけではなくゆっくりと撫でてみた。
彼女は俺の手を両手で掴んではきたが、止めるつもりでもないよう。
「……たまにしてくれるの好き」
「三鈴以外でしたのは珠奈が初めてだ」
「ね、篤希ならもっとしていいよ……?」
「や、やめろ……流されて止められなくなる」
「いいよ、篤希になら……」
でたよこいつ、こういうところだよ全く。
本当に俺だけに言ってんのか? 改めて考えると不安になってくるぞ。
「い、いまは頭を撫でるだけで満足してくれ」
「……終わったら手を繋ご」
「お、おう、それぐらいだったら」
やべえやべえやべえ。
なんか全部途端に可愛く見えてきやがる。
いやまあ元々こいつは見てくれだけは良かったからおかしくはないんだが。
にしてもあのぶつかりをしたその日にこれって、俺ら単純すぎだろ。
「珠奈、悪いが寝る時は俺のベッドで寝てくれ。俺は床で寝るから」
「うん、じゃあそうさせてもらう」
「もう寝るか、明日もまだ休日だしな」
あまり焦る必要はない。
三鈴と赤羽が付き合い始めたからといって、意識する意味はない。
俺らは俺らのペースで仲を深めていくだけだ。
「手繋ぎながら寝よ?」
「おう。ちょっと大変だけどな」
「私も床で寝るからいいよ。篤希の側にいたい」
「さっきと言ってること真逆だけどな」
俺もお前も。
「毛布ってある?」
「おう。ほら転べよ、かけてやるから」
「えへへ、ありがと」
彼女が風邪を引かないようにしっかりとかけておいた。
それから電気を消して彼女の横に寝転び、差し出してきていた手を握る。
「背中、痛くねえか?」
「大丈夫っ、いつも畳の上に寝転んでいるもん」
「意外と涼しいようなあれ」
「うん。だけどこれも悪くない、だって篤希がいるんだもん」
「単純にフローリングが冷たくて気持ちいいだけだろそれ」
あのまま普通に名前で呼んでいた場合よりもいい結果になった気がした。
ただまあそれは結局この場合しか見えていないからこその思考だろうけど。
「お前、手小さいな」
「そう? 三鈴ちゃんにいつも手が大きいって言われるけど」
「いや、俺からしたら小せえよ。……女の手って感じがする」
「篤希って絶対に私のこと男友達的な扱いしていたよね――あ、いまビクってなった! 酷いよっ」
下ネタとか普通に言ってくるからそうだと思っていた。
でもそれも心地良かった、だってあまり気にせず話せるから。
こいつは自分がいいことをしていたって分かっていない。
「う……ねむい……かも」
「寝ろ、俺はどこにも行かねえから」
「はは……じいしきかじょう……すぅ……すぅ」
「おやすみ」
気づけば失恋ダメージなんて吹っ飛んでいやがる。
このチョロさには辟易とするが、こいつが安心していてくれているのならそれでいいと本気で考えて俺も寝たのだった。




