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038  作者: Nora_
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07

「あのっ、みんなでお出かけしませんか!」

「お、おう……でもよ、もう少しくらい小さい声でもいいと思うぞ?」


 敬語と勢いだけでみれば後輩系女子が誘ってきたように見えるんだが。

 残念ながらそうではない、奴は男、三鈴が好きな男。


「あ、すみません……いやあのですね、最近なんか全然上手くいっていなくて……大武君がいれば三鈴さんも落ち着けると思うんです」

「それで金曜の放課後ギリギリに来たのか、つまり明日行きたいと」

「はい! 珠奈さんも連れて行きましょう!」


 本来ならダブルデートみたいなものか。

 しかし、そのどれも繋がっていないわけだから、あくまで友達同士でワイワイ遊びにと考えればいい。


「だってよ相良、どうするんだ?」

「いいよ、どうせ暇だし。三鈴たんは?」

「私もいいけど」

「え゛……い、いたんですか……」

「「うん、ふたりで話してた」」


 ちなみに俺は佐藤先輩に勧められた本を読んでいた。

 だってふたりが全然帰る気がなかったからだ、いまのこれを考えればいい方向に繋がったわけだが。 


「ま、じゃあ楽しんでこいよー」

「「は?」」

「大武君がいないと困りますよ」

「いや、明日は忙しいからな、醤油がねえんだよもう」


 いやこれまじで、母が馬鹿みたいに使ったせいでもう買いに行かなければならない。

 ついでに米十キロと他の物も買ってこいって言われている、専業主婦のくせにな……。


「お買い物に行かなければならないのなら今日付き合いますよ、家までだって運びます」

「いや、明日ゆっくりいくから気にしなくていい。あのな? 最近人に奢りすぎてて金がねえんだわ。特にな? そこのポニーテール少女とか先輩とかに奢ったからな」


 これも本当のこと、だって残金五円だからな。

 人と縁があったとしても金がなければなにもできない。

 高校生にもなると金が絡む遊び方しかできねえからな。

 鬼ごっこなんてする歳でもねえだろ?


「赤羽、男見せろやおい」

「赤羽くんだけでもいいけどね」

「私もいいよ、翼君とは普通に友達だし」

「「空気読めない人はちょっと……」」


 しょうがねえだろ、出かけている場合じゃねえんだ。

 それに手伝っておけば五百円くらい金を貰える。

 それで目標金額に到達し欲しかった物を買うことができる。


「お、大武君……本当に行ってくれないんですか?」

「おう、それじゃあな」


 ふっ、土曜日にわざわざ家の外に出るわけないだろうが。

 このままスーパーに行って目当ての物全部買って家に帰る。

 そりゃ大変だろうが金さえ手に入ればなんてことはない。


「えっと」


 米、肉、キャベツ、レタス、もやし、キュウリ、青じそドレッシング、と。


「うわ重ええ……これを家までって……」


 たかだか十キロでもされどってやつだ、なかなかに厳しい。


「持ちますよ」

「じゃあ私はお肉持つよ」

「なら私はもやしかなあ」

「分割法やめろ、それをされても行かねえぞ俺は」

「「そもそも来てもらうつもりないけど。まあ普段お世話になっているお礼?」」


 なんなんだこいつら、特に三鈴と相良。

 仲がいいのはいいんだが、シンクロ口撃を仕掛けてきやがる。


「赤羽、俺に頼る形であいつを喜ばせるしかできないことが悔しいって言ってたじゃねえかよ。こんな機会滅多にねえんだ、だから二人でめいいっぱい楽しんでこい」

「……明日はワイワイと楽しみたいと思っています。そういうつもりで行くわけではありません、なので大武君も来てください」

「あのふたりはそのつもりじゃないようだが?」


 肉の方が重いーとかもやしの方が個数あるから重いーとか無駄な論争を繰り広げているふたりを指差して言う。

 大体、俺と赤羽は友達じゃない。

 ワイワイ楽しむためにはみんなが仲良くしている必要があるのにそんな人間が行ったって空気を悪くするだけだろう。


「本当に駄目……ですか?」

「まじで金ないんだって。言っておくけどこの金は食費から出ているからな?」

「僕が全部出しますよ、いくらでも」

「それなら女子陣に奢ってやれ、野郎に奢ったってなにも返ってこない」

「お願いします!」


 はっ!? なんだこいつの手の感触……まるで女子みたいなものだが。

 いやというか危ねえ、こっちは米を持っているんだぞ。


「離せ、危ねえ」

「ご、ごめんなさい……」

「とにかく、明日は用事があるんだ、悪いが行けない」

「用事ってなんですか?」

「今日獲得できるであろう金を使ってゲーム機を買うんだ、それも最新の――」

「「えー、私達よりゲームを優先するんだ」」

「当たり前だろ、俺はこの日をずっと待ってた」


 しょうもねえ自分で行けそうな買い物だって俺が代わりに行った。

 なんなら肩揉みも足のマッサージもしてやった、あの暴君みたいな母親に。

 でもそれは今日で終わる、流石の母も無碍にはできまい。


「分かったよ、涼華先輩も連れてきてあげるから」

「いや知らん、興味ない」


 なんで休日に先輩と会わなければならないのか。

 この中の誰よりも仲良くないしそもそも友達ですらない。

 あんな人を友達扱いしたら罰として毎日掃除させられそう。


「ならあっくんのお母さん」

「なんでも挙げればいいわけじゃねえ。もういいから返せ、赤羽はこいつらを送ってやってくれ」

「「「ああ!」」」


 のんびり帰っていると重いんだよこいつ。

 明日はゲーム機を買いに行くんだ、その状態で誰かと遊ぶなど正気の沙汰ではない。

 それはもうゲームをやりたすぎてヤバいことだって言うだろう。

 そうならないための自衛策、寧ろやつらのことを考えて行動してやってんだから感謝してほしかった。

 



「へえ、アロエンガを選ぶんだ」

「…………」


 外で出会ってこうなりました。

 しかも朝家から出た瞬間に相良と遭遇、一緒に買い物、当たり前のように一緒に帰宅。

 もちろん赤羽&三鈴ペアとは出会ったものの、「ふたりで楽しんできてー!」とか馬鹿言って相良はこっちに来やがった。


「ほのおタイプは攻略楽だよね、あと純粋に格好いい!」

「なあ」

「なに? あ、ネタバレになっちゃうから教えられないよ?」

「相良、なんでお前ここにいるんだよ」


 いや確かに「お供するよー」とか言ってずっと付いてきていたけどさ、相棒を放って散々悪く言ってくれた俺の方に来るっておかしいでしょうよって話。


「だーん、ここはいまから相手を名前で呼ばないと出られなくなりました」

「話聞いてんのか……つかそんなことあるわけ――って、おい、まじで開かねえぞ」

「だから名前で呼ばないと開かないって」


 別に名字呼びにこだわっているわけではない。

 珠奈って言えばこいつはあっという間に満足して帰ることだろう。

 でもどうせならこんなよく分からない流れではなくそれっぽい時に呼びたいんだ。


「相良」

「おいおい、呼ばないと本気で出られないよ?」

「じゃあいい、お前はずっとこの部屋で暮らすんだな?」

「えっ」

「だってそうだろ? ずっと開かないということは俺とお前はふたりきりってことだ。その間汗かいたり喉乾いたりするよな? そうなった場合、相手の体液で潤わせるしかないよな? つまりこういう接近とかもしなければならないわけだ。おいおい、なに涙目になっているんだ? お前が望んだ展開なんだろこれが」


 もちろん本気を出せば出ていけることだって知っている。

 どうせ廊下から有りえない馬鹿力であの母が抑えているだけなんだ。

 だがやられっぱなしはごめんだ、どうせならもう言えないくらいの衝撃を与えておきたい。


「なあ相良。あんまり男を舐めるな、なにをされるのか分からないんだからな」

「……篤希は変なことしない」

「信用してくれるのは嬉しいが、俺も男だからな」

「……で、でもさ、名前で呼ぶくらいいいでしょ?」

「それをしたらどうなる?」


 聞いてみたら「私が喜ぶ!」と即答だった。

 ……またあんな顔をされてはたまらないので、仕方ないから呼ぶことにする。

 

「分かった、だからもう写真を送ってきたりするなよ?」

「それは嫌だ、だってあんなの篤希にしかしないもん」

「……俺が悪く使ったらどうするんだよ」

「篤希はそんなことしない」


 重いねえまじで……。


「じゃあ……俺以外にはするな」

「うん、守る!」

「で、アロエンガを選んだのは正解か?」

「そこは趣味でいいと思う。くさタイプを選ぶと大変だけど、敢えて難しい方でいくのも有り!」


 つか……なんかゲームとかどうでも良くなってしまった。

 あれだけ買う、やる、徹夜する、なんて考えていたのに、こいつのせいで狂いまくりだ。


「あれ、やめちゃうの?」

「ああ、これはいつでもできるからな」

「じゃあなにする?」

「……お前といられればなんでもいい」

「うぇっ!?」


 あ、なんか言い方不味ったな。

 まあ、先程のはからかうのをやめてほしかったってことで全部本当のことだ。

 だってあんな写真とかわざわざ買った服を見せるために通話してくるやつだぞ? 意識しないことの方が難しい。

 おまけに助けてくれたやつでもある、普段調子に乗っているくせに一気に弱々しくなる時もある。

 あんなの見せられたら……はぁ、結局こいつはそんなこと意識していないんだろうけども。


「いや、言い方があれだったか。まあ、特に喋らなくてもいいかなって思っただけだ」

「そ、そっか」

「お前さ、俺のことどう思ってんの」

「え、えーな、なに急に……さっきと全然違うじゃん……」

「言えないならいい」


 聞いていますぐどうこうってなるってなるわけでもないしするつもりもない。

 単純な興味、これまでのことを考えたらそれっぽいことがあるんじゃないかって……まあ願望だが。


「……ない」

「そうか」


 だろうな、ただの友達止まりだ。

 望むだけ無駄だよな、これからも変わることはないよな。

 じゃあなんで名前呼びなんか望むんだ?


「友達だから名前で呼んでほしかっただけ」

「おう」


 考えていたら答えてくれた。

 結局そういうのだよなって考えられる程度のレベルのもの。


「で、結局まだ名前で呼んでくれてない」

「……やっぱり写真とかもう送ってくんなよ。本当に好きな奴ができた時に後悔するからさ」

「前も言ってたよねそれ、でも私は――」

「私の意思でやっているから、か? 迷惑なんだよ」

「そ、そんな言い方しなくてもいいでしょっ」


 いや冷静に考えてみてくれよ。

 なんたって興味ない奴にそんな写真とか送る必要があるのかって話で。


「俺はさ、お前のこと真剣に格好いいとすら思ったよ。あそこで動いてくれて俺の言いたいことを冷静に三鈴に伝えてくれたから。佐藤先輩が倒れた時だって一緒に付いてきてくれたおかげで二度手間にならなくて済んだ。だからさ、最後までそのままでいてくれよ。そんな変なことはいちいちしなくていいんだ」


 結局あんなんとっといていても罪悪感しかわかねえよ。

 一緒にいてくれるのはありがたいが、その気もねえのに変なこと言わないでほしい。


「お前はなんのために俺といるんだ?」

「なんのためって……友達といることにいちいち理由がいるの?」

「ま、そうかもな。まあいいや、もうしないでくれればいい。休日にいちいち嫌な気分になりたくないだろお前も。まだ継続したいってことなら他の男を見つけるか、仲いい女子に送信するかをしておけ」


 手に入らないって思うと一緒にいること自体が虚しくなる。

 やはりこういう状態になるとそのまま友達としてっていられない。

 

「帰れよ」

「篤希なんて嫌い」

「好かれるようなことはなにもできてねえしな。にしてもお前は優しいな、その嫌いな人間とこうして行動してくれているんだから」

「篤希なんて三鈴ちゃんに告白して振られちゃえっ」

「それもいいかもな、中途半端な気持ちを捨てられるし」


 帰ってきたらまじでするか。

 で、見事に振られた後、一日でゲームをクリアしてやればいい。

 

「やっぱり好きだったんだ」

「まあな。でももう違うんだよ昔とは」

 

 可能性はないに等しい。

 だがそれでいい、あいつに怒鳴って悲しい顔をさせる奴は相応しくない。

 赤羽と関われば関わるほど三鈴に相応しいと思えてくるから。


「じゃあさ、帰ってきたら告白するから見ておいてくれよ」

「え……ほ、本当に?」

「ああ。んで、その後は付き合ってくれよ、一日でゲームクリアを目指してさ」

「……私は篤希が嫌いなんだよ?」

「いいじゃねえか、嫌いでいてくれているなら勘違いしなくて済む」


 他人が好きだとか言っておきながらどうでもいいとか言ってしまう幼馴染とか。

 あんな写真を送ってきたり、良くない言動、良くない行動をしてくるその友達とか。

 うんざりだ、ここでなにもかも潰しておく必要がある。


「さあ、やるか」

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