06
「篤希、これどう?」
「お、派手な方をしてきたのか。それはあれだな、いつものお前によく似合ってる。でも、あのシンプルな方はしおらしい時に似合っているかもな、あとは甘える時とか?」
ただまあどちらかと言えばやはりシンプルな方が好きだ。
派手さはこいつには必要ない、有りのままで十分だから。
「篤希って私のこと褒め過ぎじゃない? 私、勘違いしちゃいそう」
「そうか? っても、そんなことはないだろ、相良に限ってな」
「ま、そうだけどー」
聞いてくるから思ったことを口にしているだけ、それだけでしかない。
仮に全然仲良くもない佐藤先輩が「どうかしら?」と聞いてきても思ったことを真っ直ぐに言う。
誰かによって態度を変えたりはしない、気に入られようとしたってそうなるとは限らないからな。
「あ、いた、大武君、今日もあるから」
「分かりました」
来たな佐藤先輩。
相良は知らないだろうから「佐藤涼華先輩」と紹介しておく。
先輩は「それじゃあね」と残して教室から出ていった。
「今日もあるってなにが?」
「委員会の仕事だな。ずっとサボっていたのもあって目を付けられてるんだよ」
あれ以降、必ず委員会の活動がある時はペアみたいな形で行動することになっている。
気分がしゃきっとなるから嫌ではないが、信用ないんだなって時々凹む。
それに真面目すぎるのも玉に瑕だ、この後用事があるとか言っておきながら仕事がまだ終わってないから帰れないとか言うししかもそのせいで早くしてと急かされる、俺だけでもできる仕事をわざわざふたりでやる必要は全くないと思うが。
「なら終わるの待ってるね、あの約束を果たしてもらうために」
「あいよ、それならなるべく急ぐわ」
幸い先輩は効率厨、早くやることを目指してくれる。
で、放課後。
「それで今日はなにをやれば?」
「この本を棚に戻してきて」
「分かりました」
こんな量なんてことはない、待っている相良のためにさっさと終わらせよう。
「意外と場所が別々で時間かかるな」
それでも手と足は止めずトン、トン、トンと本を戻してついに最後。
「っと、終了」
テーブルがある方に戻ると佐藤先輩が虚空を見つめてぼうっとしていた。
「佐藤先輩、終わりましたけど?」
「ええ……うっ……あっ、ごめんなさい……」
「いえ、別にいいですけど。終わったので帰ってもいいですか?」
「そうね……お疲れ様」
様子が少しだけ変だが生憎と約束があるんだ。
そちらを優先させてもらおうと図書室から出た時だった。
バタンッと良くない音が聞こえてきたので戻ってみると、なぜか床に先輩が寝転がっていた。
いや違う、倒れたんだなこれは――って、冷静に考えている場合じゃねえか。
「すごい熱いですよ? 保健室に運びます」
「はぁ……はぁ……」
ま、見て見ぬ振りはできないのだから返事とかはどうでもいい。
さっさと保健室に先輩を運んでしまえば後は先生が見てくれる。
「え、な、なんで佐藤先輩を……」
「あ、相良中で待っていたのか。ちょっと熱が出ているみたいでな、保健室に運んで図書室の鍵を閉めてからになるが待っていてくれ」
「あ、付いていくよ」
「おう」
とりあえず先輩を保健室にぶちこんで後は任せる――ことはできなかった。
「先生いないようだね」
「だな。悪いが見ておいてくれないか? 図書室の鍵を閉めて返してくるから」
「分かった」
ああマジで相良がいてくれて良かった。
だってそうしないと二度手間になって時間がかかっただろうからな。
「失礼します」
職員室に返して、また保健室へ。
「あ、おかえり」
「ありがとな」
どうやらまだ先生はいないようだ。
なにをやっているんだか……なんのための養護教諭……放課後はもう終了タイム?
「しゃあねえ、家まで運ぶか」
「佐藤先輩のお家知っているの?」
「いや知らねえ。運んでりゃ起きるだろ」
「お姫様抱っこで?」
「まあな、この方が色々接触しなくて済む」
正直に言ってこっちだってしたくない。
気づかれた時に恐らく殺される、例え事情があったとしてもだ。
「うぅ……ん……?」
「あ、いま佐藤先輩の家に移送中なんですけど、家ってどこですか?」
「ちょ、ちょっと……あ、えっとそっちよ」
「分かりました」
大雑把な案内だったが先輩曰く先輩の家に到着。
「相良さん、私のかばんの中から鍵を出してくれる? 前にあるから」
「分かりました」
「大武君は私を下ろして、もう大丈夫よ」
「はい」
つかなんで相良のこと知ってるんだ。
こいつ見た目だけはあれだし、知られていてもおかしくはないが……。
「ここまででいいわ、ちょっと休憩したことで楽になったから」
「そうですか、それでは」
「え……」
「ん? なんだよ相良」
まさかこっちから不満の声が上がるとは。
約束だってあるんだしもう終わったのならそちらを優先するべきだ。
「い、いや、あっさりしすぎだなって。普通『心配ですよ!』とかって食いつくところだよね?」
「でも佐藤先輩はいいって言っているからさ」
「そうよ。ふたりともありがとう、それじゃあね」
「は、はい……ちゃんと水分を摂ってくださいね。あ、ま、待ってよ篤希!」
疲れたからさっさとアレを飲みたい。
後はまあ相良に沢山飲ませてやらないとな。
「うぷっ……おぇぇ……」
「大袈裟なやつだな」
たった三杯だけだぞ飲ませたの。
それに酒ではないのだから気持ち悪くなったりはしないはずだ。
おまけにアレを飲んだ後にそんな反応許せねえ。
「相良、ちょっと付き合え」
「えぇ……ど、どこに行くの、動きたくない……わひゃあ!?」
「これで運んでやるから我慢していろ」
どうせ街中を歩くのは少しだけだ、相良が恥ずかしい思いをするのも少しだけ。
「え、ど、どこに連れて行く気なの?」
「展望台がある場所だ、少し遠いから大変なんだがな」
「そ、そんな人気のないところに連れて行ってあんなことやこんなことをするつもり!?」
「まあそうだな、あんなことやこんなことをするな」
「えぇ……」
これは罰だ、たった三杯飲んだくらいで弱々になったこいつへの裁き。
「着いた……ふぅ、お前はそんなに重くないが大変だなやっぱり」
「お、下ろして……ください」
「敬語なんて使うんじゃねえよ。ほら、そこに座ろうぜ」
そのベンチからが一番綺麗に見えるんだ。
展望台って言ってもここから更に歩かなければそれはない。
だからあくまで裸眼で見るしかないというわけだが、薄暗くなると綺麗さに拍車がかかる。
「ほら、綺麗だろ?」
「……本当にここでするの?」
「おいおい、頭お花畑かよ。これを見せたかっただけだ」
「これって、街並みをってこと?」
「そうだよ」
なにをされると思っていたんだろうか。
抱きしめられるとか? 告白とか? キスとかまあ良くないこととか?
もしそうだとしたら頭の中ピンク少女という認定をしてあげよう。
「あれ、あっくん!」
「お前……夜が苦手なんだからひとりで来るなよ」
「っと、珠奈ちゃんもいたんだ……」
「ここはいいところだからな、連れてきたんだ」
結構距離があるし行くなら俺か赤羽に同行を頼んでほしい。
なにかがあるかもしれないからな、だったら色々片付けて行動できる。
「三鈴たんはひとりで来たの?」
「うん、ここ好きだから」
「ねえ篤希、ここってもしかして思い出の場所ーとか言わないよね?」
「いや、よく来てたぞ三鈴と」
喧嘩した時なんかは俺が逆にここに逃げ隠れたことだってあった。
それで逆に行動力抜群だった三鈴が来てくれて、家に帰ったら母にボロクソに叱られて――思い出したくねえことを思い出してしまったぞ……。
「ふ、ふぅん、なのに私を連れてきて良かったの?」
「別にいいぞ。つか、見てほしいから連れてきたんだよ」
「私だって独占しようとなんてしてないよ珠奈ちゃん、それに他の人だって利用するんだし」
それでもここら辺りは人も少ない。
みんな本命である展望台の方へ行くため、時間さえ許せば落ち着くことのできる場所ではある。
「今更だけど、そのシュシュいいねっ」
「ありがと!」
「ポニーテールっていいよねえ、私も髪伸ばしたくなっちゃう」
「いやいや、三鈴たんのショートヘアも可愛いよ」
なんで切っちまったんだか。
もったいねえ佐藤先輩を見習えよまじで。
「そうかな? でもね、あっくんは長い方が好きだから」
「へえ、そうなんだ。なのになんで三鈴たんは短いの?」
「失恋しちゃったからかな」
そんなの初耳だった。
あ、いや、活発少女で男女隔たりなく接するやつではあったから周りに好かれてはいた。
告白されたのは何度もわざわざ教えられていたし断っていることも知っていたものの、こいつが誰かを好きになって振られていたというのは――いやまあいちいち言わねえかそんなの。
「それでもだいぶ伸びてきたんだよ?」
「昔は長かったの? 三年生の佐藤先輩くらい?」
「あ、うん、あれくらい伸ばしていたかな」
ポニーテール、サイドテール、ツインテール、三編み、色々な髪型だったなそういえば。
「それで翼君とはどうなの?」
「普通だよ、今日も同じ班になって調べ物とかしたし」
「そうじゃなくてあっち関連のことで」
「あ、そっちか。あれから進展はないかな」
そりゃまあ赤羽の方は告白して三鈴はいま保留中なのだから簡単には進まないだろう。
つかさっさとどちらにしても返事をしてやれよこいつ、他のところで悠長にゆっくりしている場合じゃないぞ。
「なんかね、分からなくなっちゃった。告白されたんだけどさ、どうしたらいいのかなって」
「三鈴たんも好きだって言っていたでしょ? なのにどうして分からなくなっちゃうの?」
「私が好きにというか気になった理由言ったよね? 怪我した時に運んでくれたってやつ」
「うん、優しいから気になる! ってハイテンションだったよね、その日のお昼休み」
「でもさ、それって全部篤希くんがしてくれていたことなんだよねって」
そりゃそうだろ、俺らはずっと一緒にいたんだから。
それでもいい奴に出会ったらそっちに興味が移っていくのは当然のこと。
「それにさ、家に帰りたくなくてここでひとりグズグズしていたら探り当ててくれたんだよ?」
単純に赤羽が知らなかったんだから仕方がない。
もし知っていたとしたらそれこそ誰よりも急いで探したことだろう。
「それって……」
「うん、最近のこと」
「篤希、それって」
「ああ、反応が遅れた時のことだ」
しょうがねえ、三鈴母が困っていたんだから。
しょうがねえ、それとこれとは別に大切な幼馴染なんだから。
しょうがねえ、なにかやらかしそうだったから。
恐らく事情を知っていれば相良だって同じように行動していたはずなんだ。
「まさか来てくれるだなんて思っていなかったから驚いたな……」
「ま、当てずっぽうだっけどな」
「その後は優しくなかったけど……」
「だってお前が――」
三鈴が自分の口に指を当て、口パクで「しー」と呟く。
まあ今更になって後悔しているのかもしれない、赤羽といることやめるとか冗談にしてはいきすぎてしまっているもんな。
「篤希」
「なんだ?」
「とりあえず自動販売機で飲み物買ってきて、はいお金」
「分かった。なにがいいんだ?」
「私は甘いものならなんでもいいよ。三鈴たんはどうする?」
「じゃあ珠奈ちゃんと一緒ので」
空気が怪しかったから正直ありがたい。
飲み物をふたつだけ買ってすぐには戻らず別のベンチに座って時間をつぶす。
ああいう形にしたということはふたりきりで話したいなにかがあるということだからだ。
「ふぅ……ポジティブに捉えれば取り合いみたいに見えるが、そうじゃねえよな」
結局三鈴は赤羽のところにいくだろう。
相良がどう考えているのかは分からないが、いまのままでも十分だと言える。
「あ、遅いよ篤希!」
「悪い。あっちで飲んでいたんだ、はい釣りとジュース」
「ありがと!」
「ありがとね」
「おう」
雰囲気最悪というわけでもないから幸いか。
これはあれだな、俺が思っている以上に仲がいいのかもしれない。
中学生時代からの仲だからなこのふたりは。
「篤希」
「ん?」
「私達は仲いいからね?」
「おう、知ってるよ」
もし仲が悪いのなら教室に来たりはしない、ああして一緒に話したりはしない。
ただまあ、女の似合っているとか可愛いとかはあんまり信じられないが。
「というわけで送ってください、もう帰りたいです」
「了解。三鈴もいいのか?」
「うん、ひとりじゃ怖い……」
もしかして相良が連絡したのか?
それであくまで偶然みたいに一芝居を打ったと。
こいつらならやりかねない、そんなことをしてもメリットが感じられないがな。




